第一話:船
「なんだそれ?」
澄んだ瞳がまるで子どものような、アジズは尋ねた。
髪は全体的に赤っぽく、後ろ髪は外にはねている。なかなかの男前だ。
一方の返答者は考え込んでいた。
暗い青のかかった髪が風になびいている。
女だろうかと思うほど、美しい顔立ちをしている。
彼はやっとアジズでも理解できるような言葉をさがし出して言った。
「海の上をスイスイ進める乗り物ってトコかな。」
「はあ? シリル、何言ってんだよ。海は、もぐることはできても、上に立つことはできねえだろ?」
すかさずアジズは言い返した。
アジズの経験上、シリルの言うことはトンちんカンだった。
「まあ見てろって。」
シリルは早速、その乗り物に乗り込み、何かし始めた。
アジズは浜辺にぽつんと置かれてある、シリルの言うところの『船』というものに注目した。
「……よし!準備オッケーだ。」
シリルはそう言うと船から出てきた。
「さあ、僕の発明の真価が問われるときがきた。これで成功すれば、『魔法学』をさらに様々な分野に応用できる可能性が膨らむ。……アジズ、今からこいつを押すぞ。海の上に浮かべるんだ。」
アジズはなんだか楽しくなってきていた。
早速、二人は船を力いっぱい後方から押し始めた。
船は湿った浜とすれて、ずるずると音をたてながらゆっくり前へ前へと進んでいった。そして、遂に……。
「浮かんでる!!」
アジズはびっくりした表情で――半分嬉しそうに――言った。船は見事に浮かんでいる。
シリルは船に乗り込んで言った。
「アジズ、乗れよ。ここからが大事なんだ。」