プロローグ
是非楽しんで読んでいただけると幸いです。
誤字・脱字・おかしな点が御座いましたら指摘お願いします。
2020年、日本で大地震が起きた。その大地震のせいで開発中の街が崩れ去り荒廃した。そして大量の浮浪者が出来てしまいその荒廃した場所に寄ってきてしまった。そしてそこは日本で唯一のスラムとなる。
『ごみ溜め』世間ではそう言われるようになってしまった。それからの日本は大地震の影響で貧富の差が激しく、そして異能者と呼ばれる者が出てきた。それにより更に浮浪者が多くなり『ごみ溜め』に寄ってくるという始末だった。
異能者が次々に生まれてしまい政府はそちらの対応で精一杯で『ごみ溜め』の方は後回しになった。
大地震が起きてから50年が経った。日本では貧富の差が如実になり身分の差ができた。そして異能者は政府が管理しやすいように異能者の学校に集められていた。貴族、平民、貧民。様々な者がだ。ただ『ごみ溜め』で生活する者は人権がないに等しく、そもそも政府の手が回っていない。だからそこには浮浪者もそうだが犯罪者も集まっていた。
~2070年 3月 2日~
浮浪者は今の世の中何万人いるだろうか。今の世の中は腐りきっている。いや正確には今の日本が腐りきっている。
いつもこうして考えることしかない。それ以外にここですることと言えば飯を探しに行くことだけ。何もすることがない。
周りを見回しても荒廃しきった街並。崩れかかったビル、デパート、遊園地。何処を見てもマシな部分などありはしない。ここはそんな場所だ。
食べ物も時々外から来る物やもしくは生きている動物を捕まえて焼いて食う。無かったら他者から奪ってまで食べる。強者が正しい。力が全て。無秩序な世界。
「ギャハハハハ。今日の飯は上物だぁぁぁぁ!!!」
はっ。馬鹿な奴だ。ここら一帯でそんな大声を上げてみろ。他の奴等が群がってくるに決まってる。
「おい。今の声はお前か?」
「ひもじいなぁ。俺にも分けてくれよ?ヒッヒッヒ」
「な、何だ!?お前らは!?」
言わんこっちゃないな。もう既にあいつは負けだ。直ぐに逃げなきゃ囲まれて終了だ。多分あいつは新参者だったのだろう。じゃなきゃここでそんなへまをする奴はいない。
「おい?こっちは聞いてんだぞ?答えろや!」
「がはっ!」
あれはもう駄目だな。完璧に蹴りが鳩尾に入りやがった。暫く息が出来ない。まぁあんな奴等のことはいい。オレも何か飯探しの続きに行こうじゃないか。
ん?こんな所に珍しく身なりがいい奴がいるな…
一体何処のどいつだ?それよりもどうやって此処まで無傷でやって来れた?何故だ?
オレは警戒心を高め遠くに見える男を視界に入れておく。ここで凝視をしてはいけない。相手が強者ならそれだけで相手に気付かれるからだ。
自然体を装って違う場所に向かう。しかし男はオレの方を見るとこちらに向かって歩いてきた。
何だ?殺気も悪意も感じられない。ここでは珍しい視線だった。
男が無視できない距離まで迫ってくる。ただ男が何を考えているか分からない以上いつも通りの対処を行うことにする。
男が間合いまで入ってきた。オレの間合いは2mとちょっとだ。そこまでは一足で間を詰めて確実に仕留めることができる自信がある。
だから今回もそうして間を詰め、利き手と思われる右手を取りながら、足をかけて転ばせる。それを一瞬で行った。
男は何をされたか分かっていないだろう。急に視点が反転したのだ。理解できていたら反応している。
「流石は彼の子だね。にしてもこんな手荒い歓迎を受けるとは思わなかったんだけど」
彼の子?それはオレの親父のことを言っているのか?それとも人違いか?それにしては冷静すぎるから多分前者であろう。ただオレの親父の知り合いにこんな身なりがいい奴がいるとは思えないが。そもそも友人がいるとも思えないのだが…
何よりもまずは情報が必要だ。そう思いオレは押さえ込んでいる男へ聞き返した。
「何を言っている?お前は誰だ?」
「おっと。落ち着いてくれ。私は怪しい者じゃあないんだ」
怪しい者じゃないと言う奴程怪しい者だと思えるオレは間違っているだろうか?
そんな考えは頭の片隅に置いて回答を促すことにした。
「いいから早く質問に答えろ。じゃなければこのまま右腕をへし折るぞ?」
「わかった。わかったから、言うよ。私は君の父親の友人である工藤稔だ」
くどうみのる、か…
親父の友人と言ったが聞いたことも無い名前だ。さっさと用件を吐いて貰おう。オレも腹が減っているから昼飯を探しに行きたいのだ。
しかしここで功を急ぐのは三流のやることだ。二流なら油断せずにただ淡々と情報を聞き出せばいい。だが一流ならばわざと自らの隙を見せ相手を油断させてから一気に喰い潰す。
オレが選ぶのは勿論一流のほうほ──っ!!
「いやー、凄いね。流石彼の息子なだけあるよ。君のその力や経験はもう私よりも上だろうね」
稔は押さえられていた手を「イタタ」とわざとらしく見せながら対峙していた。
オレはまだ油断なく押さえていたのにこの男はオレの拘束を外しやがった。
何者だ?ここら一帯でオレの拘束を外せる奴なんて片手で足りるぞ?
警戒のレベルを一気に跳ね上げた。この男の前で余計な思考は駄目だ。それをするなら相手が動けなくなってからゆっくりと考えよう。
オレがそれを決めて動き出そうとした瞬間だった。
『ストーップ!!止まって!止まりなさい!』
いつものオレなら絶対に止まりなどしないが、今のオレは止まってしまった。そう、まるで金縛りに掛けられたかのように止まってしまったのだ。
「やっとか。長いなー。本当ならもっと早くに終わってる筈だったんだけど君があまりにも強いから本気で使っちゃったじゃないか」
ケラケラと楽しそうに笑いながら稔は距離を縮める。その距離が恭夜からあと一歩の距離まで近付いていた。だが稔はそれ以上近付く事は出来なかった。
それは恭夜から半径1mくらいの大きさで電気に恭夜が覆われていたからだった。
よし。動きは止められても異能までは止めれなかったようだ。これで一撃で仕留めることが出来るだろう。
オレは思考と、異能までもが止まらなかったことに感謝し一撃で目の前の男を葬ろうと行動しようとした。だが、またしても男に止められてしまった。
「はぁ。本当に彼の息子は凄いな…。降参だよ。ただ私は用件を伝えに来ただけなんだ」
稔は両手を頭の位置まで上げて溜め息を吐きながら両膝を着いてしゃがんだ。これは抵抗はしないと言うことを示しているのだがここの住人に対して適切な方法かと問われると否である。
けれど稔には何か確信があったのだろう。この子は不必要に人を殺さないという確信が。
それは正しかった。恭夜は無駄な殺生は好まない性格だった。そしてそのお蔭で、いや、そのせいで彼は様々な問題に巻き込まれてしまうことになる。
オレはすぐに殺そうとしないがさらに警戒して、いつでも殺せるように準備をしながら首を軽く動かし男に話の続きを促した。
稔は殺意を向けられていないことに気付き、すぐに殺されないことに安堵するがそれを面にださず、気楽にあっさりと用件を告げた。まるでショッピングに誘うように。
「学校に通わないかい?」
オレは初め何を言われたのか分からなかった。だが、今の退屈な日々から脱け出したいと思う自分がいることだけは分かっていた。
だから逆に問う。
「その学校とやらは今の退屈な日々よりも面白いものなのか?」
それを聞けた稔は飛びきりな笑顔を見せて返した。
「ええ。それは勿論!…………ただしそれは君の頑張り次第でもあるけど、ボソッ」
最後の方はなんて言っているか聞き取ることが出来なかったので訝しげに男を見るが男はただ笑みを浮かべているだけで表情から何かを読み取ることも出来なかった。
出来ないことばかりで普段の自分なら絶対に頷かない状況であるはずなのに何故か今の自分は刺激を求めていたのか男の提案に乗りたいと考えてしまっていた。それで良いとか悪いとか考えずにただ答えた。
「オレを学校とやらに通わせてくれ」
全てが上手く運べた稔はホッとしつつも最後まで油断の無い姿勢で笑いながら返す。
「ええ。約束しましょう」
ごみ溜めと呼ばれる場所で育った霧島恭夜は学校に入学し誰と出会い何を思うのか。そして何が起こるのか。これは『ごみ溜め』という底辺な場所、出身の霧島恭夜を中心とした物語である。
表現を変更しました。
富豪→貴族