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繋がる魂  作者: 水上踏吾
4/7

火の山

長かった。


目の前にそびえ立ち、長大な煙と炎を上げる火の山を目の前にして、ここまでの長い長い道


のりを振り返って僕は目をつぶった。


得難い仲間たち。貴い犠牲。死力を尽くした闘い。次々とまぶたの裏に浮かんでくる。


自然と涙が出てきた。


僕のために皆が力を貸してくれた。僕の個人的な願望のために。


笑いながら、どうってことないさ、と死んでいった仲間の顔は一生忘れない。


あいつらにもこの山で会えるかも知れないと思うと、笑みが浮かんだ。


早く会いたい。もちろんきみにも。


ところが、頂上への道は想像をはるかに超えるものだった。


最初はまだまばらに生えていた草木も登るにつれて消え、ひねこび白茶けた枯れ木が、岩塊だらけの斜


面に骨のように散らばるだけになった。


火の山は絶えず振動して頂上の方からは不気味なごおっという音が聞こえてくる。


茶色い煙が厄介だった。


風に吹かれて煙の塊がやって来、包まれたときに、なんとも言えない悪臭だと思ったら瞬間に意識が飛


んでいた。


致死性のガスだった。


それ以来、茶色の煙がやって来ると息を詰めてやり過ごしている。


目も痛くなるので目をつぶってうずくまる。


幸い我慢するのは短い時間で済んだが、頂上の近くになれば、もっとガスは濃密になってくるだろう。


不安になるが仕方がない。


頂上に着くまで死ぬわけにはいかない。死んでたまるか。


じりじりと頂上へ近づく。


何度も石ころに足を取られ、転んで体のあちこちを傷つける。


革のブーツはボロボロになって破れ、足は血まみれの棒に成り果てている。


意識が朦朧とする。


たまに、火の付いた岩が近くに落ちてくる。


当たれば即死だろうが、もう恐怖を感じるには意識が麻痺していた。


一度、すぐそばに落ちた岩が破裂し、破片が僕の被っていた兜を吹っ飛ばした。


目の前が真っ暗になり、もう終わりだと思ったのを覚えている。


奇妙に平穏な感じで、やっと眠れると気が遠くなりながら安堵していた。


気がついて目を開けたが目の前が真っ赤だった。


目に血が流れ込んでいる。


目を拭ってから、立とうと思ったが立てない。


足に力が入らない。


たとえ立てたとしても歩けないだろう。


周りはガスが充満していた。地面に近いところでしか息ができない。


僕は両手両足で四つ這いになり、這い進んだ。じりじりと。


回りは耐え難いほど熱い。


火口は近いのだろう。ぐつぐつとシチューが煮えたぎる音がする。


地獄の大釜で煮るシチューを想像した僕は力なく笑った。


ちくしょう!みんなどこにいるんだ?きみはどこに?


もう這えない。


両手両足でにじり上がるだけだ。


口と鼻をぴったり地面に着けないと空気がない。


こんな姿をきみには見せられないなあ。笑われる‥。


のろのろと上げた左手で上方を掴もうとして空を掴んだ。


瞬間的に左手に激痛を感じる。


慌てて引き戻した左手の先は炭になっていた。


骨まで炭化している。


‥そうか、とうとう火口に着いたんだ。‥でも、誰もいないじゃないか!


僕は裏切られた思いだった。


結局、死ななければきみには会えないのか‥。


みんな、すまない‥、とんでもない苦労をさせて‥遠回りをしただけなんて…。


今から、お詫びに行くよ…。


僕は最後の力を振り絞って立ち上がった。


地獄の劫火を見たのはほんの一瞬だった。


すぐに僕の目は焼け落ちた。


体がブスブスと音を立てて焦げていくのがわかる。


最後に、見えない目で、僕は、きみが笑顔で両手を広げているのを見た。


迎えに来てくれたんだね?


僕は気力で前に倒れ、身を投げた。


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