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倭国神代記  作者: がばい
3章
25/53

神の足音

 何時の間に眠りに着いたのか、カグヤは夢を見ていた。その夢は当初、夢とわかりながらもすぐに現実として認識が変わっていく。

 夢はカグヤでなき者の記憶。それは世界に刻まれた創世の記憶。


 夢の中でわたしは台座に座っている。隣には何者かが三人立っている。目の前には荒野らしき大地が無限の広がりを見せる。そこは白と黒だけの世界。そこには何も存在しない。あまりに寂しい世界。台座に座るわたしは心のそこから寂しいと思う。突然大地が一部下がって海が出来た。まだ寂しい。大地が再び寂しさに答える様に木が生まれ、やがて森になる。大地がせり上がって山となる。山が割れ川となる。そこに色が生まれ、見た目は華やかになった。それでも寂しい。大地ではこれ以上寂しさにもう答えられない。あまりにも寂しい世界。人が誰もいない。誰かいてほしい。

そう考えていると、隣に誰か立っていたのを思い出して話しかける。言葉は出ない。振り向く事も出来ない。力がまったく入らず、体が自分の意思に答えてくれない。自分でどうにもならないなら話しかけて欲しい、心からそう思う。

 その願いが何者かに通じる。

 声「目を覚ませ。いつまで寝ている」

 台座に座る者「誰がいるの?」

 声「目を覚ませ。目を覚まし、その両目で確認せよ」

 台座に座る者「わたし今寝ているの? だったら、やっぱりこれ夢なんだ……よかったよ」

 あらためて夢である事を思い出して、わたしはほっとした。

 何処からともなく聞こえる声は続く。

 声「目を覚ませ。目を覚ませば寂しさなど消え失せる」

 台座に座る者「本当? だったらすぐに起きるよ。一人はいやだから」

 声「目を覚ませ。目を覚ませば最早寝る必要すらない」

 その言葉を信じて、わたしは必死に「起きろ」と自分に念じ続ける。

 目を覚まそうと必死になるカグヤに声が聞こえる。その声は何度も聞いた事のある声。その声は彼女が最も世界に望む者の声。

 スクネの声「カグヤ聞こえるか」

 カグヤ「スクネ? 今話してるのスクネなの?」

 スクネの声「聞こえているなら問題ない」

 カグヤ「スクネどこ? 近くに居るの? 遠くにいるなら、すぐに行くから待ってて」

 そう言ってから、カグヤはすぐにスクネを探しに行こうとしたが、どういうわけか手足にまったく力が入らず、身動きが取れない。

 スクネの声「おれはここにいる。すぐ隣にいる」

 カグヤ「ほんと? 隣にいるの、本当にスクネなの?」

 スクネの声「本当だ。おれはおまえの隣にいつまでもいる。心配する必要などない」

 カグヤ「うスクネがいるのなら寂しくないよ。だからいなくならないでよ」

 スクネの声「それなら目を覚ますな。目を開ければ、おれはいなくならねばならない」

 カグヤ「目を覚ましたらスクネいなくなるの?」

 スクネの声「そうだ……いなくなる」

 カグヤ「そんなの嫌だよ。でも、わたしどうしていればいいの?」

 何も声が帰って来ない。それでカグヤは不安になった。今までのはただの幻聴だったのかもしれないと。

 カグヤ「スクネ? なんで黙ってるの? なんか悪い事言った?」

 不安が大きくなっていく。隣にいるのなら姿を確認しようと思うが、やはり身体が意思どおりに動かない。

 カグヤ「スクネ、目を覚まさないよ。だから……お願いだから、何でもいいから、答えてよ!」

 声は再び答える。その声は二つ、スクネの声と女性の声。それでもカグヤには一つの声しか聞こえない。

 スクネの声「まだ寝ていろ。時間はまだ早い」 声「もう少し寝ていなさい。時間はまだあります」

 カグヤ「分ったよ。でも寝ている間にどこか別のところに行って、いなくなったりしないでね」

 スクネの声「心配ない」 声「心配いりません」

 その言葉で不安は消え、カグヤは再び眠りに着いた。眠りに着くと寂しい夢は終わる。


 夢の終わりと共に、また自分に何者かが話し掛けている。その声に導かれる様に目を覚ました。

 喜びの目覚め。元気よくカグヤは起きた。

 カグヤ「スクネ……えっ?」

 タケヒコ「カグヤ様だいじょうぶですか。しっかりなさってください」

 起き上がってすぐに隣を見ると、心配そうにタケヒコが見守っていた。予想と期待を大きく裏切られたカグヤが目を丸くする。

 カグヤ「タケヒコが何で隣にいるの? 何かおかしいよ?」

 そう、あまりにも変。なぜか分からないけれども、スクネが隣にいないといけないはずなのに。

 タケヒコ「うなされていましたのが、気になったのですが……それにしても、おかしいとはいくら何でも」

 苦笑いをしながらタケヒコは言った。

 カグヤ「うなされてた? わたしが? 何で?」

 タケヒコ「わたしに聞かれましても、わかりかねますが」

 カグヤ「あれ? たしか、叔父さんの話を聞いてなかったっけ?」

 少し頭を動かしてみて記憶が蘇えって来た。確かに伯父であるジョウコウの所で話を聞いていたはずだった。

 タケヒコ「ジョウコウ様の話を聞いていらした時に倒れられましたので、そのため、スクネがここに運び込みました」

カグヤ「そうなんだ。叔父さんの話聞いてたら何か頭がぼやけて来たんだよね。その後はよく覚えてなかったけど……倒れちゃったんだ、わたし」

 そう言われてもよく分からない。それでも、倒れたのなら仕方ないとカグヤは認識した。それよりも問題なことが一つあったから。

 カグヤ「シンムはどうしてる?」

 苦しげな表情でタケヒコが答える。

 タケヒコ「困惑しておられるようです。とはいえ……この件に関しましては、シンム様が自ら解決されるしかありませんから」

 カグヤ「そうだよね……わたしは元々知っていたからいいけど」

 タケヒコ「知っておられたのですか?」

 驚いたような表情をタケヒコが見せた。そんなタケヒコに、カグヤは少しでも明るい表情でいてほしいと思い、にこりとしながら首を縦に振って答えた。そして、話題を変える。もう一つの大事な話題に。

 カグヤ「そうだ! スクネは何処にいるの?」

 タケヒコ「すぐそばにいますよ。スクネ、カグヤ様がお呼びです」

 目線をタケヒコが窓際に向ける。

 スクネ「目を覚ましたか」

 声の聞こえた方を、タケヒコの視線の先に目を向けたら、そこにはスクネがいた。

 カグヤ「よかった、いなくなったりしなかったんだ。起きた時はびっくりしたよ」

 スクネ「何の事を言っている。寝ぼけているのか」

 カグヤ「そうじゃないけど……とにかく、いなくなってないならいいよ」

 自分で言っていて、何でそうなのかはよく分からない。それでも、心からそうカグヤは思った。

 それを聞いたスクネが困った様な顔を見せる。その顔を見て、カグヤは何とも言えないほど嬉しかった。

 そんなスクネがいて、タケヒコがいて、シンムがいる。そんな世界こそ、カグヤが望む世界だったから。 

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