天然たらしの鎖(チェーン)
百合(GL)ではないですが、濃い目の友情ものです。
【私と悪魔気取りの娘】
一期一会。
一度手にしてしまったら、もう戻れない。
***
離さない、離さないからね。離したくない、離したくないんだよ。
もし縛めを解いたならば、その瞬間、君はきっと駆け出して行ってしまうのだから。私の全てが届かないどこかへ。
だからしっかり捕まえて、ずっとずっと囲っておこう。ずっとずっと傍に居させるために。
嫌なら嫌と言って。そうしたら、私はきっと手を離すから。君にだけは嫌われたくなくて(離れてほしくなくて)、相反する想いの板挟みから抜けられないまま、きっとこの手を離すんだ。そう、私は腹に決めている。終わりは潔くしたい。
なのに。なのに、君ときたら!
「スピカ、もう起きなさいよ」
「スピカ、そろそろお昼にしない?」
「スピカ、買い物に寄りましょ」
「スピカ、ちょっと属の集会に出てくるわね」
「なに、寝ないであたしを待ってたワケ? スピカの甘ちゃん」
がらんじめにしようと企んでいる私の手なんてあり得ないみたいに、執着されて囚われて囲まれていることを意識すらしない。(賢い君だもの、わからないはずはないでしょう?)
まるで片手が繋がれていても、まだもう片方の自由があるのだと言わんばかりに。そう言いたげなことは明らかなのに。
やっぱり君ときたら。
「アンタはあたしだけの友達。そうでしょう? そうよね?」
縋るような双眸。溺愛されている猫のような甘えた声。ごくまれかつ唐突に、彼女はそんなことを聞いてくる。
答えなんて最初から一つしか用意されていない。そういう決定事項になっている。いや、別に決まり事なんて作っていない。確かに文句無しの合格点ではあるけれど、それを強制される理由はないし、履行する義務などありはしない。
でも君の笑顔をずっと見ていたくて(保持していたくて)、私はいつだって同じ言葉(そうだよ、当たり前じゃない)を繰り返している。(猿芝居だと笑われたっても平気だよ! 客なんて居ないけど)
ありがとうなんて言葉なんて要らないよ。別に感謝されるようなことは何もしていないんだもの。
「スピカ」
名前を呼ばれるたび、繋いだ手はますます我が侭になっていく。嬉しい。嬉しいよ、光梨。
大事なものを絶対手放すものかという、想念が胸の最奥でどろりどろりと渦巻いている。時折ちくりと心のどこかが痛むことがあるけれど、些細な程度だから気付かないふりをする。
――スピカ。
いつも、他の誰でもない、私を頼り、求めてくれるあの子。
その声と笑顔に私は、幾度となく救われているよ。