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ドラゴンスレイヤーズ  作者: 鈴本恭一
3/4

第三話







                  **** **** ****





 竜がどこにいるのか、魔剣が教えてくれなくなった。





 それと同時期、それまで頻繁にあった竜の襲来が、ばったりと途切れてしまった。





 ミュルツは途方に暮れた。



 必ず昇るはずの太陽が、いつまで経っても現れないような感覚。焦燥だ。おそらく恐怖と呼ばれる感情に最も近いそれをミュルツに与える、あせり。



 当て処もなく歩き回ったが、竜はどこにも現れなかった。人づてに聞き回っても、やはり竜に襲われた村の話を聞かない。人々も、ミュルツ同様に不思議がっていた。






 だが数年も経つと、国は竜のいない状況を祝うようになった。



 王も民も、自分たちを苦しめ続けた存在が消えたことを喜び、今まで奪われていた分を取り返すかのように、働き、田畑を拡げ、村を作った。



 国は確かに、蘇りつつあった。その機運がほとばしっていた。






 ミュルツを置き去りにして。





 ミュルツは、もうずっと、竜を見ていない。



 つまり、《竜殺し》も見ていないのだ。






 寂しかった。




 これが、寂しさなのだと、ミュルツは理解する。



 人間たちが、仲間が死んでしまうと、自分の心まで壊れてしまうと言う、その原因。






 《竜殺し》は、仲間ではない。人間ではない。



 ミュルツは、人間なのか?



 飲まず食わずでも苦しくなく、頭を割られても腕を切り落とされても死なない、そんなミュルツが。



 彼と唯一、行動を、否、目的を共にしたのが、《竜殺し》だった。



 それと、出会うことはない。





 竜がいないのだ。



 竜が、消えた。



 いない。







 莫大な喪失感が、ミュルツを襲った。



 いつでもどこでも独りだったミュルツが、それまで経験したことのない、衝撃的で壊滅的な、激情。





 彼は、山の奥、国境、森の中で、叫んだ。



 叫ばざるを得ないほどだった。







 そして、ミュルツはついに、自分の産まれた王城へ戻ることを決めた。








                  **** **** ****





 城は相変わらず、ミュルツに冷たかった。



 かなりの量に及ぶ竜の鱗や血を送られたはずの王から、労いの言葉ひとつ貰えなかった。



 ミュルツがいない間、彼の血のつながらない兄たちは全て病死してしまったらしい。その為、もしも王に何があれば、王位はミュルツが継ぐことになる。





 ミュルツは、理解した。



 自分は殺されるのだ、と。





 実際にミュルツを殺すことは難しいだろう、とミュルツ自身は思った。死にかねないことは自分でたいがい試している。火も毒も、ミュルツを殺すことはできない。



 だが、自分を殺したい者がいる。




 ミュルツは、殺す側から、殺される側になった。



 殺される者。領民。竜。




 竜の気持ちを想像して、できない。



 ミュルツは竜ではなかった。





 それで、ふと、思う。



 その思いつきが、妙案に思えた。彼の望みを叶える、唯一の方法だと。



 ミュルツはある晩餐で、それを実行した。







                  **** **** ****






 毒の入った杯を、呑み干す。





 食卓中の人間が、皆、彼を見ていた。



 彼が殺される、殺されそうになっていることを知っている。誰も、彼に何も言わなかった。



 死ね、でなければ、死んでも良い、と思っているのだとミュルツは思った。




 彼は、彼らの願いを叶えてやった。








 ミュルツは命じる。魔剣に。自分の母を殺した刃で、自分を刺す。







 ―――俺を、竜に生まれ変わらせろ。





 魔剣はその通りにして、ミュルツを死なせた。不死は消え、杯の中の毒が彼を殺す。ミュルツの意識はすぐになくなった。彼の体がぐらりと倒れる。





 そして、その肉体から大量の血が噴出した。



 食堂中を赤く染め、人々から悲鳴が上がる。ミュルツの肉体は脈動し、見えない何かに捏ね回されているように変形していった。手足がいくつにも曲がり、胴体と一体化。そしてその肉塊は真っ赤な、楕円形の球体となる。



 赤い球に、罅が走った。







 咆哮。







 中から、爆発するように、一匹の黒い竜が誕生した。





 竜に転生した、ミュルツだった。



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