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卵のおはなし

作者: 徒耀子

 ○ちゃんのお父さんのお母さん――つまり、おばあさんです――が亡くなりました。お葬式が終わったあと、家族みんなで、おばあさんの家へ行きました。おじいさんはだいぶ昔に亡くなっていて、おばあさんがひとりで暮らしていました。住む人がだれもいなくなったので、片づけないといけなかったのです。

 ○ちゃんが縁側でお絵かきをしていると、お母さんがやって来ました。卵をひとつ持っています。

「おばあちゃんが、あげるって」

 卵を受けとりました。卵の殻には、文字が書いてありました。

「割らないで」

 ○ちゃんが読みおわると同時に、お母さんが言いました。

「明日の朝ごはんに、目玉焼きにしてあげる」

 でも、割らないで、と書いてあります。目をぱちぱちさせて、お母さんの顔を見ました。

「それはね、卵はとても壊れやすいものだから、使うまでは『割らない』ように気をつけなさい、ということよ」

 お母さんは笑っています。お父さんもやって来て、言いました。

「おばあちゃんは、おいしいものを見つけるのが上手だったからね。きっと、おいしい卵だよ」

 ○ちゃんは、卵を隠すことにしました。

 おもちゃ箱をひっくり返して、中身を全部出しました。床の上に、いろいろなものが散らばります。

 そっと、卵を置きました。ころん、と卵は横になります。おもちゃを入れたら、割れてしまうかもしれません。キッチンからタオルをもってきて、くるくると、くるみました。

 うん、これで、だいじょうぶ。

 ひとりでうなずき、しずかにしずかに、ゆっくりと、慎重な手つきで、おもちゃを箱のなかに戻しました。

 次の日になりました。卵を無くしたというので、○ちゃんは、お母さんに怒られました。

「おばあちゃんが、せっかく、あなたにくれたのに。おばあちゃんが、お空の上で泣いていますよ」

 お母さんは、おもちゃ箱のほうを、じろり、と見ました。

 ○ちゃんは、ひやり、としました。

 お母さんの眼は、つりあがっています。

「だらしなくしているからよ。お片付けしなさい!」

 卵は助かりました。

 おうちへ帰ってくると、○ちゃんは、お母さんお父さんが見ていない隙を狙って、おもちゃ箱から、そおっと卵を取りだし、タオルをはずして、卵が割れていないかどうか、確かめます。

 どうして、割ってはいけないんでしょうね?

 この卵は、何なのでしょう?

 ふつうの卵じゃないんでしょうか?

 お店に行くと、棚に並んでいる卵と、同じに見えるんですけどね。

 卵をもらって、何日か経った、ある日。○ちゃんが、いつものように、よくよく気をつけて、おもちゃ箱をひっぱりだしたら――

 なにか、変です。

 くるくる巻いたタオルが、丸くないんです。

 胸がどきどきしました。汗が出ます。

 なんだか、こわい。そう思いましたが、確かめないわけにはいきません。

 そおっとそおっと、タオルをもちあげて、はずしていきます。

 卵の殻のかけらが、ころり、と出てきました。

 割れてしまったんです。

 びっくりしました。ショックがすぎさると、悲しくなってきました。涙が目にもりあがります。しくしく泣きました。

 鼻をちん、とかみます。

 あれれ? なにか、聞こえますよ。

 ピイピイピイ、ピイ

 おもちゃの中から、小さなふわふわの、黄色いひよこが、ぴょこん、と出てきました。

(終わり)

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