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疾走せよ、乙女!  作者: えあきる
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第十一話〜ルド〜

「いよぅ、嬢ちゃんがチハヤってエルフか? 俺はルド。ドワーフとエルフのハーフだ」

 浅黒い肌に、顔には無精髭。ぼさぼさの錆色の髪を乱雑に束ねた男は、警戒心を覚えさせない笑顔で、突然現れてそう名乗った。

 彼の後ろにはカトラが居る。

 ドワーフ族と名乗ったが、私はそれに違和感を覚えた。彼らは短身だからだ。しかし、彼はハーフエルフであるせいか、カトラに負けず劣らずの長身であった。

 実は、初めてハーフエルフと出会う。

 これがハーフエルフか。

 ポカンと、しかし不躾に彼を見詰める私の頭を、その節くれ立った手で豪快に撫でた。

「わっ、ちょ」

「ハッハッハ! こんなチマいのが噂のエルフとは! よしよし、おじちゃんが飴ちゃんをあげよう!」

「変なものを与えるな、ルド。お前の汚れが伝染る」

「ひっでぇ‼」

 大袈裟にショックを受けたかと思うと、次の瞬間にはカッカッカッ、と容赦なく大声で笑った。

 私は思わずぽかんとして、カトラはジト目でルドという男を見た。

「えと、貴方がルドさん? 私に錬金術を教えたくれるって言う?」

「おう! 実はスッゲェ楽しみにしてたんだ、嬢ちゃんに会うの!」

「え?」

「この世には未だ存在しない物質を作りたいんだろ? これが楽しみにならないわけないだろ! 半分しか流れちゃいねぇが、俺もドワーフの端くれだ。新たに出来るかも知れねぇモノに心も荒ぶってしゃあねぇ!」

 そう言うルドさんの瞳は、キラッキラと星の瞬きのように、そして夢見る少年のように輝いていた。

 噂に聞いていただけだったが、ドワーフが本当にモノ作り大好き種族なのだと思い知らされる。

「あと、嬢ちゃんの……えーと、何て言ったか?」

「?」

 顎を掻きながら「あれだ、あれ」と唸るルドさんに私が首を傾げていると、カトラが代わりに答えた。

「ドラグーンのことだろ」

「そう、そいつだ! ドラグーンってやつ! この世に無い素材で出来た沈黙の乗り物! 俺はそれも見たい」

「ドラグーンですか? 良いですよ」

「よっしゃ! それじゃ早速」

「待て。いい加減に落ち着け、ルド」

 首根っこを掴み、カトラが暴走するルドを抑えた。

 ルドさんが来る。

 それを聞いたのは今から一週間前の話だ。

 その一週間に防音魔法も完成し、お陰でカトラは安眠を得ることに成功した。

 私が編み出した魔法だが、他のエルフにも簡単に使えるように考えて、あとは私が文書に纏めて方法を伝えるだけだ。

 その日からカトラは毎晩防音魔法を掛けてから寝るようになった。

 目元の隈も薄くなった為、私もその効果を実感している。

 良い仕事をした。

 その後に現れたのが、このルドだ。

 彼は、以前この里に旅に来た事があり、その時にカトラと知り合いになったそうだ。

(お酒を呑み過ぎて、路上で大きなイビキをあげて寝ていた所を、カトラが介抱したのが交流のきっかけって聞いたから、何となく想像してたけど、まんまだなぁ)

 仁王立ちで豪快にかっかと笑う姿は、野生的で、しかし本当に教えて貰えれるのかやや不安に感じる。

「で、ルド。お前は此処にいつまで居れるんだ?」

「おぅ、ざっと三日ってとこか。次はツァフォン地方にある人族の村に行くことになっちょる」

「相変わらず、忙しそうだな。悪いな、こっちまで来てもらって」

「良いってことよ! 俺とお前の仲だ! 代わりに、例のアレ、忘れんなよ」

「あぁ」

 話がついて行けず、首を傾げた私に、カトラが気付いたが「後で説明する」とこの場を濁した。

「一先ず湯浴みして来い」

「おおぅ? 臭うか?」

「あぁ、臭い」

「ひっでぇ!」

 本当に酷い。カトラ、言い過ぎじゃなかろうか。

 仲が良いとは言え、体臭を指摘するとは。しかし、ルドはあっけらかんと笑うばかり。全然気にしていない様子だ。

「んじゃ、嬢ちゃんまたな。ひとっ風呂浴びたらドラグーン紹介してくれよ」

「あ、はい!」

 荷物を背負い、がに股でルドは一人、里の大浴場へと向かった。迷いない歩みだから、勝手知ったるのだろう。

「チハヤ、ルドはあんな奴だが、錬金術の世界では結構名のある技術者なんだ。アイツに知恵を乞うて呼び寄せる国が多くあるほどだぞ」

「そうなの? そんなに凄い人なの?」

 私の問いに、カトラは迷いなく頷いた。

「アイツはドワーフの血による錬金術の才能とエルフの血による長命を得ている。ドワーフ族にとっても生き字引だ」

「……………………え?」

 そんな凄い人に私は教えて貰っちゃうの?

 大丈夫なの?

「そんな不安そうになるな。大丈夫だ。アイツへの対価はきちんとあるから」

 ポンポン、とルドとは違って優しくカトラは頭を撫でる。

「本当に? 大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。それに、あいつの対価ってのも難しいものじゃない」

「そうなの?」

「あぁ、里で出来た地酒だ」

 ニヤ、と笑って言う。

 この世界は、米よりも麦が主流である。麦酒――ビールや果実酒は流通している。しかし、米から出来た酒は殆ど流通していない。

 しかも、最近になるまで米から酒が出来ることも知らず、未だに知らない地域もあるほどだ。

 流通していないため、酒好きな者たちにとっては喉から手が出るほど呑みたい、幻の酒と呼ばれてるのだそうだ。

 それを対価とした。

 なるほど。ルドもその中の一人だったと言うわけだ。

「安くない?」

「そんなわけない。この里じゃ酒といえばあれだが、他の地域で呑もうとすると難しいし、金も積まないといけない。他にとってはこの上なく希少なモノなんだよ」

「へぇ」

「だから、お前は気にすんな。てか、嬢ちゃんが変に気を遣うな」

「も、もぅ! カトラ、ワザとでしょ?!」

 前世の成人した知識があるせいか、私は兎角子ども扱いされるのが嫌らしい。

 特に、前世の私と同い年くらいの見た目であるこのカトラとモモに対しては。

「さぁてね。ほら、今日はアイツの歓迎会だ。準備するから手伝えよ」

「む、……はーい」

 カトラとはその後別れ、私はドラグーンを閉まっている場へと向かった。

 そこは、ツリーマンションの近くにある私専用の物置だ。

 それは、私が此処に着てすぐの頃に造って貰ったのだ。

 部屋に置いても良かったが、それなら置き場を作ろう、とカトラが里に居る大工に頼んでくれたのだ。

 一日も掛からず出来たものに、私はあ然としたが、魔法で組み立てたと聞いて更に驚いた。確かに、大工と呼ぶ割にはどちらかと言うとインテリアショップのお兄さんな風貌だったので、疑心暗鬼ではあったのだが。

 物置へ到着すると、私は観音開きの扉の片方だけを開き、中へと入った。

 木の匂いがまだ残るその中に、沈黙の乗り物――その名に相応しい様相のドラグーンが、最後に見た時と同じように、地面に横たわっていた。

「……」

 ドラグーンの姿は、相変わらずボコボコだが、その見た目は当初より綺麗になっている。初めの内に汚れは綺麗に拭い取ったし、買ったばかりなので錆もない。加えて、三日に一度は手入れをしているからだ。

 見た目は酷いが、運の良いことにエンジン等の動力部分の故障は無かった。

 見た目の修復とエネルギーだけ。それさえ目処を立てれば、ドラグーンは復活する。

 思わずニヤける口の端を隠しきれず、私はしゃがんでドラグーンの車体を撫でた。

「もうすぐだから、ね」

 まるで愛しい人に囁くように、私はその無機物に告げるのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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