9月14日午後5時頃 殺人犯「長谷川 沙織」 夕飯
私が筋金入りのお嬢だったのも今は昔。数カ月に及ぶ逃亡生活の果てに、私は食に関しては随分逞しくなったと思う。(当社比ではあるけども)
現在では野外に生えている、よく分からない植物でも平気で口にできるようになった。もちろん好きで食べているわけではないのだけれど、それでも今日は何かしらお腹に入れなければいけないと思ったのだ。何せこれから警部の叔父と殺し合いだ。いざというとき力が出ないのでは話にならない。
いざというとき……。
私は何気なくその言葉を思い浮かべ、よく分からない雑草をしつこく口の中で噛みながらふと外の様子を見てみた。
まだ明るいというのに、空の色が黒い。天気予報通り今晩は荒れるな。下手をしたらあと一時間程で大雨になるだろう。そうするとこのあたりは大丈夫だろうか。というのも、近くに川があるのだ。もしこのまま土砂降りになったらすぐさま氾濫してしまう。安全性を考えたら、もっと山奥の方に行った方がいいのかもしれない。
それに、ここの川は正直不気味だ。この年で民話とか言い伝えとか、そういうのを気にするのも恥ずかしいが。
そうだ、こんなこと気にしている場合ではない。もし山奥に行き過ぎた場合、あの叔父が私を探し出せなくなってしまう。かといって人里に近すぎれば捕まってしまう。
正直この小屋に潜伏するのがベストだ。それに叔父をもてなすための準備も散々してしまったのだ、もう後には退けない。
「よし、後は手筈通りにいきますか」