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夕闇の彼方へ  作者: 犬公
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第十六話:アジズの行方

 

 目的地に着いた三人の前には、あまりに寝静まり返った多くの三角テントがあった。

 シリルは人影がないことに多少の不気味さを感じ、ケーリーさんは人気がないことに薄暗い恐怖を覚えたようだった。


 そんな中、サチはひとり後ろを振り返り、目を細めた。

 アジズたちを襲った砂塵は、ここから眺めると、やけに遠くにあるように見えた。

それに、近くにいたときに体感したあの唸るような轟音は、不思議とおとなしく黙しているように感じられた。


 まるで世界が切り離されているようだ……。

 サチは自分の小さな胸の中が不安で満たされていくのを感じた。


「変だ、誰もいない」

 テントの中を一つ一つ覗いて回っていたケーリーさんは、この妙な事態を前に幾分落ち着いていた――どこかの神を崇めるような目をしている。


「……僕たちは、これからどうすれば良いのでしょう」

 シリルの問いに、ケーリーさんは我に返ったように振り返った。


「君はだいぶ疲れているようだよ。少し休みなさい」

「しかし、二人が……」

「夜の砂漠は昼間以上に危険なんだ。二人を助けたいなら、動ける場面で動けるようでなければね」


 シリルはそのままテントに誘導された。サチもそれに続いた。

 砂塵は依然として、天をねじるかのごとく渦を巻いていた。




 

 自然はいつでも人の上を行く。

たとえ人が自然をコントロールできるようになったとしても、それだけは変わらないのかも知れない。


 今、本当に自然と時を共にしている気がする。人と自然という二元対立を越えて。

 アジズは、切り取られた夜空の月を見上げながら思った。

 砂と風の壁は天高くまっすぐと伸び、夜の訪れと共に輝きを増した月アカリをちょうど円形に切り抜いていた。


 アジズはヒナを呼んだ。左隅の視界で、ヒナはずっと泣いていたらしい。……なぜだろう、思い出せない。今さっきまで何が起きていたのか、なぜヒナが泣いていたのか。

それに……、何か“世界”が狭くなった気がする。

 アジズは、右手をそっと眼前で揺らしてみた。そして、そのまま力なく振り落とした。


「今、やっとわかった」

「……えっ?」

 ヒナはアジズを覗き込んだ。アジズは表情を変えずに続けた。


「……それに、思い出した。オレは『裁き』を受けたんだったな」

 アジズはヒナの顔を見た途端に、その記憶を取り戻したようだった。


「……何だか、急に訳がわからなくなった。今は楽になりたい」

 アジズはそう言うと、静かにヒナを抱きしめた。

 ヒナは思わず声を上げてしまいそうになったが、かろうじて踏み止まった。

何とかヒナは、至福のときを迎え入れることに成功したのだ。


 どうしてアジズが自分を抱いてくれているのか、ヒナは知りたくてたまらなかった。

自分を抱けば、アジズは楽になれるのだろうか。もしそうなら、もっと……、いや、ダメだ、中毒になってしまう!

 そんな考えがヒナの頭の中で延々と繰り返されていた。確かに、毎回この調子では体も心も持ちそうにない。

もしかしたら、アジズの単なる衝動かも知れない。しかし、いつもならヒナを受けとめてあげるだけのアジズが、今回ばかりは違ったのだ。


(……きっと何か意味があるんだよねっ……)


 月アカリが二人をそって照らしていた。




 

 翌朝、一番に目を覚ましたのはサチだった。


「すけぼーっ」

 胸元を揺すられたシリルは、まだ疲れが残っているせいか反応が鈍く、差し込んできた太陽の光を確認するまで随分と時間がかかった。

 二人は早速、外へと飛び出した。そこには、目の下に隈をつくったケーリーさんと衰弱しきったヒナの姿があった。 


「ヒナ姉ちゃんっ!」

「ヒナっ、無事だったのか!」

 二人は思わず歓喜の声を上げた。そして、ようやく事態を把握した。


「アジズは……っ」

「……残念だけど、もう一人の姿はなかったよ。もしかしたら、まだ砂漠の下に埋もれてるかも知れない。が、しかし……」

 ケーリーさんは無念の表情を浮かべていたが、その瞳にほんの少し光を取り戻したようだった。


「しかしね、この子がそれは無いと言うんだ」 三人の視線がヒナに集まった。


「ヒナ、どういうことだ?」

 シリルは慌てて問い質した。ヒナは、言葉を探すように足元を見て黙っていたが、しばらくして、その口を開いた。


「私が、大丈夫だったから……」

 ヒナは静かに続けた。


「……それにねっ、私、アジズが『ウィズダム』に向かってる夢を見たの……。何だか、ただの夢じゃない気がして……」

「ウィズダム? 次の目的地か……」


 シリルは頭の中の地図と相談した。


「ここから半日……ってとこか。果たして、アジズが案内人もなしに街まで辿り着くなんて可能性があるのか……」

 その顔には、絶望にも似た感情が表れていた。しかし、一行の心の内は、なぜか――面白いことに――みな同じであった。


「……ウィズダムに向かおう」

 シリルは決断した。


「私も一緒に行こう。仲間が消えてしまった今、街に戻る他ない」 


 ケーリーさんは、遺跡を見つめながら、しばしの別れを惜しんでいるようだった。


「ウチはヒナ姉ちゃんの夢を信じるっちゃけ」

 早速の出発を目前に、サチはヒナにささやいた。その無邪気さを前に、今のヒナには微笑んであげることしかできなかった。


 四人は、次第に高くなってきた太陽の下、アジズとの再会を願いつつ、遺跡の発掘テント群を後にした。

更新がダメダメで、ほんとダメ作者ですね…。《頑張って最後まで書くぞー!》《おーーっ!!》

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