絶望
どうしたんだろう、どうしたんだろう…。
僕の心は焦燥に苛まれ、どうしようもなく顔が苦痛に歪む。
鏡のような湖面は、まさに鏡のように静まり返っている。
一粒の泡粒も上がって来ない。
いったいどうしたんだろう?
僕はあらん限りの光の矢を叩き込むように投げ込んだが、激しく波立つ水面はたちまち元の静けさに戻
り、沈黙を続けた。
僕は必死に水面を透かし見る。
しかし、鏡の湖面は霧の白さばかりを映し出し、僕の視線は上滑りしてきみの姿をとらえられない。
僕は、内なる力が爆発するまま大声で喚き、剣を抜いて湖面に切りつけた。二度、三度…。
きみの名を呼びたかったが名前が出て来ない。
言葉にならないうめきを振り絞って、岸辺を熊のようにうろつき、文字通り地団駄を踏んで砂を蹴り立
て、腕を振り回した。
僕は何度も湖水に飛び込もうとした。
そのたびに、僕の心の奥の冷徹なる部分が、飛び込んではいけない。
飛び込んだら死よりも恐ろしい結果が待っている、二度とあの人に会えなくなるぞ、と僕を引き留め
た。
飛び込もうとするたびに体が止まった。
体が飛び込むことを拒否した。
やがて僕は疲れ果て、がっくりと膝を着いた。
絶望が僕を打ちのめして重くのしかかり、ついには打ち倒した。
無くしたかもしれないものの大きさを思うと、心が切り刻まれてすり潰される。
口の中に血の味がいっぱいに広がる。
我知らず僕の口から悲鳴がもれ、僕のこぶしは岸辺の砂を叩く。
子どものように身悶えして僕はむせび泣いた。
僕はきみの死をほとんど確信していた。
狂おしく思考を巡らす僕の脳裏にひとつのイメージが浮かんだ。
火の山。火の山は死の山。死者が集うと言われる山。
生者が死者に会うには火の山に行くしかない。
こんなところでもういないかも知れないきみを待っているのは、もうごめんだ。
狂い死にしてしまうのがオチだ。
火の山に行ってきみがいなかったらそのときは…。
いずれにしろ、僕は動いていたい。じっとしているのはいやだ。
行こう!火の山へ‥。