叙勲式
騎士道、それは命を賭して姫君をお守りすること。
僕は幼少期から義父にそう教え込まれてきた。
それが出来ない騎士は騎士ではない。
騎士の命は姫君の前に捨てるためにあるのだと。
その掟の通り、僕の命は、姫君の前に捨てたって構わない。
但し、もうひとつの僕の使命、
実の父が僕に託した使命を果たした後であるならば......。
叙勲式の始まりを告げる喇叭が鳴る。
青い空に高くはためく騎士団の旗。
城前の広場に僕達新任の騎士が一列に並んでいる。
鍛錬の厳しさを示す傷をあちこちに残して、僕等は正式に騎士となれる瞬間を心待ちにしていた。
騎士団長、軍務大臣、国王などが代わる代わる祝辞を述べる。
その度に、あの言葉、
騎士道、それは命を賭して姫君をお守りすること。
という掟が読み上げられる。
無論そのつもりだ。
命を賭すことに何の躊躇があるものか。
でも、僕は、まだこの国の姫君をこの目に見たことがないのだ。
城の使用人達の口などから、美しい、とは聞いている。
だが、城の姫君を醜いなどと言える奴があるものか。
美しいとしか言えないものを、判断するわけにはいかないのだ。
美しくなければ、命を賭すことに躊躇のあるわけではない。
ただ、見たこともないぼんやりとした幽霊のようなものに、
命を懸けるというのは、心の据わりが悪い、それだけだ。
そのようなことを考えていると、突如、喇叭の激しい音が鳴り響いた。
「姫君による、宣誓の式!」
騎士団長が号令を掛ける。
淡い色の薄絹がとりどりに重なった白い木の輿が、ゆっくりと広場に運ばれてきた。
「ソエル姫だ......」
新任騎士の1人が小声で呟く。
新任騎士はまだ誰1人としてその姿を見た者は居ない。
隣の騎士から、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
白い輿を覆っている淡い布が、さらりと音も立てずに開いた。