第十話:ひさし朝
変なストーリー展開は、大目に見てください!(汗)/短い(?)かも知れませんがごゆっくりどうぞ。
アジズは目を覚ますと、自分がベッドの上で横になっているのに気付いた――ちゃんと、ふとんをかぶって――。
(あれ?……オレ、いつ寝たんだっけ?)
消灯された、しかしほのかに明るい部屋の中、アジズは恐らくひとり、天井をぼんやり眺めながら、思い起こそうとしていた。
夜は、今からだんだん明けようという具合である。
――というのは、窓を隠している淡い水色のカーテンとその隙間から、青く湿った光が知らせてくれたのである。
アジズはふと左に振り向いて、そのままどきっとした。思わず声が出そうになる。
(なっ、なんでヒナがオレのとなりに……っ!?)
部屋の隅に、壁に接するよう置かれたベッドの上、その壁側の方、……アジズはヒナを発見した。
ヒナはあたたかそうに、アジズと同じふとんの中で眠っている――アジズの方にからだを向け、まるくなるように――。
アジズは動こうにも動けなかった。……よく考えてみると、だいぶ近い……。
アジズは、ヒナをじっと見つめているうちに、逆になんだかほっとしてきて、その場にいることに、かすかな居心地のよさを感じているようだった。
ヒナのくちびるは、その両手に遮られて見えなかったが、アジズには、ヒナが優しく微笑んでいるように思えてならなかった。
(……いい夢でも見てんのかなぁ?)
アジズは仕方なく、もう少しだけ夢の中で時間を費やすことにした。
アジズは目を覚ますと、自分がベッドで《ふとんをかぶって》横になっているのに気付いた――今度はちゃんとひとりで――。
(ヒナはもう起きてんのか……)
アジズは、ここ『トリビュー』では貴重な日の光をとり入れた『ホワイト』ベースのさわやかな色調の部屋の中、ひとり、壁をぼんやり眺めながら、ヒナの寝顔を思い起こしていた。
太陽は、こうもあたたかく、すべてをつつみこめるのだろうか。それとも、すべては無理なのだろうか。
アジズは、ぼんやりするついでに考えた。
以前、アジズが悲しみに暮れていたとき、太陽はアジズを励ましてはくれなかった。
そのあたたかさを分けてはくれなかった……。
『太陽は地上で起こる何事にも無関心である』ように感じられた。
考え方によっては、太陽は残酷である。
しかし、逆を言えば、無干渉ないい奴である。
何となくだが、見守ってはくれている気がする。
……落ち込んだ自分をじっくり見つめることは大切だと、太陽はとっくに知っているようだ。
要するに、考え様で、太陽はあたたかくも冷たくも感じられる。
アジズは、今、自分が太陽を『あたたかい』と判断できたことは、とても幸せなことなのかも知れないと思った。
アジズは、のんびり寝起きを楽しんだ後、リビングへ向かった。
テーブルにはすでに、シリルが本を両手に、思いっきり猫背な姿勢で座っていた。
「おはよ、シリル……」
アジズは、とくに返事を期待する訳でもなく言った。シリルは、本に夢中である。
ふと耳をすます。
キッチンでは朝食の準備がされているようだ。きっとヒナに違いない。
アジズは、『ヒナ』で思い出し、立ったままシリルに話しかけた。
「なあなあ、シリル……」
「ん? ああ、アジズ。起きたのか」
(……さっきからいたのに……)
アジズは、ある意味シリルの集中力を尊敬した。
「んで、どうした?」
シリルは本に視点を戻しながら言った。
アジズは、すかさずシリルのとなりのイスに座った。
「……オレって昨日、いつ寝た?」
「ヒナの部屋に集まって、少ししたらすぐに寝てただろ。僕がルートの説明をしてたときには、壁によりかかって熟睡してたぞ」
アジズは確かに、ルートのことなど聞いてはいなかった。
「えっ……でも、起きたらベッドの上にいたんだけど……」
「覚えてないのか? 一度起こしたら、お前は『もう寝る……』とか言って、勝手にヒナのベッドで寝たんだよ! だから、ヒナには床のほうでな、ふとんでも敷いて寝てもらえるよう頼んだんだ」
アジズが『なるほど! そうか』とは思えなかったので、一瞬、沈黙の亀裂が走った。
「……シリルは?」
「僕は、ヘンズさんの部屋にふとんを敷かせてもらって、そこで寝たさ。……ったく、アジズは……。ヒナに悪いと思わないのか?」
シリルは、すべてを話してくれた。ただ、ヒナがベッドで寝ていたことをシリルは知らないようである。
(じゃあ、ヒナは、オレがいるのを嫌だと思いながらも、ベッドで寝ることにしたのかな……?)
そこに、顔を洗ってすっきり目覚めたヘンズさんがやってきて、テーブルを挟んでアジズたちと反対側に陣をとった。
「おはよう、お二人さん。よく眠れたかい?」
それに応えたのは、アジズだけだった。
「おや、シリルくんは早速、オレのあげた『例の本』を読んでくれてるのか。――で、本当に文字が読めるのかい?」
シリルは《ようやく反応を見せ》堂々と答えた。
「はい。……この文字は『旧イスグラード帝国』のものでしょう? 僕は独学で解読しましたから」
こちら側の大陸でも、シリルの言う『旧イスグラード文字』の文献が残されていた。
その謎はさて置き、先ずは読んでみる価値があった。
偶然にも、ここ、ヒナの家には、このようなシリルに打ってつけの書物が5、6冊置いてあった。
「……それにしても、ヘンズさん。一体これをどこで?」
シリルのこの言葉により、二人の『通』による熱い討論が今、まさに始まろうとしていた。
アジズは勘よく、それを察知した。
(また長くなりそうだな。まあ、ちょうどいっか。ヒナに謝り行こう……)
アジズはそっと立ち上がり、その場から避難するように、ヒナのいるキッチンへと向かった。
『次話も頑張るぞーっ!』《おぉーーっ!!!》