いざ、決戦の時
初めての戦闘シーン……………何故にこうなった!!
日が完全に落ち暗い境内で篝火で照らされている普段は鍛練場として使用されている庭の回りに詞葉と桂の模擬戦を見物するために人だかりができていた
そんな人だかりを桂は見渡しながら先程から算盤の玉を忙しなく弾いている梅に話かけている
「えらいお祭り騒ぎになってるな」
「まぁ、この時間帯は皆暇だから暇を持て余してる時に面白そうな催しが有れば自然と集まるものよ」
「暇人共め仕事しろ!!」
「自分の事を棚に挙げてなにウチの家族に悪態ついてるのかしら簀巻きにされてまた漂流したいの?」
「皆様粗末な試合ですが日頃の激務の息抜き使って頂きありがとうございます、応援よろしくー!!」
桂は人混みに青白い笑顔で冷や汗を流しながら手を振り愛想を振り撒く
「相変わらず落ち着きの無い奴ね、少しは私を見習って年相応の落ち着きを持ちなさい」
「ん?今幻聴が聞こえたような?」
「簀巻きにして火炙り」
「あ、はい、梅様を見習い大人しく静かにしてます」
「分かればいいのよ」
命の危険を察した桂は、冷や汗を流しながら言った通りに静かに大人しくまた人混みを眺めはじめる
暫く人混みを見渡しているとあることに気づく
「あのガキと母さんは、どこに言ったんだ?」
「アンタは、五分も黙ってられないのね」
口を開いた桂に対して梅は算盤の玉を弾きながら溜め息をつく
「恐らく、裏で小細工や作戦の打ち合わせでもしてるんでしょ開始時間にはまだ少し早いから気にすることはないわ」
桂の質問に対して梅は素っ気無く答えながら算盤の玉をはじく手加速させていく
「そうか……もう一つ聞いてもいいか?」
「質問の多い奴ね、答えてあげるから早く言いなさい」
梅は算盤の玉を弾く手を止めず目線だけを上げ桂の顔を見る
「さっきから、何を計算してるんだ?」
この桂の一言を聞いた瞬間梅の手が止まると同時に周りの空気も氷ついた
「何だ?急に静かになったな」
「気にすることはないわ」
「そうか」
「ええ」
「ところで、算盤で何を計算してるんだ?」
「気にすることはないわ」
「答えになってないぞ」
「気にすることはないわ」
「な「うるさいわね!!気にすることはないって言ってるのが分からないの試合に集中してなさい!!」…ごめんなさい」
梅の迫力に意味もなく桂は謝ってしまい、その場で体操座りをしながら地面にのの字を書き始める
桂がのの字を書き始めてから五分ほどたったそんな時、にわかに鍛錬場が騒がしくなると同時に梅の算盤を弾く手が止まり笑みを浮かべた顔を上げた
「どうやら、来たみたいね」
「ふむ、小細工は終わったみたいだな」
「今から丸焼きにされる奴が、なにカッコつけてんのよ」
つい先ほどまで梅に黙らされていた桂が無駄に威厳に満ちた顔つきで胸を張って詞葉と神子姫を正面に迎える
「遅くなりました」
「ごめんねー、裏で詞葉ちゃんと色々と小細工を仕込んで「わー、お母さん何ばらしてるんですか小細工の意味無くなっちゃいますよ!!」無かったけど遅くなっちゃた」
「神子姫様もう誤魔化しても手遅れですよ」
「先の食事の時の梅ぐらい手遅れだな」
「あら、なら紙一重で大丈夫じゃない」
「梅さん、自分でも紙一重って自覚があるんですね」
「いろんな意味で地獄を見たわ」
先ほどの惨劇を思いだしているのか梅は遠くを見つめたまま動かなくなってしまう
そんな中、神子姫は桂と詞葉の周りを、くるくると回りながら移動していたのを止めスキップをするように小さく跳び丁度、二人の正面に立つ
その顔には何時の間にかサングラスを掛けていた
「二人とも、過去に囚われている梅ちゃんなんか他って置いて戦の準備はいいかなー!?」
「「いい〇もー!!」」
元気いっぱいに右手を上げ確認する神子姫に桂と詞葉も同じ様に右手を上げ声を揃えて答える
「二人共その答え方はなんだかよく分からないけど不味い気がするわ」
二人を呆れた眼差しで見つめながら梅はため息を吐く
「とりあえず、二人共準備や小細工はいいみたいね」
「前から思ってたけど梅ちゃん髪綺麗だよねー、何で伸ばさないの?」
「神子姫様そんな事は後にしてください」
「梅ちゃんそんな怖い顔しちゃ美人が台無しだよ」
「お願いですから少しの時間でいいですから大人しください」
「詞葉ちゃんも梅ちゃんが髪伸ばしたらもっと綺麗になると思わない?」
「そうで「詞葉」……」
話をふられ思わず答えそうになった詞葉を梅は一言で大人しくさせると自分をからかう神子姫の言動をすべて無視をして無理やり話を進めていく
「二人共最後に此処、鍛錬場の規則について確認しておくわ」
「梅さん確認なんか必要なんですか?」
「良い質問ね、ご褒美に今夜私の部屋に来なさい「遠慮します!!」あら残念、まぁ答えは桂がいるから改めて確認の意味を込めてよ」
「梅ちゃん、お母さんでよければ夜お部屋いくよ?」
「母さん頼むから大人しくしてくれ、そのうち長巻が飛んできて立ち位置的に俺も巻き添い「チェストーー!!」キターー!!」
梅の長巻による容赦の無い突っ込みが炸裂し桂はその場から三メートルほど上空に舞い上がり五回転ほどした後地面に頭から落ち動かなくなる、ちなみに神子姫はしっかり避けて頭から落ちた桂を ねぇ、桂君大丈夫?と言いながら何処からとも無く取り出した木の枝で突っついている
「此処、鍛練場は人間が入ると四隅の岩を基点に境界線が直線的に結ばれ境界線がある間この中で人間が死んでも境界線に入る前の状態で境内の通称、負け犬部屋に自動的に移され死ぬ事はないわ。
そして残ってる勝者はこの境界線の外に出れば入る前の状態に戻るから安心して怪我をしなさい。
でも式神や召喚した魔物なんかは中で怪我も治らないし死んでも生き返らないから注意する事ね
後、精神を壊したり封印したりすると面倒だから、するなとは言わないけど程々にするように質問は無いわね」
梅は辺りを見渡し質問が無いのを確認すると 詞葉と桂に境界線に内に入る様に促す
「試合の開始は二人が境界線内に入ったと同時に開始とします。
とりあえず二人共、境界線内に入る前に握手でもしときなさい」
「梅さん、桂さんの意識が戻らないんですけど、どうしますか?」
「叩き起こしなさい」
詞葉は意識が無い桂の肩を揺すったり頭を叩いたりミゾウチに肘を入れたりして起こそうとするが一向に起きる気配がない
「駄目です、まるで屍の様ですね」
「仕方ないわね、コレは私が叩き起こすと同時に中に投げ込むから詞葉は先に中で待ってなさい」
「分かりました、でも長巻は使っちゃあ駄目ですよ」
「善処するわ」
そんな会話を終えると詞葉は境界線内に歩いて行き五十メートル程進んだ丁度真ん中の辺りで立ち止まり手にしていた刀を鞘に納めた状態で腰を落とし居合い構えで待つ
そのころ梅は桂の胸倉を掴み上げ前後に首を激しく揺すり叩き起こそうとする
「ほら、何時まで寝てるの早く起きて丸焼きにされてきなさい」
「梅ちゃん、やりすぎだと思うんだけどなー」
三十秒ほど続けたが起きる気配が微塵も無い、そんな桂の状態に焦れた梅は自分の胸元に手を入れ小指ほどの小さな竹の筒を取す
「何度起こしても起きない自分の愚かさを呪いなさい!!」
「うわー、アレを使うなんて梅ちゃんの鬼畜さんめ」
竹の筒から薬を一粒取り出し桂の口の中へ放り込むと何故か桂の体が大きく跳ねた
「ギャーーーーー!!口の中が痛辛れーーーーー!!」
そして桂が起きると同時に梅が胸倉を掴み直し一本背負いの要領で境界線内に投げ入れる
ちなみに桂が空を飛んでいる最中に神子姫は、逝ってらっしゃいと笑顔で両手を振っていた
「詞葉そっち行ったわよ」
「ハイ、斬り落とします!!」
境界線内に投げ込まれ仰向けに倒れている桂に向かって詞葉は納刀したまま腰を落とした低い構えで走り抜けて行く
「梅の奴容赦ねえな、それにしても何を口の中に放り込んだんだよ。まだ口の中が痛辛いぞ」
「桂さん覚悟です!!」
上半身だけ起き上がった桂の首に鞘に納めていた刀を抜き襲いかかる
「そう慌てるなって」
「ハッ!!」
詞葉の居合いに対して桂は上半身を後ろに倒し刀を回避し後ろに倒れた勢いを利用し後転の要領で起き上がり間合いをとる
詞葉は、そんなのお構いなしに何度も斬りかかっていく
「おいおい、コッチはまだ寝起きで眠いんだ、手加減してくれよ」
「大人しく斬られれば二度寝が出来ますよ、ですから大人しく斬られて下さい!!」
「あー、それも悪「惨たらしく死ねー!!」いな!!」
「チッ、さっきから逃げてばかり、こんな小さな女の子がそんなに恐いんですか!!」
「恐いわ!!刀振り回して自分に迫って来るガキが怖くないわけ無いだろ!!」
詞葉の執拗な斬り込みを全て大きく間合いを取る事で避け続ける桂に対し詞葉も無駄と感じ、桂が斬り込みを避けた際に大きく間合いを取ったのに合わせて自らも後ろに下がり間合いを更に大きく広げる
「ん?どうした猪娘唯一のとりえの猪突猛進は止めたのか!?」
詞葉は桂の挑発が終わるとほぼ同時に眉間に向かって親指程の小さな飛礫を投げつける、桂は不意を衝かれたが間一髪で避けたが右に体制を大きく崩してしまう
「死んで下さい!!」
「断わる!!」
そこにいつの間にか踏み込んでいた詞葉が体制が崩れ無防備に晒されている桂の首を刀で迎え入れるように右から左に薙ぐが、桂は自らさらに体制を崩し刀の下を潜るように回避する。
そして崩れた体制を戻さずそのまま逃げるようにまた距離を取り自分を落ち着ける為に深呼吸をする
「全く今のを避けますか、あまり手を妬かせないで下さい。それにしても嫌な奴ほど長生きするって本当みたいですね」
「うっさい、全く歳上を敬う事を知らんガキだ」
「敬うべき人は敬いますよ、桂さんは私の中では敬わなくていい歳上の三人目です」
「ちなみにもう二人は?」
「お母さんと梅さんです!!」
「詞葉終わったら覚えときなさい」
「詞葉ちゃん、お母さん傷付いちゃったな、今夜お布団の中でじーくりお話しよっか」
結界の外からの言葉に詞葉は立ち合い中に冷や汗をかき始め震え出す、桂はそんな詞葉に哀れそうな眼差しを向け、この立ち合いの後起こるであろう惨劇を妄想もとい想像し両手を静かに合わせ合掌
「ぜ、全部桂さんのせいです、もう許しません!!」
「逆ギレ!!」
「次の打ち込みからは、本気でいきます!!」
詞葉の見事な逆切れに対し結界の外からは待ってましたとばかりに物凄い数の野次が飛ぶ
「桂君がんばれー」
「大人しく焼かれときなさい」
「「「まーる焼き!!まーる焼き!!肉も骨も残さず灰になれー!!」」」
「本当に此処の神社の巫女は揃いも揃って口が悪すぎるだろ親の顔が見て見たいぜ」
「此処にいるよー」
「……この人が親なら仕方ないか諦めよう」
「桂君今の凄く失礼だよ。それより詞葉ちゃんの事ほおって置いて大丈夫なの?闘ってる時に余所見するのお母さんあんまり関心出来ないなー」
「そう言えば忘れてたな危ない危ない、それにしても今の隙を見逃すのは大人しすぎるな、どうした猪娘疲れたのか!?」
神子姫に注意され視線を戻すと詞葉は静かに神楽を舞っていた
その光景を見た桂は慌てて拳を握り地を滑る様に駆け間合いを詰める始める
「かなりヤバイな、頼む間に合ってくれ!!」
「占い道理だね、無理だよ諦めても諦めなくても丸焼きだよー」
「馬鹿桂!!あんた後で八回半殺しにしてから九回殺して殺るから覚悟しなさい!!」
「酷い仕打ちだな!!余計、拳を間に合わせる理由が増えたな……届け!!」
桂が詞葉を手の届く距離に納め拳を突くがすでに遅かった。
結界の外では神子姫が嬉しそうに丸焼きと呟き、梅が算盤を握り潰しながら空を仰ぎ、観客の三分の二が歓喜を叫び残りは皆地面に泣き崩れる
そして詞葉は桂突きが届くギリギリの所で詰みの詞を紡ぐ
「炎舞神楽三の段、直炙り!!」
後愛読ありがとうございました。
次回もお楽しみ下さい