表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と私  作者: ライアン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

幸せを料理する

昼の陽ざしがカーテンの隙間から差し込み、部屋の中をやわらかく照らしていた。

ヒナが鍵を回すと、小さな「カチッ」という音が鳴り、ドアが開く。

家の中には、いつもの静けさと、木と洗剤のやさしい香りが広がった。


「ただいま。」ヒナが靴を脱ぎながら言う。

サキも少しぎこちなく靴を脱ぎ、部屋を見回した。まるで初めて見るような目つきだった。


ヒナは買い物袋をローテーブルの上に置き、エプロンをつけて袖をまくった。

「よし……お昼の準備をする前に、少し片づけよう。」

サキは首をかしげた。

「か…かたづけ?」


「うん、お掃除のことだよ。」ヒナは微笑んで説明した。「見ててね。」


彼女はソファに置きっぱなしだった服をたたみ、テーブルを拭き、窓際のほこりを払った。

サキはじっと観察しながら、同じように真似をしてみるが、いつも何かを落としてしまう。


「わっ……あっ、だめだよ、それは。」ヒナは笑いながら、ぐらついた花瓶を支えた。

「ご、ごめんなさい……。」サキはしょんぼりと耳を垂らす。

「大丈夫。少しずつ覚えればいいから。」


掃除が終わると、ヒナは台所へ向かった。

鍋の中でお湯がやさしく沸き、彼女は米を研ぎ、野菜を切り始めた。

サキは椅子に座り、足をぶらぶらさせながら、その手つきを興味深そうに見つめていた。まるで神聖な儀式でも見ているかのように。


「お手伝いする?」ヒナが尋ねる。

サキは嬉しそうにうなずいた。

「する!」


ヒナは小さな包丁を手渡しかけて、すぐに取り消した。

「ううん、やっぱり……こっちを混ぜてくれる?」


「うん!」

サキは真剣な顔でボウルを混ぜ始め、ソースを少し飛ばしてしまった。

「上出来、上出来。」ヒナは笑いながら言った。「これも立派なお手伝いだよ。」


やがて、食卓の準備が整った。

湯気の立つお皿が二つ、味噌汁と漬け物の小皿が並ぶ。


ヒナは手を合わせて言った。

「いただきます。」


サキも目を輝かせて真似をする。

「い、い…ただきます!」


ヒナは微笑みながら彼女を見つめた。

サキは一口食べると、目を閉じて小さく声を漏らした。

「おいしい……。」


「ふふ、作ったのは私だよ?」ヒナが少し得意げに言うと、サキは真面目な顔でうなずいた。

「ヒナ……すごい料理人。」


ヒナの笑い声が、温かなごはんの香りとともに、小さな家の中にやさしく響いた。

それは、穏やかで幸せな午後の音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ