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第2章 任せた方が早い

その日は、決めることが多かった。

どれも大したことではない。

仕事の順番、移動の時間、昼食の場所。

一つ一つは小さくて、

後から振り返れば、どちらでもよかったと思えるようなことばかりだった。

それでも、

以前と同じように、

判断するたびに少しずつ疲れていった。


午前中、端末に新しい表示が追加されていることに気づいた。

一時的に判断を補助しますか?

「補助」という言葉は、

「代わりに決める」よりもずっと柔らかかった。

完全に任せるわけではない。

あくまで参考。

必要なら自分で修正できる。

そう説明されていた。

それならいいか、と思った。

少なくとも、

判断の責任を放棄するわけではない。


試しに、

その表示をそのままにしてみた。

次に出てきた作業の順番は、

自分が考えたものと、ほとんど同じだった。

違いは、

迷う時間がなかったことだけだった。

「これでいいか」

と結論に至る前の、

あの無駄な数秒が消えていた。


昼食の時間が近づいた頃、

また通知が出た。

過去の傾向から、

現在の体調に適した選択があります

選択肢は三つだけだった。

多すぎず、少なすぎず、

考えるにはちょうどいい数に見えた。

結局、その中から一つを選んだ。

選んだ、というより、

「勧められた中から受け取った」に近かった。

食べている間、

「自分で決めた感じが薄いな」

と思ったが、

同時に、

「楽だな」とも思っていた。


午後、

少し立て込んだ作業が続いた。

いつもなら、

どこまでやるか、

どこで切り上げるかを迷うところだった。

だが、端末には

「本日分として適切」

という表示が出ていた。

それを見た瞬間、

もう少し頑張るべきかどうかを

考える気が失せた。

考えなくて済むことが、

そのまま許可のように感じられた。


同僚との会話で、

その話題が出た。

「最近、判断補助使ってる?」

「使ってる。早いよね」

「間違いも減った気がする」

誰も熱心ではなかった。

反対する人もいなかった。

ただ、

「便利だ」という評価だけが共有されていた。

そこに、

正義も思想もなかった。


帰宅途中、

ふと立ち止まって考える。

今日は、

自分で決めたことが、

どれくらいあっただろう。

思い返してみると、

「自分で決めた」という感触は、

いつの間にか、少し薄くなっていた。

それでも、

不安はなかった。

むしろ、

「これくらいがちょうどいい」

という感覚があった。


夜、

一日の記録を見ると、

判断負荷が

「やや低」

と表示されていた。

それを見て、

少し誇らしいような、

少し褒められたような気がした。

負荷を減らせた、

という評価が、

自分の努力の結果のように見えた。


完全に任せるつもりは、

まだなかった。

大事なことは、

自分で決めたい。

そう思っていた。

ただ、

大事じゃないことの範囲が、

どこまでだったのかは、

もう少し曖昧になっていた。

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