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倭国神代記  作者: がばい
3章
38/53

悲しき兄弟1

 千年前、高天原(たかまがはら)と呼ばれる楽園に住まう天人(あまびと)と、失敗作とさげすまれ、奴婢として使われる人との間で戦いが起こっていた。それは、実際には戦いとは呼べないほどに一方的なもの。誰の目にも、天人の勝利は揺るぎようもなかった。天人は、人では持ちえない力を持つ。そして、仮に天人が劣勢に陥ったとしても、切り札となり得る圧倒的な力を持つ四魂と呼ばれる存在も控えていた。

 四魂と戦い得る者など、存在し得るはずがなかった。

 神が世界をそう構築したのだから。


 四魂のセイガとスクナの兄弟は、森の奥深く、木々の枝葉から日が漏れて光が差す泉の中で、一人の女性に出会った。

 不覚にも、その女性にセイガは見惚れ、我を失った。目を奪われ、心を縛られ、美しいという思いだけに、心を支配された。

 ヤマトト「そこにおられる殿方達(とのがたたち)、今からわたしは(けが)れを落とし、神に祈りを捧げなければなりません。(みそ)ぎを覗くのは、正直感心出来ないのですが?」

 はっとしてセイガは我を取り戻した。それでも無為に声を上げたり、慌てどよめいたりは決してしない。見惚れていたとはいえ、セイガは気配を完全に断ち、茂みに潜み、身を隠していた。気付かれてしまったとはいえ、正確な場所など分かるはずもない。だから、セイガをはっとさせたのは別の事。その女性は「殿方達」と複数形で言った。それは、兄弟にとって有り得ない事だったから。

 セイガ「気づいたのか?」

 問い掛ける様に、セイガは心の中でつぶやいた。

 スクナ「他に誰かいるのかな?」

 つぶやきを別の意味に取ったらしく、スクナはそう答えた。

 兄弟に生身の身体は一つしか存在しない。一つの身体の中に、二人の魂が宿っているだけ。それでも、二人は互いを別人と認識しており、兄弟としていた。四魂であるセイガとスクナは多少の不自由さを感じながらも、それをこの日まで受け入れていた。あくまで自分達は特別な存在なのだからと。

 別の意味に問いを受け取っていたスクナに、セイガが問いただす。

 セイガ「おれ達でも気付かない奴が、誰か隠れていると思うか?」

 スクナ「それもそうだね? だとしたら……なんで?」

 セイガ「んなこたぁ知らねぇが。あの女、不運だったな」

 スクナ「殺すの?」

 セイガ「仕方ねぇだろ。おれ達の存在を知った奴は殺さねぇと、じじぃ共がうるせぇ」

 そこまで言うと、セイガは何処からともなく矛を取り出した。その矛の銘は天之壽矛(あまのじゅぼこ)

 すさまじいばかりの殺気が辺り一面を覆い尽くし、それを感じた鳥たちが飛び立って逃げ、虫達が隠れる場所を探す。殺気を恐れた獣たちは、ただ静かに脅威が消えるのを震えながら待っていた。

 それほどの殺気を、その女性は気にするそぶりすら見せずに言葉を発した。

 ヤマトト「出て来られないのですか? でしたら……せめて、殺気を静めて貰えますか? 森の木々は逃げることすら出来ず、怖がっていますから」

 その言葉に反応してセイガは頭を掻きながら、ばつが悪そうに木の影から出る。そして、天之壽矛(あまのじゅぼこ)を構えた。

 セイガ「わりぃが死んでくれ。運が悪かったな」

 軽くセイガは言った。殺気さえなければ緊迫感など沸きようのない気やすさで。それを聞いた女性は不思議にも優しく微笑んだ。そして、自らの心臓の部分に手を当てる。

 ヤマトト「そうですか、出来れば痛い思いはしたくないので、一瞬で終わらせて貰えますか?」

 セイガ「その点は心配いらねぇ、気付いたら黄泉にいるだろうぜ」

 ヤマトト「でしたら、それでお願いします」

 セイガ「あばよ」

 反動を付けるために、セイガは天之壽矛(あまのじゅぼこ)を引く。目を閉じて、死を受け入れる女性。突如、天之壽矛(あまのじゅぼこ)を持つ手が震え出した。一瞬で終わるはずが、永遠に始まらない。天之壽矛(あまのじゅぼこ)を持つ手から汗が流れ出す。

 セイガ「何を迷っている」

 心に問い掛け、セイガは天之壽矛(あまのじゅぼこ)を強く握りしめる。その時、草木を掻きわけて来る音が聞こえた。

 結局、セイガは殺せずに、その場を立ち去った。

 カグヤ「ヤマトト様! 何かあったんですか? 鳥達が突然……」

 ヤマトト「何もありませんでしたよ。カグヤ、それよりも(みそ)ぎの手伝いをして頂けますか?」

 カグヤ「わかったよ、ヤマトト様」

 立ち去り際に、二人の女性の会話がセイガの耳をかすめた。



 高天原を統治する長老達の命を受け、セイガは彼らが失敗作と呼ぶ、人の長の元へ向かっていた。受けた命は暗殺。眠っているスクナが目を覚ます前に終わらせる気だった。なのに、予定通り運ばず、若干のあせりを覚えていた。

 わざと気配を流しながらセイガは茂みに潜んでいた。目と鼻の先には十人ほどの兵士達がいる。手には血の付いた剣を持っており、衣服も血で染まっている。血は魚のものだが、誰がどう見ても不審者にしか見えない。気付かれさえすれば、取り押さえられる予定だった。

 セイガ「たく、スクナが起きる前に終わらせたかったんだが。これだけ胡散臭い奴いねぇと思うんだがな? 気付かねぇなら、仕方ねぇ」

 頭を掻いてから、セイガは音を立てず兵士に近づき、剣を背後から突き付けた。

 セイガ「動くな!」

 背後を取られた兵士がゆっくりと振り返る。

 兵士「何者だ!」

 血の付いた剣を、スクネはその場に投げ棄てた。予定通り他の兵士に取り押さえられたために。

 兵士「この数を相手にして、馬鹿にしているのか」

 スクネ「だったら、早く気付けよな」

 眉を引きつらせている兵士に、セイガは蹴飛ばされた。別にどうという事もなかったのだが、気絶した振りをして、その場に倒れ込んだ。

 手首を縛られ、目隠しまでされている。何処かに連れて行かれているらしいが、行き先がわからない。

 スクネ「何処に向かってんだ? 教えてくれねぇか?」

 背後で手首を縛った縄を握っている兵士に、セイガは話しかけた。

 兵士「うるさい、黙って歩け」

 散々歩かされたあげく、何処かで立ち止まらされた。着いたのかと思ったが、兵士が交代すると、再び移動が始まり、そして、何処かにたどり着く。それが何度か繰り返された。恐らく目的地がわからないようにしているのだろうが、最初から場所などに興味ないので「無駄な事をしやがって」と、セイガは心の中で思う。もっとも、連れ回される間に目覚めたスクナのおかげで、退屈だけはしなくて済んだが、当初の予定は完全にはずれてしまった。

歩 かされるのに、少し面倒になって来た頃、ようやく何処かの場所で目隠しが取られた。

 目の前には目的の人物が座していた。叛の主、ヤマトトが。

 ヤマトト「やはり、貴方様でしたか」

 暗殺対象は、数日前、森の奥深くで会った女性だった。

 セイガ「馬鹿なことをしたな。よりにもよって、じじぃ共に反旗を翻すとは」

 疲れた様な眼をセイガは向けた。歩いて疲れた訳ではなく、あまりに予想通り過ぎて。

 兵士「黙れ、失礼であろう!」

 ここまで連れて来てくれた兵士が、耳元で怒鳴り声を上げた。耳を塞ぎたいが、手首を縛られているので、それも出来ない。もっとも、この程度の拘束、力ずくで解いて、兵士の口を塞いでもよかったのだが。

 ヤマトト「かまいませぬ。それよりも……しばらくの間、二人だけにして貰えますか?」

 怒鳴り声を上げ続けている兵士に、やさしく微笑みかけながらヤマトトは言った。

 難色を兵士が示す。当然の反応だろう。こんなあやしい奴を見たら「自分なら間違いなく拒否するな」と、セイガは思う。だが同時に、ヤマトトの微笑みに対抗し得るものなどいるのだろうかとも。

 兵士「わかりました、何かありましたらすぐに呼んでください」

 ヤマトト「感謝いたします」

 不満そうではあったが、兵士は根負けしたのだろう、その場を離れて行った。

 二人きりになる。まず最初に、ヤマトトはセイガの拘束をはずした。次に、自らが座していた場所に座するように促す。それには首を振って答えてから、セイガは単純な疑問を口にする。

 セイガ「おれの拘束なんか解いて、どうなってもしらねぇぜ」

 その疑問に、ヤマトトはおかしそうに口を塞いだ。その動作一つ一つが、あまりにも優雅だった。

 ヤマトト「これは異なことを。最初からこのようなもので拘束される貴方様ではないでしょうに……わたしは、貴方様の好意に応えましただけです」

 セイガ「好意? 何言ってやがる、間抜けにも捕まっただけだろ、おれは」

 ヤマトト「でしたら、そういう事にしておきましょう」

 にこりと微笑むヤマトトを見て「やりにくいな」と、セイガは心の中で思う。

 セイガ「二人きりで何の話をする? こんな覗き魔と」

 ヤマトト「あの日、貴方様がわたしを殺さなかったのは、なぜでしょうか?」

 セイガ「なぜだと思う?」

 したり顔でセイガは言った。自分の調子で話を進めるために。

 ヤマトト「なぜかは、お教え願わなくても結構です。それよりも、わたしの素肌はいかがでしたか?」

 予想しなかった一言に、調子は完全に打ち砕かれた。そして、セイガは何も言葉が出なくなって、とりあえず頭を掻いた。

 しばらくして、ヤマトトが苦笑する。それでセイガは言葉の意味を理解した。

 セイガ「おまえ、からかいやがったな」

 ヤマトト「そろそろ本題に入られたらどうです? そのために、二人きりになったのですから」

 そう言ってヤマトトが笑顔を見せる。おかしそうにではなく、何かを覚悟した様な笑顔を。

 舌打ちしてからセイガは表情を引き締め、天之壽矛(あまのじゅぼこ)をヤマトトの眼前に突きつけた。一瞬にして場の空気が緊張する。

 それでも、ヤマトトは笑顔を壊さない。

 ヤマトト「お好きな様に。残念ながら、わたしには貴方様からこの身を守り得る手段を持ちませんから」

 スクネ「あきらめんなら、こっちも楽でいいが……本気か?」

 ヤマトト「あきらめてはいません。あなた様がこの場にいる時点で、奇跡以外に助かるすべを知らないだけです」

 スクネ「奇跡ね。あんま、あてになんねぇぜ」

 ヤマトト「でしたら、わたしもこれで終わりですね」

 口元は微笑んだままヤマトトは目を閉じた。数日前とまったく同じ光景。

 首すじに矛先をあて、出来得る限りの殺気をセイガは放った。そまま数分間、冷たい感触を味あわせたが、まったく動きを見せない。

 最初から殺す気など毛頭ないセイガは、根負けして天之壽矛(あまのじゅぼこ)を引っ込めた。

 セイガ「おれの負けだ、負け。しばらくやっかいになる。その間に、奇跡でも考えといてくれ」

 ヤマトト「分かりました。必ずや起こして見せます、奇跡を」

 目を開いたヤマトトはやさしいほほ笑みを浮かべて、そう言った。その笑顔にセイガは見とれた。その笑顔をずっと見ていたかった。

 そのために、来たのだから。



 やさしい微笑みを見せるヤマトトに会ったその日から、セイガの人生は一変した。目的も、願望も、何も無く、ただ生きるだけの人生に、セイガは嫌気がさしていた。そんなセイガにとって、ヤマトトのために戦い続けることは充実していた。

 そして、よく戦いの日々の合間に行く、あの森が楽しみとなっていた。

 カグヤ「すごい、いっぱいあるよ」

 緑の髪、緑の瞳をした、ヤマトトの従者を務めるカグヤが眼を輝かせる。

 スクナ「本当だ、りんごがたくさん」

 今日はスクナが主となり、身体を使っている。二人はどちらが主かを他の者がわかるように、髪型をいじっていた。髪をうしろに流していたらセイガ。そうでなかったらスクナとわかるように。だから、頭を掻いてぼさぼさになると、セイガはスクネによく怒られていた。「どっちがどっちかわからないだろ」と。

 主であるスクナの口を使って、セイガは弟をからかう。

 セイガ「スクナ、おまえ本当にりんごが好きだな」

 スクナ「違うって。カグヤがりんごを好きなんだよ」

 同じ口から聞こえるスクナの言葉に、兄弟の事情を知っているカグヤが、当然のように反応する。

 カグヤ「わたしも違うよ。スクナが喜んでるから、つられちゃっただけだよ」

 必死にカグヤが首を振って否定する。自分も絶対違うと、スクナも言い張っている。

 それを聞いていたヤマトトが意地の悪そうに笑う。

 ヤマトト「どちらも違うのでしたら、今日はりんご狩りはやめにしましょう」

 カグヤ「えっ。だめだよ、だめ」スクナ「それはひどいよ」

 必死の形相でカグヤとスクナの二人が同時に、ヤマトトの提案を否定した。その直後、一人遅れてその場にやって来た。

 タケヒコ「すみません、遅れました。すぐに終わらなかったので」

 遅れて駆けつけて来たタケヒコが頭を下げる。

 セイガ「別に来れねぇなら、それはそれで構わなかったんだぜ」

 タケヒコ「意地の悪いことを言いますね。わたしだって今日を楽しみにしていたのです。それにそんなことを言うのでしたら、食べさせませんよ」

 からかうつもりで言ったセイガは、タケヒコの言葉を聞いて凍りついてしまった。

 スクナ「まさか……料理するの?」

 主であるスクナがおどおどしく言った。

 タケヒコ「いえ、さすがにここでは火を使いたくないので、持ってまいりました」

 セイガ「余計なことしやがって。なんで、よりもよって」

 思わずセイガは舌打ちをしたくなったが、主でないので出来ない。代わりに、スクナが顔を引きつらせる。

 会話を横で聞いていたヤマトトが口を挟む。

 ヤマトト「本当に、仲がよろしいのですね」

 セイガ「スクナとか?」

 誰の事か確認したセイガの言葉に、こくりと頷き、にこりと微笑んでヤマトトが答える。

 セイガ「そんな事はねぇぜ」

 すぐにセイガは否定した。それにスクナも続く。

 スクナ「そうそう、にいさんが何かをやるたびに、どれだけ苦労させられるか」

 セイガ「逆だろ逆、おれはこいつが間抜けたことをするたびに、補ってやってんだ」

 もしも、隣にスクナがいたら頭を軽く殴っていただろう。だが、身体を一つにするセイガにそれは出来ない。

 元気のいいカグヤの声が、そんなもどかしさを消し飛ばす。

 カグヤ「そんなんだから、仲がいいんだよ」

 馬鹿を言い合って、みんなで笑う。そんな日々がいつの間にか当たり前になっていた。だがそれは、終わりを告げた。天人に戦いを挑んでいる以上、いずれこうなることはわかっていたはずだった。それでも、それが現実になる日まで忘れさせてくれるほどに、日々は優しすぎた。


 目の前に立つ圧倒的な脅威。絶望が人の姿をして微笑む。自然とセイガの天之壽矛(あまのじゅぼこ)を持つ手に力が入る。

 セイガ「ついにおまえが来たのか」

 ヤマトト「貴方様はアメノタマモ?」

 立ち塞がるセイガの背後で、ヤマトトがつぶやくように言った。

 絶望が口元をほころばせる。絶望の名はアメノタマモ。その手には天詔琴(あまのりごと)と銘づけられた弓が握られていた。

 タマモ「ふふふ。二人とも、最近姿を見かけないと思ったら……こんな所で遊んでいたみたいね」

 タケヒコ「セイガ、ヤマトト様を連れて、すぐに逃げてください。わたしが出来得る限りの時間を稼ぎます」

 横から血相を変えているタケヒコが割って入った。

 セイガ「頼んだぜ」

 すぐにこの場を離れるため、セイガはヤマトトの手を取る。しかし、ヤマトトは手を払いのけ、その場を動こうとしない。

 セイガ「何やってんだ。まさか、こいつも殺す気がねぇなんて、言いだすんじゃねぇだろうな」

 違うと首を振るヤマトト。

 ヤマトト「みなさんが戦われているのに、わたしが一人この場を離れるわけにはまいりません。わたしよりも、カグヤをお願いします」

 いつも通り横に控えていたカグヤに、ヤマトトは目を向けた。

 カグヤ「いやだよ。ヤマトト様が残るんならわたしも……」

 訴えるようにカグヤは言った。

 タマモ「ふふふ。いい覚悟ね。その強気に免じて壊してあげる。あいにく、あなたには恨みはあれども……恩は何も無いのよ!」

 辺り一面を、タマモの殺気が覆い尽くす。

 タケヒコ「わたしが戦います。セイガ、あなたはヤマトト様とカグヤ様の身をお願いします」

 両手に剣を握りしめて、タケヒコがタマモを睨みつける。

 タマモ「少し遅かったかしら」

 カグヤ「ヤマトト様、危ない!」

 笑みを浮かべるタマモの放った矢は、ヤマトトをかばうために前に出たカグヤの眼前で消えた。白い光の中に溶けるように、矢もタマモも消え去った。

 それが優しい日々の終わりを告げる合図だった。


 脅威が消えてからセイガとタケヒコは、ヤマトトとカグヤの二人から少し離れて話をした。他の誰にも聞かれたくない話をするために。

 タケヒコ「セイガ、スクナはどうしています?」

 セイガ「まだ気を失ってやがる。それより……さっきのは、カグヤか?」

 タケヒコ「おそらく。わたしも話は聞いていましたが……正直、今まで神の器の存在など、半信半疑だったのですが」

 セイガ「神とはまったく関係ない力の可能性は? 例えば、おれ達も知らない天人の力とか?」

 タケヒコ「わたし達四魂以外に、この辺り一体すべてを消し飛ばすことが出来る程の力の持ち主が、他にいるとは思えませんが?」

 セイガ「確かにな……となると間違いねぇか」

 そこまで話してセイガは少し離れた位置にいるカグヤに目を向けた。憔悴(しょうすい)したのか、カグヤはヤマトトの膝の上で目を閉じ、横になっている。

 セイガ「この後、どうなると思う?」

 タケヒコ「わかりません。神の事に関して、長老達は何も教えてはくれませんでしたから」

 セイガ「やはり、おまえもか……」

 それ以上は考えるだけ時間の無駄だと思い、セイガはタケヒコとの話を止め、ヤマトトに近づいた。

 セイガ「これからどうする?」

 ヤマトト「他の同志の所に向かいます。亡くなった者達のためにも、わたしがこのまま終わるわけにはまいりませんから」

 セイガ「また、すべて失うかも知れないぜ」

 その言葉にヤマトトが一瞬だけ暗い表情を見せる。そして、次の瞬間には精一杯の笑顔を作った。

 ヤマトト「それが例え、より多くの不幸を呼ぶ行為であったとしても……必ず、その先に未来があると信じていますから」

 セイガ「なら、さっさと行こうぜ。カグヤはおれが背負ってく。いつまでもこんな所にいたら、タマモがまた来る可能性が高いからな」

 力強く頷いたヤマトトの目には、涙が滲んでいた。

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