プロローグ
「渡辺、目を閉じたらダメ」
「そ、そんなこと言われたって、あなた裸でしょうが!!」
「うん」
「うん、じゃないよ! 服を着なさい!」
何でこんなことになったんだ。
俺はただ現役のイラストレーターの銀城さんに絵の添削をお願いしただけなのに……どうしてヌードデッサンすることになった?
俺は一体どこで道を踏み外してしまったんだ?
「服着たよ」
「ほ、ほんとでしょうね?」
「疑うなら確かめたら?」
「そ、そうですね……」
薄く目を開ける。
ぼやけた視界が鮮明になるにつれて、銀城さんの裸体が目に映って……。
「っ!? ふ、服着てないじゃないですか!!」
すぐに目を閉じる。
「童貞?」
「童貞かは関係ないでしょ! ここ学校! 誰も使ってない空き教室ですけど、万が一誰か入って来たらどうするつもりなんですか!」
「鍵閉めてるから大丈夫」
「そういう問題じゃ……と、とにかく服を着てください!」
何でこの人は恥ずかしそうにしないのか。
さっき薄っすらと目を開けた時、俺に裸を見られたにも関わらず、銀城さんは無表情だった。
この人は普段から感情の起伏がない。それでも、裸を見られたらちょっとは恥じらうでしょ!
「家に来て」
「え、い、家って銀城さんの……?」
「他にある? 学校は誰か来るかもしれないって言ったから」
「いやいやいや、家だと家族に会うじゃないですか!」
「一人暮らしだから大丈夫」
マジですか……。
高校生で一人暮らしなんて初めて聞いた。
「イラストレーターになりたくないの?」
「それはなりたいです!」
「渡辺の絵は下手。上手くなりたいならついて来て。そうじゃないなら、さようなら」
「うぅ……」
現役の人に教えてもらうなんてお金払っても無理な状況。それが今目の前にあるのに、手放すなんて出来るわけがない。
「わかりました、ついて行きます! ただ、服を脱ぐのはやめてください!」
「…………」
あ、あれ、反応がないぞ……。
なんかゴソゴソ聞こえる。
鍵の開く音がしたぞ。
「バイバイ」
「っ!!」
これついて行かないと終わるやつだ!
目を開けると、銀城さんはいつの間にか制服姿で、今まさに教室を出ようとドアを開けているところだった。
俺は机の上の筆記用具とスケッチブックを急いで鞄の中にしまい、肩にかけて追いかける。
「ま、待ってください! 俺に絵を教えてください!!」
「ならついて来て」
「はい!!」
こうして俺は、銀城さんのお家に行くことになったけど、不安だ……これから一体何が待ち受けているのか……。




