Interlude
「これは……なんの予算申請ですか?」
「んん~、ルカとツバキにプレゼントしようと思ってねェ……」
変人の妙な言い分に、まだまだ新米の若い事務員は頭を抱えている。プレゼントを作るための予算を寄越せとは、なかなか筋の通らないことを言ってきたものだ。
普段は彼の依頼者が彼に代わって予算申請してくるので、こんなわけのわからないことは起きないのだが。
「必要でないものは経費で落とせないんですよ……?」
「絶ェっ対必要になるよォ、ルカは絶対気に入ってくれるさァ……むしろ作ってくれっていずれルカが言ってくるよォ……」
「大体、何を作るつもりなんですか、これ……」
「ペアリング」
「はぁ!?」
「冗談、冗談。フッフッフ」
ひきこもりで変人で、ちょっと気持ち悪いことで有名なエンジニアは必要以上にのけぞって笑っていたかと思えば、ぐいんと体を起こして「通信機だよ」と囁くように言った。
「形状的に、ペアでリングではあるけどねェ……」
「通信機なら、別にわざわざ新しいものを作らなくても……」
「わァかってないなァ~。ルカは耳が命だし、ツバキは今までのパートナーに比べて相当荒っぽい戦い方をするんだよ……? 安易に耳の穴に付けるインカムじゃコトが足りなくなる筈さァ……ピアス型の骨伝導スピーカーなら、ルカの耳を塞がずに済むし、荒事やっても耳ごと千切られない限り失くさないし、二人の間でだけ通信出来るようにすれば盗聴もされない。ふっ、フフ。イイコトずくめだろ?」
「確かに、そう説明されると、そう、ではありますけど……」
「だろ? だから経理班に回してよォ、その申請……いっそ、予算駄目なら代わりに有給ちょうだいよ、とりあえず自腹で作るから……ルカが受け取ったら予算申請し直すけどねェ……」
「……有給の申請は受け付けますけど……。でも、あなたどうしてそんなにルカさんにこだわるんですか? 他にどれだけエージェントがいると思ってるんですか。大体、ルカさんが今後もツバキ氏と組むとは限りませんよ」
渋々有給申請の用紙を引っ張り出しながらそう言うハンスに、デュルヴィルは「本ッ当にわかってないなァ~~~~~」と大げさに呆れたポーズをして見せた。
「自然界にあるものを超えるデザインってのは、なかなかない。だからインテリジェント・デザインなんて言い出す奴らもいる……。自然という既存のモノに勝てない人間の苦し紛れの浅知恵だよねェ……」
唐突に変人エンジニアが語りだした内容がぶっ飛んでいて、ハンスは唖然とするしかない。
「でもこればっかりは神の思し召しってヤツを信じたくなるよ。アーティスティックで人智を超えたフォルムというか、何かヤバいことが起きる前兆なんじゃないかって思う。……まァ、何か起きない筈がないよねェ……あの二人が組んでたら、さ……」
ニヤリと笑うエンジニアは、それはそれは、機嫌が良さそうだった。




