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第8章 判断が発生しなかった一日

目が覚めたとき、アラーム音は鳴っていなかった。

正確には、鳴ったのかもしれないが、音として認識される前に止まっていた。

起床に適した時間だった、という通知が後から表示されていた。

カーテンはすでに開いていた。

外の明るさに合わせて調整されていたらしく、眩しさは感じなかった。

「今日は早く起きすぎた」とも

「寝坊した」とも思わなかった。

洗面所に向かい、歯を磨きながら、

今日は何をすればいいんだろう、と一瞬考えた。

考えた、というほどでもなかった。

その疑問は、画面を確認する前に解消されていた。


朝食は用意されていた。

選択肢は表示されなかった。

表示されなかったことを、不親切だとは感じなかった。

食べ終えたあと、

「満足度:標準」

という記録が自動で残されていた。

標準、という言葉は便利だった。

良くも悪くもない、という意味を

考えなくて済む。


外に出ると、移動手段はすでに決まっていた。

どれを選ぶかではなく、

「これで行く」という結果だけが提示されていた。

途中で予定が変わることはなかった。

変わらなかったことが、幸運なのかどうかも分からなかった。

仕事の内容は、

「本日対応分」

としてまとめられていた。

順番を変える理由は見つからなかった。

理由が見つからないことは、問題ではなかった。


昼休憩の時間も、

「適切なタイミング」で通知された。

空腹を自覚する前だったが、

食べ始めると、確かに空腹だった気がした。

どこで食べるかを考える必要はなかった。

考えなかったことを、怠惰だとは思わなかった。

周囲の人も、似たような動きをしていた。

同調している、という感覚はなかった。

単に、揃っていた。


午後、

一件だけ「確認」が入った。

この判断を維持しますか?

内容を詳しく見る前に、

「維持されました」という表示に切り替わった。

確認された、という事実だけが残った。

自分が答えた記憶はなかった。

答えなくて済んだことに、

安堵している自分に気づいて、

そのことを深く考えないようにした。


帰宅の時間も、

「今日としては適切」

と記されていた。

帰り道で、

環状リニアの高架が視界に入った。

速く走る車両を見ても、

速いとは思わなかった。

遅れていない、という感覚だけがあった。


家に戻り、

一日の記録が自動生成されていた。

大きな問題なし

想定外の事象なし

判断負荷:低

読み終えて、

何か足りない気がした。

だが、

何が足りないのかは分からなかった。


ベッドに入る直前、

端末が静かに通知した。

本日は適切に処理されました

処理、という言葉が

自分に向けられているような、

向けられていないような気がした。

考えようとしたが、

考える理由が見つからなかった。


その日、

自分で判断したことがあったかどうかを

思い出そうとしてみた。

起きたこと。

食べたこと。

移動したこと。

働いたこと。

帰ったこと。

どれも確かに、自分がやったことだった。

ただ、

「決めた」という感触だけが、

どこにも残っていなかった。


それでも、

不満はなかった。

眠る前に、

「今日は良い一日だった」

と評価されているのを見て、

その評価に異論はなかった。


翌日の準備は、

すでに完了していた。

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