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第4章 任せない理由が説明できない

その人は、判断補助を使わない理由を聞かれて、少し困った顔をした。

「嫌いってわけじゃないんだけど」

「危険だと思ってるわけでもない」

言いながら、

自分でも納得していないようだった。

周囲は急かさなかった。

反論もしなかった。

ただ、続きを待っていた。


「なんというか……」

と彼は言って、言葉を探した。

「自分で決めたい、っていうか」

「決めてる感じが、なくなるのが」

そこで、言葉が止まった。

“感じ”

という表現が、

この場にはあまり向いていないことを、

本人も分かっているようだった。


別の人が、助け舟のように言った。

「でも、結果は同じじゃない?」

「むしろ良くなってることも多いし」

それは事実だった。

失敗は減っている。

時間も短縮されている。

数字で示されると、

反論する余地はほとんどなかった。


「そうなんだけどさ」

と彼は言った。

「結果の話じゃなくて」

「その前の話で」

その“前”が何なのかを、

うまく説明できなかった。

過程。

感触。

責任。

どれも言葉にすると、

少し大げさに聞こえてしまう。


「それって、慣れの問題じゃない?」

誰かが言った。

「最初は違和感あるけど、

 すぐ普通になると思うよ」

その言葉に、

彼は反論しなかった。

反論できなかった、

というより、

反論するほどの確信がなかった。


話題は、

自然に別のことへ移っていった。

誰も勝った顔をしていなかった。

誰も負けた顔をしていなかった。

ただ、

一つの話題が

未完了のまま閉じられた

感じが残った。


後で、その人と二人きりになったとき、

もう一度聞いてみた。

「やっぱり、使わないの?」

彼は少し考えてから、

肩をすくめた。

「使わない理由を、

 ちゃんと説明できなくなったら、

 たぶん使うと思う」

その答えは、

冗談のようで、

とても現実的だった。


「理由がないと、

 続けられないから」

そう言って、

彼は笑った。

その笑顔は、

諦めというより、

受け入れに近かった。


その日の帰り道、

自分も同じことを考えていた。

なぜ使っているのか。

なぜ完全には任せていないのか。

理由を並べようとすると、

どれも弱かった。

便利だから。

早いから。

失敗が減るから。

それらは

使う理由 にはなっても、

使わない理由 にはならなかった。


「自分で決めたいから」

その言葉を、

心の中で言ってみる。

言えなくはない。

でも、

それだけでは足りない気がした。

誰かを納得させるには、

自分を納得させるには。


その夜、

端末が通知した。

この判断は、

多くの利用者の選択と一致しています

その表示を見て、

少しだけ安心した。

同時に、

その安心が

どこから来たのかを

考えないようにした。


任せない理由は、

まだ存在していた。

ただ、

言葉にした瞬間に、

 力を失うようになっていた。

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