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第1章 選択肢が多すぎる

目が覚めた瞬間、

起きたくない、という感情が先に来た。

眠いわけではなかった。

体が重いわけでもない。

ただ、起きるかどうかを決めるのが面倒だった。

まだ少し時間がある。

でも、このまま寝ていたら後で後悔する気もする。

その「後で」を想像するだけで、気が重くなった。

結局、布団を蹴って起き上がった。

自分で決めた、という感触があった。

それと同時に、

「もっと楽な選択肢はなかったのか」

という疑問も残った。


カーテンを開けるかどうかで、少し迷った。

外が明るすぎたら、気分が落ちる気がした。

でも、閉めたままにする理由もなかった。

開けてみると、思ったより天気が良くて、

それが少しだけ癪だった。

「今日はいい日だ」と言われているみたいで、

その期待に応えられる気がしなかった。


朝食をどうするかを考える。

食べない、という選択肢も頭をよぎったが、

あとで集中できなくなる自分の姿が浮かんで、やめた。

冷蔵庫の中身を見ながら、

「何を食べたいか」ではなく

「後悔しなさそうなもの」を探している自分に気づく。

悩んだ末、

これといって好きでも嫌いでもないものを選んだ。

選んだあと、

「本当にこれでよかったのか」

という気持ちが、少しだけ残った。


外に出る前、

今日はどんな一日になるだろう、と考えた。

特別な予定はない。

だからこそ、

うまくいかなかったら全部自分のせいになる気がした。

どの道を通るか、

どの電車に乗るか、

そんな些細なことでさえ、

間違えたら一日が台無しになるような気がした。

実際には、そんなことはないと分かっている。

でも、分かっているだけでは足りなかった。


移動中、端末が通知を出した。

この選択は、過去の傾向と一致しています

それを見た瞬間、

胸の奥が少しだけ軽くなった。

間違っていなかった、

と言われたような気がした。

同時に、

「誰に確認してもらっているんだろう」

という考えが浮かび、

その考えを慌てて振り払った。


仕事中も、

小さな判断が次々に出てくる。

どれから手を付けるか。

どこまで丁寧にやるか。

今日は頑張る日なのか、流す日なのか。

判断するたびに、

正解だったかどうかが気になった。

疲れた、というより、

責任を背負い続けている感じがした。


昼前、

「誰か代わりに決めてくれたらいいのに」

という言葉が、

心の中ではっきりした形を取った。

その言葉に、

少しだけ罪悪感を覚えた。

自分の人生なのに。

自分の一日なのに。

でも同時に、

その言葉がとても正直だとも感じた。


夜、ベッドに横になって、

今日のことを思い返す。

大きな失敗はなかった。

でも、胸を張って「良い一日だった」とも言えない。

それでも、

「全部、自分で決めた一日だった」

という実感は、確かに残っていた。

その実感が、

重たいような、

手放したら楽になれそうなもののような、

どちらにも感じられた。


まだこの頃は、

判断は当たり前にそこにあって、

それを疑う理由もなかった。

ただ、

重たいものを、ずっと持ち続けている感覚

だけが、

静かに蓄積していた。

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