表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

9月14日午後6時32分 警部 「京谷 唯継」 山中にて

 あの娘は当然事実を全て知っていると思ったが、では何故この山中に潜伏しているのだろうか。元の生活には戻れないにしろ、遠くへ行けばまだ逃げ切れる可能性はあったはずだ。それとも何か勝算でもあるのだろうか。いやまさか。事件に関係する物的証拠でも出すつもりなのだろうか。


「あるはずがない」


 そう、そんなものあるはずがない。あったとしても上手いこと握りつぶせばいい。幸い署内での俺の立ち位置は悪くない。それにここで事が済めば、証拠があろうがなかろうが、他に企みがあろうがなかろうが関係ない。あいつに余計な真似はさせない。


 でもそうなると、わざわざ来婆市に戻ってきた理由が分からない。


「多分……用があるのは俺だろう」


 そう、あいつの目当ては俺だ。それは分かる。

 もちろんこの土地に俺以外の身内がいないというのもあるが、この山中に隠れるということ自体に実は意味がある。

 あいつは俺を誘っているのだ。昔一緒に遊んだこの山に潜伏していること自体、私に対する挑発に他ならない。


「いいぞ、乗ってやる。ただし」


 あの娘が何を考えているか分からない以上、悪いが殺すしかない。愛する妹の忘れ形見かもしれないが、同時にあの男の娘でもある。同情はしない。


 さて、あの娘の居所だが、そっちも見当は付いている。これから嵐になることはあいつも知っているだろう。天気予報など見なくてもこの地域の人間ならそれぐらいは分かる。ならば屋外にいる可能性は低い。


「嵐の山中に潜むのは無理がある。なら小屋か何かで雨宿りをしたいはずだ。しかし近辺に小屋は1つしかない。見つけるのは容易い」


 私はドアノブに手をかけた。


「しかし、誘っている側にそれが分からないはずがない。だから何かしら細工を仕掛けていると考えるのは当然だ。そうだろ、沙織?」


 私は、あの娘が隠れているであろう小屋のドア越しに尋ねた。すると当然のように声が返ってくる。


「びびってるの?とりあえず中に入って話でもしようよ」


 やはり小屋にいた。しかも露骨に中に入るよう誘っている。罠でも仕掛けているのか。しかしここまで露骨だと逆に入って欲しくないんじゃないかとさえ思う。だが実はその逆で『素直に』罠を仕掛けている可能性もなくはない。


「嫌だね。沙織、叔父さんのことヤる気満々だろ」


 と、言いつつ私はドアを開けた。何か企んでいるにしろ相手はどうせ小娘だ。やることの程度は知れている。


「嫌だけど開けてやったぞ!」


 ドアを開けると中は真っ暗だ。それはそうだ、暗闇の方が向こうにとって都合がいい。そこはどうでもいい、問題は別にある。

 ドアを開けた瞬間、何かが切れる音がした。そこが問題だ。つまり、あの小娘が本当に罠なんかを仕掛けてきたのだ。私は反射的に後に引いた。もし横からの仕掛けならこれで避けることができるが。

 ドアと繋がっていたワイヤー(紐?)は私の正面に伸びていた。多分後ろに引いただけでは避けられないだろう。

 そう考えた刹那、前から白く光るものが飛んできた。器用な娘だ。自動的にナイフが飛んでくるよう仕掛けたんだろう。


 大体私が思っていたレベルの罠とはいえ感心する。私は持っていたスコップを顔の正面に構えた。

 ゴワン、とスコップが鈍い音を立てる。やはり、向こうも私を殺す気だ。


「良い度胸じゃないか、叔父さんにナイフを放るなんて」


「そっちこそ、よくも平気な顔して来れたね」


 小屋の中が暗いため正確な位置は分からないが、声の方向から大体の位置は掴めた。後は引きずり出してやるだけだ。その前に、沙織の希望通り少し話しでもしてやろう。


「それはこっちの台詞だ。よくも家族を皆殺しにしたな」


「何回も言ってるけど」


 沙織が一呼吸置いて、再び口を開く。


「私は犯人じゃない」


 ああ、もちろん知っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ