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倭国神代記  作者: がばい
3章
24/53

最後のやすらぎ

残り半分ほどですが、付き合って貰えると幸いです。

 朝日が昇ると。呆然としながらシンムは一人で家を出て、外を当てもなくぶらついていた。すべてが嘘のようで、何もかも忘れたい気分だった。そうしていると、ふとイヨ達の事が気になった。一度気になると、自ら気にした事自体を否定しても忘れられず、結局イヨ達の元へと向かう。

 巨大な社内にヒミコが現われていながらも二人は牢には入れられず、家に監禁されている事をタケヒコから聞いていた。それはジョウコウの指示らしい事も。

 家の前には衛兵が十人ほど監視のため立っていた。その中央にいる衛兵達の指揮官とおぼしき女性から許可を得て家の中に入った。

 家の中には、封印呪の付いた首輪によって鬼の能力を封じられたイスズと、同じ様に巫女としての力を封じられたイヨが食事を取っていた。監禁されているとは思えない笑顔を浮かべながら。

 シンム「入るぜ」

 イスズ「エッヘンな人、何しに来たですぅ! イスズちゃん呼んだ覚えありません」

 真っ先にイスズが頬をふくらませる。我ながらシンムは当然だと思う。

 イヨ「呼んでなくても来られるよ。わたし達捕まっているし」

 平然とイヨはイスズにそう言った。

 シンム「意外と、普通にしてんだな」

 正直、シンムは二人が暗い顔していると思っていた。最悪、二人とも死刑に処せられる可能性も十分にあるのだから。

 真摯な態度で、イヨが辛らつな返事をする。

 イヨ「どういう訳かは知りませんが、殺されるわけでもなく、力を封じられ、監禁去れてこの家から出ることを許されません。ですが、あなたみたいな人が、勝手に入って来ることを除いたら、普通に生活しています」

 シンム「とげのある言い方だな」

 イヨ「この状態で、どなたであろうと歓迎するのは無理です」

 それも当然だとシンムは思う。自分が逆の立場ならば入って来た瞬間に殴りかかっているだろうとも。

 イスズ「エッヘンな人が突然やって来るのが悪いですぅ。コクンとしたなら出て行きなさい」

 シンム「そうだな、突然来て悪かった……」

 最初から自分に居場所などあるはずのない、この場にシンムは理由もわからずに来た。それだけに、出て行けと言われれば、それを簡単に受け入れられた。だから、背をイヨ達に向けて立ち去ろうとした。肩を落とし、なぜか分からない寂しさを感じながら。

 イヨ「待ってください。何かあったのですか? 今日は様子がおかしいですよ」

 背後から聞こえたイヨの言葉に、思わずシンムは足を止めて振り返った。そこには口を膨らませているイスズと、なだめているイヨが座していた。

 イスズ「イヨちゃん、なんでエッヘンな人を止めるですぅ」

 イヨ「何か、いつもと違って寂しそうだったから」

 図星を指された様な気がして、シンムは思わず大声でそれを否定する。

 シンム「別に寂しくてこんな所来たわけじゃねぇ!」

 大声を上げた事をシンムはすぐに後悔した。そんなつもりなどなかったから。そんなシンムの心を察しているのか、気にした様子など微塵も見せずにイヨが微笑む。その笑顔は天使の様だった。

 イヨ「それでしたら、何をしに来られたのですか? わたし達を笑いに? それとも慰み者にでも?」

 イスズ「イスズちゃんが、イヨちゃんをエッヘンな人から守りますぅ」

 間に入って立ち塞がるイスズに、その背後のイヨに、シンムは大声で否定する。

 シンム「どっちも違う。おれがそんな事すんわけねぇだろ!」

 イスズ「むむむむむ。エッヘンな人はイスズちゃんに変な事する気ですぅ」

 部屋の隅に移動して、イスズが自らの身を抱え込んで震える。

 シンム「違うって言ってんだろ! やっぱ、来んじゃなかったぜ」

 正直、シンムは泣きそうだった。何を望んでここに来たのかわからず。来てみれば当然の様に言い合いになる。そんな事、今はまったくする気になれないのに。

 正座したイヨが目を合わせて来て、再びにっこりと微笑んだ後、真摯に言った。

 イヨ「それでしたら……もう一度聞きます。何をしに来られたのですか?」

 シンム「そこらへんぶらぶらしてたら、たまたま寄ろうと思っただけだ」

 正直に答えた。他に理由など最初から何もない。やりたい事も、やるべき事も何もない。あるのはどうしていいか分からない思いだけ。

 目線をイヨは放さず笑顔を見せる。その笑顔からシンムも目線を放せない。

 イヨ「分かりました、そうしときます。それならそれで、少し話でもして行きませんか? 見た通り、わたし達はここから出られませんから、暇ですし」

 イスズ「イヨちゃんの話し相手ならイスズちゃんがいますぅ」

 部屋の隅からイヨの隣に移動したイスズが、イヨの服のすそを掴んで、頬をふくらませる。

 イヨ「イスズちゃんとはいつでも話せるから。たまには、他の人と話そう?」

 目線をイスズにイヨは移して言った。すると、頬をふくらましていたイスズがシンムに目を向けて来た。

 イスズ「イヨちゃんがそこまで言うなら仕方ないですぅ。エッヘンな人はイヨちゃんと今すぐ話しなさい」

 なぜか命令口調でイスズは言った。落ち込んでいるせいか、不思議といらついたりはしなかった。

 シンム「特に、話なんかそれに、なんか対応が突然変わるんだな」

 何と言っていいかわからずに捻りだした言葉がそれだった。

 イヨ「あまり気になさらないで、それよりもイブキさんでよろしいですか?」

 他人行儀なイヨの言葉を聞いて、今更の様にシンムは思い出した。今までは自分の怒りをぶちまけるばかりで、この二人とは満足に何も話をしてなかった事を。

 シンム「名前でいいぜ」

 イヨ「わかりました。シンムさん、よろしかったらこの国の話でも聞かせて貰えないですか? 今まで、ゆっくり出来ませんでしたから」

 シンム「おれの知っている事でよかったら別に構わないぜ」

 イヨ「でしたら、何もお持て成しは出来ませんけど、とりあえず座ってください」

 シンム「ありがとよ」

 二人の面向かいにシンムは腰を下ろして狗奴国の話を始めた。とはいえ、シンムも狗奴国に関してそんなに知っている訳ではなかった。それでも、この一年程で知ったかぎりの話をした。自分が訓練している時に見た山頂からの光景、綺麗な湖の光景、国の人々を見ていて思った活気、それは当たり障りのない簡単な話だった。そんな話を聞いてイヨが苦笑する。たまに話を止めてはイスズが間の抜けたことを言った。

 今まで、イヨ達は伊都国を滅ぼした憎いだけの存在のはずだった。ひょっとしたら、ここに来たのはうさばらしのために来たのかもしれなかった。だがそんな気にならず、どうでもいい話をした。そして、どうでもいい話を聞いてくれるイヨ達の存在が嬉しかった。もちろん、タケヒコにしろ、姉にしろ、シンムの話を聞いてくれただろう。それが分かってはいても、彼等と顔を合わせる事が、今のシンムには出来なかったから。

 シンム「話聞いてくれてありがとよ」

 イヨ「少しは元気が出ましたか?」

 シンム「また来ていいかな?」

 本当に、心が少しだけすっきりした気がした。

 イヨ「お好きな様に。わたし達はどちらにせよここにいますので」

 笑顔でイヨは言った。それを見て、シンムも上手く出来たかよくわからなかったが笑顔で返した。

 イスズ「イヨちゃんがコクンしたので、特別にシンムさんはここに来て構いません。イヨちゃんに感謝してほしいですぅ」

 自信満々に両手を腰に当てながら言ったイスズの言葉の違和感に、すぐシンムは気付いた。

 シンム「シンムさん? おまえこそ、いきなりどうしたんだ?」

 イヨ「イスズちゃんは好きな人は名前で、嫌いな人は変な呼び方をするから」

 シンム「そうなのか?」

 隣のイスズを見ながら言ったイヨから説明を受けて、シンムはイスズにも問うた。

 イスズ「むむむむむ。イスズちゃんはシンムさんの事別にキューンとなってないですぅ。勘違いしないでください」

 シンム「別にそんな事考えてねぇ!」

 大声を出した。かつて姉のカグヤ達に出していたのと同種の大声を。出した後、ついこの間まで出していたはずなのに、随分と久しぶりの事に感じられた。

 翌日も朝からシンムは、イヨ達の家へと向かった。足取りも、表情も、前日よりは幾分かましになっていた。

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