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猫と私  作者: ライアン


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2/10

新しい日常のはじまり

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、ヒナの隣で眠る少女の頬を優しく照らした。

彼女は静かに呼吸をしていて、唇から小さな寝息が漏れている。

猫の耳が、遠くの音に反応するようにピクッと動いては、またゆっくりと垂れた。


ヒナはまだ信じられない思いで、そっとスマホを手に取った。

(これ…本当にサキ、だよね?)

胸の鼓動が早くなる。


少し迷ってから、眠っている少女の顔の前にカメラを向けた。

布団から出ているのは頭だけ。

柔らかそうな黒髪、ほんのり赤い頬、そしてピンと立った猫耳。


ヒナは思わず微笑んだ。

「……かわいい。」


パシャッ。

スマホのシャッター音が静かな部屋に響き、小さな白い光が瞬いた。


その瞬間、サキがピクリと動いた。

黄金色の瞳がぱっと開き、光に反応して細くなる。

「……にゃ?」

かすれた、寝ぼけたような声。

そして次の瞬間、勢いよく起き上がった。


「わっ!?」

ヒナは思わずのけぞる。

サキは鼻をひくひくと動かし、周りの匂いを確かめるようにしていた。


「サ、サキ! 落ち着いて、私だよ!」

慌てて叫ぶヒナ。


猫耳の少女はヒナを見つめ、首をかしげ――次の瞬間、ぱっと抱きついてきた。

頬をすりすりと押し当てながら、嬉しそうに言う。

「ヒナのにおい……あったかい……」


ヒナの心臓が破裂しそうだった。



---


数分後。

ヒナはサキをそっと風呂場へ連れて行った。

湯気がゆらゆらと立ちこめ、浴室が温かい空気で満たされていく。


まだ眠たそうなサキは、裸のまま周囲をきょろきょろ見回しながら言った。

「ここ……あったかい?」

「うん、お風呂だよ。気持ちいいから、入ってごらん。」

ヒナは笑顔で言いながら、心の中では少しドキドキしていた。


サキはおとなしく湯船に座り、耳をしょんぼりと下げた。

ヒナが髪を洗い始めると、サキは目を閉じ、気持ちよさそうに喉を鳴らす。

「にゃぁ〜……きもちいい……」

「ふふっ、動かないでね。すすげなくなっちゃうから。」


しかし、水がしっぽや頭にかかるたび、サキは「ひゃっ」と跳ね、バシャバシャと手を振った。

「つめたい! つめたいの!」

「つめたくないよ! ぬるいってば!」

ヒナは笑いながらびしょ濡れになった。


ようやく全部洗い終えると、ヒナは大きなタオルでサキを包み込み、やさしく拭いた。

サキは自分のしっぽを両手で抱きしめ、「水との戦いに勝った」ような得意げな顔をしていた。



---


部屋に戻ると、ヒナはクローゼットを開けて古いセーターとショートパンツを取り出した。

少し大きかったけれど、サキは嬉しそうに袖を通す。

「ふわふわ……ヒナのにおい……すき。」

「も、もう……やめてよ……」

ヒナは真っ赤になって視線を逸らした。


二人はリビングのテーブルに座った。

ヒナは温かいミルクを注いで、サキの前に置く。

サキは両手でカップを持ち、くんくんと匂いを嗅いでから、ゆっくり口をつけた。

ピクッと耳が立つ。

「おいしい! すごくおいしい!」

ヒナは吹き出した。

「ほんと、変わってないね。」


サキは顔を上げ、にっこりと笑った。

「ヒナ、笑った……うれしい?」

「……うん、ちょっとね。」


やわらかな沈黙が流れた。

朝の光がいつもより明るく見えた。


ヒナは心の中で、今日という日から自分の日常がもう戻らないことを悟った。

――でも、それが少し嬉しかった。

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