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9月14日午後7時4分 警部 「京谷 唯継」 山中にて荒れ狂う

 私はこの娘を侮っていたのか?あの娘の母親、私の愛する妹の罪をなすりつけたのは間違いだったのか?


「沙織、お前が母親思いだってことはよく分かった。母さんの罪を隠し通そうとしたんだな?だったら私ではなく、お前が……」


「ふざけるな狸親父が。お前が罪を被れば全部済むんだよ」


 確かに、どちらかが罪を被らねばならない。しかし私はごめんだ。


「大体母さんが狂ったのもアンタのせいじゃないのか?」


 何を言い出すんだこのガキ。


「アンタ、実の妹相手だっていうのに母さんに欲情してたでしょ」


「何言ってんだ小娘が……」


 何でお前そんなこと知ってるんだ。おかしいだろう、何か手を出したならともかく、私はあいつに何もしていないんだぞ。


「分かるよ。近しい相手にはすぐに分かるの。本当にアンタ気持ち悪かったから」


「言いたい放題言いやがって!お前に何が分かる!」


「分かるよ」


 既に外は暗闇で、小屋の中の様子なんて分かるはずがない。だというのに私には分かった。このガキはにやけていた。


「おい、まさかお前」


「私だってね、大好きだったんだから。どんなに愛したかは……教えられないけど」


 こいつが元凶だ。この娘の母親が思い詰め、遂には狂って家族を殺したのは。呪われてやがる。お前だけは許さない。


 気付けば、私は小屋の中に入ってナイフを振り回していた。殺してやる。こいつさえ居なければ証拠なんていくらでも誤魔化せる。妹は罪なんて犯しちゃいない。俺だって。


「ぶはははは!当たらねえよバーカ!」


 背後から雨音に混ざり声がした。気が付けばあの娘は暗闇に乗じて入口まで逃げたようだ。


「森の中にさえ入ればもう見つからないから!じゃあね叔父さん!」


 勝ち誇ったかのように彼女は高らかに声を挙げ

 そのまま入口から外に出ようとし

 入口に引っ掛かるように置いたシャベルに足を引っ掛け

 音が出る程彼女は転んだ。


「本当に!夜になると足元が御留守だな!」


 所詮は小娘だ。私はすぐさま沙織を取り押さえる。


「さっきしゃがんだときに念のため置いといたら、本当に引っ掛かるとはな!」


 取り押さえたはいいものの、この小娘が何をするか分からない。取りあえず、動けないように殴ることにする。


「よくもやってくれたな、ええ!?」


 沙織はもう何も喋らないが、そんなことは構わない。ひたすら殴り続ける。


「なんでナイフとシャベルを持ってきたかというとだな!シャベルはお前を殺すのと地面に埋めるためで!ナイフはお前の皮を剥ぐためだよ!」


 皮を剥ぐ、という言葉に沙織の体が強張ったの感じる。


「お前が犯人だっていう証拠をでっちあげるために、お前の指の皮から指紋を取る予定だったんだよ!でもお前には腹が立ったから全身の生皮剥いでやるからな!」


 その言葉を聞いて、沙織はじたばたと暴れ始めた。無駄だというのに。


「先に殺してもいいけどな、生きながら剥いでやるか!よかったな、少し長生きできるぞ!」


 長生きできるぞ、という言葉は川の流れる音にかき消された。気付けば私と沙織は濁流に飲み込まれていた。


「何、で!?」


 誰も答えるはずはないと思っていたが、律儀に沙織が答えてくれる。


「堤防を2つ作ったに決まってんだろうが!何日前からここで潜伏してると思ったんだよ!」


 知ったことか!それよりも、クソ!タイミングが良すぎやしないか。


「堤防さえ、このタイミングで壊れなければお前だけ殺せたのに」


 今まではなんとか踏ん張って流されないように堪えていたが、どんどん水かさが増している。私は流されないように小屋の扉にしがみついた。と、同時に沙織も私の足元にしがみつく。


「運がいいだけのガキが!離せ!」


「教えてあげるけどね」


 沙織の声はまるで死に目に合いかけているとは思えない程冷静な声だった。


「お前が来るのに合わせて堤防を壊したわけでも、運が良かったわけでもないから」


 何を言ってるんだ?沙織は足にしがみつきながらも、嫌な笑みを浮かべながら語りかけてくる。


「いい?私はね、堤防が壊れる時間に合わせてアンタを呼んでやったの」


 今まで察しが悪かった私にも、今回はタネが分かった。


「署へのタレコミも、マスコミに情報を流したのも、全部お前か」


 中華料理店での出来事を思い出す。一体誰がマスコミに情報を漏らしたのかと思ったが。


「そう、昨日署に連絡して、今日マスコミに情報が届くように手配すれば、明日までに事を片付けようと思うでしょ?アンタなら」


「時間は?」


「どうせアンタ、定時後に山を登り始めるでしょ?」


「分かった、私の負けだ」


 狂ってやがる。こいつも。そして。


「お前も負けだ」


 私も。私は扉から手を離し、後はもう川に流されながら死ぬまで好きなことをすることにした。

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