コン、コン
すずめのさえずりが、少し開いた窓から聞こえてくる。
淡い光が部屋を包み、シーツと散らばったヒナの髪を優しく照らしていた。
ヒナはゆっくりと体を伸ばし、まだ眠気の残るまぶたを開く。
そして、少しずつ体を起こした。
隣ではサキが静かに眠っている。
規則正しい呼吸のたびに、布団の端から少しはみ出た尻尾が、夢の中で動くように小さく揺れた。
ヒナはその様子を見つめながら、ふっと微笑んだ。
「……寝てるのに、やっぱり音出すんだね」
小さく笑いながらつぶやく。
彼女はそっとベストを羽織り、足音を立てないようにして部屋を出た。
台所では、やかんに火をかけ、昨日のご飯と卵、そして味噌を取り出す。
やがて、温かい出汁と緑茶の香りが部屋いっぱいに広がっていった。
日曜の朝には、特別な静けさがある。
外からの騒音もなく、急ぐ理由もない。
ただ、ゆっくりと時間が流れていく――。
ヒナは食卓に二つの茶碗を置き、寝室の方をちらりと見る。
まだ音はしない。
彼女は静かに近づき、少しだけ扉を開けた。
サキはまだ眠っていた。
手を布団の上に置き、枕に髪を散らしている。
半分だけ見える耳が、鳥の声に反応するようにぴくりと動いた。
ヒナはその場でしばらく見つめる。
「……今のあなた、本当に穏やかね」
そう小さくつぶやいた。
けれど、扉を閉めた直後――サキがもぞもぞと動き、目をこすりながら起き上がる。
寝ぼけた声で言った。
「ヒナ……いいにおい……おなかすいた……」
ヒナは思わず吹き出した。
「はいはい、わかってるよ。朝ごはん、できてるから。」
数分後、二人は食卓につき、手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます……」と、まだ眠そうにサキが繰り返した。
二人はゆっくりと食べながら、ヒナが時々サキの箸の持ち方を直してあげる。
昨日よりもずっと慣れてきたサキは、上手くできるたびに小さく誇らしげな顔を見せた。
穏やかな朝食の時間が過ぎていく。
ヒナが片付けをしていると、サキはスプーンに残った最後の味噌汁をぺろりと舐めていた。
その時――
コン、コン。
玄関の方から、はっきりとした音が響いた。
二人の動きが止まる。
静かな家の中で、その音だけが際立つ。
ヒナはゆっくりとサキの方を見る。
「……誰か、ドアを叩いた?」
サキは小さく首をかしげ、不安そうに言った。
「……トモダチ?」
ヒナは手を拭きながら、心臓が少しだけ早く打つのを感じた。
「日曜の朝に、誰が来るのかしら……」
彼女は玄関へと歩み寄り、少しだけ迷ってからドアノブに手をかける。
コン、コン。
今度は、少し強めに。
「……はい、今行きます。」
ヒナは小さく答えた。




