Interlude
美しい聖堂だ。
天井が高く、空間の大きさの割に窓が少ない薄暗い空間だが、夥しい量の蝋燭に照らされた、グレーと青で統一された内壁と壁画が夜空のようにきらめいている。
祭壇の奥には巨大なパイプオルガンがあり、束ねられた大量の2金属管が聖堂の雰囲気を一層引き締めている。
気温は外気以上に冷えていることだろう。
悪魔を寄せ付けない空間は、なにも十字架一つが作り上げるわけではない。空間いっぱいに満たされた人々の祈りや、誰もが罪を犯し難いと感じて自然と緊張し、同時に神の愛を感じて心が洗われる、そんな空気。物質的にも精神的にも清潔・整頓が保たれていること。それらがあって初めて教会は聖なる空間たり得るのだ。
そしてその極めて静謐な空気の中、教会の主であるアンジェリーニ神父は、祭壇に向かって跪いて祈りを捧げていた。
顔以外に一切肌を露出しない彼の姿は、薄暗い聖堂にいると物陰が作り出す闇と融け合いそうだ。
そんな彼が、不意に音もなく立ち上がる。
「何か御用かな、室長殿」
「気配は消したつもりだったが。邪魔してすまんね、イザイア」
祭壇に向かって右側の列の中程の席に、ロマンスグレーの髪の男が座っている。
「特に用はないんだが、君がどうしているか気になってね」
「ほう?」
「ルカくんは立派に育った」
「まだまだ青いが少しは使える人材に育って安心している。私が、とわざわざ手を挙げて預かっておきながら、ろくに使えないようでは申し訳が立たんからな。まぁ、なんとか後ろめたくなく《教団》に返せるのではないかと思うが」
「そんなことを言って、本当はまだ手元において世話を焼きたいのではないかな?」
「何故そう思う?」
「彼にツバキをあてがわれて、本当は面白くないのではないかな、と思ってね」
「……どういう意味か、わかりかねる」
「上も馬鹿じゃないし、君がルカくんに並々ならぬ情を抱いていることくらい、私にもわかる。それだけのことさ、イザイア」
「生憎だが、彼らの人事に関して、特に私に不都合なことなどありはしない。そして、私も馬鹿ではない。何ら心配は要らんよ。我が子可愛さに人材の横取りなどするつもりはない。ブラザー・ルカは聖職者にも適性があるとは思うし、人並みに親子の情はあるがね」
「ふむ。では私の勘違いかな。三十年近く君と仕事をしているが、未だに君の腹の底は知れないな」
「なに、そんなに勘繰らずともそう複雑なことは考えていない」
「どうだか」
笑い合いながら、室長は席を立ち、聖堂を出ていく。
残響がなくなった後の聖堂は、空気に肌を切られそうなくらいの静謐さを取り戻した。




