三丁目の自動販売機
大学生のタケルは、深夜の散歩中にいつも奇
妙な光景を目にしていた。
近所の三丁目にある古い自動販売機の前に、
決まって同じ男が立っているのだ。
男は自販機の取り出し口にじっと手を差し込
んだまま動かず、何かを待っているようだった。
小銭でも詰まらせたのだろうか。
最初はそう思って通り過ぎていたが、一週間、
二週間と経っても、男は毎晩同じ姿勢でそこ
にいた。
ある蒸し暑い夜、喉が渇いたタケルは男の隣
の自販機でコーラを買うことにした。
すぐ隣に立ってみると男は目を閉じ、とても
幸せそうな顔をしていた。
「あの、何か故障ですか」
勇気を出して声をかけると、男は目を開けず
静かに首を振った。
「いえ、ちょうどいいんですよ。ここは、
明日の予報が一番早く届く場所なんです」
意味が分からずタケルが首を傾げると、男は
取り出し口から、冷えた缶を一本取り出した。
それは見たこともない真っ白なラベルの缶で、
表には大きく『快晴』とだけ書かれている。
「これのおかげで、明日の傘の心配をしなく
て済む。君も一本どうですか。今ならまだ、
午後のにわか雨が残っているかもしれない」
男はそう言い残し、満足げに夜の闇へ消えて
いった。
タケルは薄気味悪くなり、自分のコーラを握
りしめて急いで家へ帰った。
翌朝、目が覚めると窓の外は抜けるような
青空だった。
テレビをつけると、アナウンサーが困惑した
顔で原稿を読んでいる。
「本日の天気ですが、気象庁の予想を大幅に
裏切り、全国的に一切の雲がない完璧な快晴
となる見込みです。
原因は不明ですが、まるで誰かが空を洗った
かのようです。」
タケルは昨夜の自販機を思い出し、喉の奥が
乾くのを感じた。あの男が飲んでいたのは、
本当にただの飲料だったのだろうか。
ふと部屋のゴミ箱を見ると、昨夜飲んだはず
のコーラの空き缶が転がっている。
そこには、買った時には確かにあったはずの
赤いロゴが消え、代わりに小さく『微風』と
いう文字が浮かんでいた。




