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夕闇の彼方へ  作者: 犬公
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第九話:泊まり夜

 確かに、王都への道のりは、ヘンズさんがくれた地図の通り、困難が予想された。

険しい山脈、それにアジズやシリルが見たことのない巨大な砂地――『砂漠』――が広がっている。

しかし、3人には不安はなかった。きっと乗り越えられる気がした。

 出発は日が明けてからに決まった。アジズら二人は泊めてもらえるようだ。

 夕食の支度はやはり女の子、ヒナが整えてくれている。

ヘンズさんは、ヒマそうなアジズたちのために、あるスイッチを押した。

「何です? これは」

「ふむ、やっぱり知らなかったか……。これは、遠くの“世界”の様子を映像や音声として、同時に見たり聞いたりできる、すごい道具さ。こっちじゃ結構、普及してるんだけどな」

 シリルの好奇心がえぐられる。

「す、すごいっ!! これはどこかの映像なんですね!? ……どうやってコレで映し出してるんだ? ……ヘンズさんっ!!」

 アジズは、ヘンズさんのおもしろ特ダネがシリルの専門特許になってしまったので、ひとりとり残されるようにヒマになってしまった。

「ったくー、いいよなぁシリルは。ああいう話がわかって……」

 アジズは仕方なく、――ちょっぴり気になることもあって、――ヒナのいるキッチンに行ってみることにした。

 

「おおっ、ヒナもなかなかやるじゃんっ」

 完成した一品を見て、アジズは言った。「あっ……アジズさん」

「アジズ、でいいよ」

「えっ、じゃあ……アジズっ――……さん……」

「変わってねえなぁ……」

 アジズは何だか嬉しかった。こう、ヒナと話すだけで。

 ヒナは、ほほを赤く染めて微笑んだ。

つけ合わせの一品づくりに集中はしているものも、やはり、アジズが気になるらしい。照れながらも、どうにか完成させた。

「オレ持っていくよ」

 アジズは、皿に手をのばしながら言った。

「えっ、……ありがとう……」

「ヒナは素直でいいよなぁ。オレも見習わなきゃ」

「そんな、わたしから見習うことなんて……」

「結構あるもんだぜ?」

 アジズは、ほっかほっかの料理をテーブルに並べていった。

ヒナの手は、自然と胸にあてられていた。

 

 

 

 

「んーー、なかなかいけるじゃないか。――んや? ヒナ、これは……この赤いのは何だ?」

 シリルは、知らないモノには相変わらずであった。

 シリルは、先程ヘンズさんが見せてくれた『面白いもの』の理屈が分かって、上機嫌であるようだった。

ただ、心残りがあった。

「ヘンズさん、あの装置は僕とアジズにとってはあまり有効じゃないみたいですね。婦人の件同様、言葉が聞き取れない」

「うむ、おかしなことだ。……オレにはアンタたちの言葉で話しているように聞こえるんだが……、無理かい?」

 シリルは頷いた。

アジズには、その装置の中に小さな人が立っていて、何かを話しているように見えたが、やはりアジズも、何を言っているのかは分からなかった。

「まあ、今夜はゆっくり休んでくれ」

 ヘンズさんは穏やかに言った。

 テーブルの真上にある、『電気灯』に同じ『光』の明かりが、ほんのり黄色がかって、4人を外の闇から守ってくれていた。

 

 

 

 

 ヒナはお風呂に入るということである。

旅に出発すれば、やはり、入れない日がほとんどだろう。今夜はちょっぴり『なが風呂』である。

「お二人さん、のぞきに行きたいんじゃないの?」

「ヘンズさんのバカっ……」

 アジズは何となくだが怒っていた。

アジズとシリルの二人に限って、そんなことはない。

……二人とも、なぜか異常に紳士である。

 床につく前のゆっくりできる時間に、旅に出る3人組は、ヒナの部屋に集まった。

「服、どうしようかな……」

 ヒナは、独り言のように小さくつぶやいた。

「えっ? 服、何種類もあんのか?」

 聞き取ったアジズが言った。ヒナはどきっとした。

「う、うん……」

「すげえな。オレたちの“世界”じゃ、服って高いからなぁ」

 アジズの言葉に追加とばかりにシリルが続ける。

「すべて手作業だからな。……こっちの方では『電気力』を活用して、生産性を上げているらしいから、やはり差が出る」

 ヒナはいくつか取り出してみせた。

……『鮮やか』なピンクなどは、アジズたちの暮らしではめったに見れない。

「これなんかいいんじゃねえの?」

 アジズが指さしたのは、そのピンク色のものだった。『フード』つきの『トレーナー』。やはり珍しかった。

 しかし、ヒナは少し困っているようだった。

「その服、まだ一度も着たことなくて……」

「どうして?」

 アジズが聞いてやる。

「その……、派手かなって……」

 どうやら、買ってきてもらったのはいいが、ヒナにはちょっと着る勇気がでない『しろモノ』らしい。

「そっか……」

 アジズは肩を落とした。まあ、そこまで気にはしてないようだが……。

 シリルは少しばかり、ヒナに『つけぐち』した。

アジズが他の服を見ている間に、こっそりと。

「……アジズは母親を亡くしててね。その母親の好きな色がこの色だった、て訳さ」

 ヒナはそれを黙って聞いていた。

 アジズは、どの服も良さそうなので、困惑困惑だった。

「いつの間にか、オレが無理やり決めようとしてたみたい……。やっぱヒナの好きな服を着て行くのが一番だよ。勝手なこと言ってゴメン……」

「いや、そんなことないよ……。嬉しかった……」

「――えっ?」

「ううん、何でもない」

 アジズは、ヒナが――ちょっぴり恥ずかしそうに――微笑んでくれていることが、何よりも嬉しかった。

ここまで見て下さった方は数少ないと思います……。だからこそ、数少ない読者さんのために、頑張りたいと思います!

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