9月14日午後3時27分 警部「京谷 唯継」 中華屋「朋竜」にてテレビを見る
遅めの昼食を済ますため、駅前の中華料理店に入る。駅前と言ってもド田舎の駅前だ。大した料理を出す訳でもなく、今にも潰れそうな、地元民しか来ないような店だ。だから当然、そこには知った顔がいくつか見えた。普段なら声の一つや二つでもかけるんだが、状況が状況だけに、今日はこちらから声をかければ却って相手も困りそうだ。正直、店の選択を間違えたと思う。
「……注文は?」
店主もどうやら私の状況を把握しているらしく、いつもより声に覇気がない。
「冷やし中華」
気を遣っている相手に、無理に大声を出しても余計に申し訳なく思うだけだ。私は必要最低限の情報だけ伝えると、すぐさま視線を店のテレビに移した。
「現在、台風18号の進路は東北のままです。今晩、東北地方を激しい暴風雨が襲うでしょう。警戒を怠らないよう注意してください」
暴風雨。確かに山登りには少し不向きではあるが、今晩の私にとっては好都合だ。
「……続いて、S区一家惨殺事件です。事件の容疑者である一家の長女、長谷川沙織がA県来婆市に潜伏しているとの情報が入りました」
「チッ……」
ついニュースを聞き、舌うちが出てしまった。私が不快に思ったと考えたのだろう、店主はすぐさまリモコンでテレビのチャンネルを変えた。
もちろん、当事者である身としては不愉快極まりない内容ではあるが、しかし、舌うちをしてしまった理由はそこにない。
私が舌うちをしたのは、事件の詳細がマスコミに流れていることだ。あの娘がここ来婆に来ているという情報は、ごく一部の人間しか知らないはずだ。つまり警察内に、マスコミへ情報を売っている者が確実にいる。そのことに私は腹を立てた。
「……」
……まあいい。いずれにしろ、やるなら今日しかない。マスコミが我々警察に張り付く前に片は付く。念のために定時後に山へ向かうことにしよう。いや、それよりも今は冷やし中華を腹に入れることが先決だ