表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と私  作者: ライアン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

朝の光と小さな幸せ

通りは静かで、やわらかな陽ざしが家々の窓ガラスをきらりと照らしていた。

ヒナは肩にかけたバッグを揺らしながら、サキと並んで歩いていた。

風がふわりと二人の髪をなでていく。


ヒナは考え込んでいた。

「いつもより少し多めに買えば、今週は足りるかな……」と小さくつぶやく。


隣を歩くサキに目を向けると、彼女は耳を隠すためにフードをかぶり、ほとんど跳ねるような足取りで歩いていた。

「それに……誰も気づかないよね。ちょっと変わったコスプレの子だって思うだけ。」


ヒナの口元に小さな笑みが浮かんだ。

危険だとは分かっていたけれど、サキを一人で家に残すのは気が引けた。


やがて、二人は大きなガラス張りのスーパーマーケットの前にたどり着いた。

自動ドアが開くと同時に、ひんやりとした冷気が二人を包み込む。


「さあ、カゴを取ってね。」ヒナが優しく言う。

サキはこくりとうなずき、不器用にカゴを引っ張ろうとしたが、まるでおもちゃのように引きずってしまった。

「そうじゃないの……ほら、こうやって持つの。」

ヒナが見本を見せると、サキは真剣な表情でそれを真似し、ぎこちない足取りでついてくる。


整然と並んだ棚の間を歩くと、焼きたてのパンの香りが漂ってきた。

ヒナは足を止め、ペット用品の棚を見つめた。

猫の写真がプリントされたキャットフードの袋がいくつも積まれている。

彼女はその一つを手に取り、少し遠い目をした。


「前はこれが好きだったよね……」と小さくつぶやく。

視線をサキに向けると、彼女は缶詰をまるで古代の宝物でも見るように眺めていた。

「でも、もう完全に猫ってわけじゃないんだよね?」


サキは瞬きをして首をかしげた。

「ニャ……じゃなくて……おなか、すいた。」


ヒナはくすっと笑った。

「うん、分かってるよ。ちゃんとごはん買おうね。」


二人は生鮮食品のコーナーへ向かった。

ヒナは米と牛乳、いくつかの野菜をカゴに入れ、最後に本と雑誌の棚の前で立ち止まった。

ふと、彼女の目に一冊の小さな本が映る。

『日常生活ガイド ― 社会での正しいふるまいを学ぼう』


ヒナはそのページをぱらぱらとめくりながら、少し考え込んだ。

「……もしかしたら、サキの役に立つかもね。」と微笑む。


一方のサキは、お菓子の棚をきらきらした目で見つめていた。

ヒナは小さくため息をついた。

「はぁ……しょうがないな。ひとつだけよ。」


サキはうれしそうにお菓子を抱きしめ、まるで宝物のように胸に押し当てた。

そして、ヒナの心の奥に、久しぶりに何かあたたかいものが灯った。

――それは、忘れかけていたごく普通の小さな幸せだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ