婚約破棄? 殿下には絶対に私と結婚してもらいます。二度とそんな口が聞けないように教育してあげます
「リリー・ストライド! 貴様との婚約は破棄させてもらう!」
とあるパーティの最中、王太子であるリチャードは高らかに宣言した。
彼の隣にいるのは男爵令嬢キャロル・リードン。可憐な容姿をした、思わず守ってしまいたくなるような少女だ。
「フフッ」
一方で突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢のリリー・ストライドはその顔に笑みを浮かべていた。
「何がおかしい! この俺との婚約を破棄されると知って気でも狂ったか!」
リチャードは一つ勘違いをしている。それは婚約者であるリリーが自分に惚れていると思っていることだ。
「フフッ」
「おい! 何がおかしい!」
自分をバカにしたようなような笑み浮かべるリリーをリチャードは睨みつける。
「ああ、すいません。殿下があまりにも滑稽だったものでつい」
実際にはリチャードの事を彼女は羽虫程度にしてか思っていない。
「何だと! この俺が滑稽だって!」
「そうです! そんな事を言うなんて酷いです!」
リリーのあまりにもな言葉にリチャードとキャロルは抗議する。
「すいません。つい思っている事が口から出てしまいました」
「ふざけているのかリリー! 王太子であるこの俺にそんな口を聞くなんて!」
「それで、婚約破棄でしたっけ?」
「そうだ!」
「一応理由を聞いておきましょうか?」
この状況を見ればリチャードが婚約を破棄したい理由など想像つくが、リリーは確認の意味も込めて質問をする。
「俺は真に愛する女性を見つけたのだ! だから可愛げのないお前との婚約は破棄する!」
「そんな理由でですか?」
この婚約は王家と公爵家が結んだもので、そう簡単に無くすことができるものではない。
「俺の事が好きなお前には辛いだろうがな」
しかし、リチャードにはそんな事を考える頭はなかった。
彼の頭の中では自分が宣言した時点でもう婚約は破棄されたことになっており、いまはキャロルとの結婚生活に思いを馳せていた。
「…」
「どうした? 図星をつかれて言葉も出ないか?」
「…っ」
「昔からお前は俺のことが好きだったしな」
「フハハハハハハハ!!」
本気でリリーが自分の事を好きだと思っているリチャードの思い違いに彼女は耐えきれなくなった。
「あー、久しぶりにあんなに笑いましたよ。私のこと笑い殺す気ですか? いえ、その方が殿下にとっては都合が良いですもんね」
「何が言いたい!?」
「だって殿下が面白いことを言うもんですから」
「俺は至って真面目だ!」
「私が惚れてる? 地位と顔しか取り柄のない殿下に? フフッ、笑わせないでくださいよ」
「貴様! この俺をバカにしてるのか!」
「してますけど。今さら気がついたんですか?」
「リリー! この俺に対して先ほどから無礼だぞ!」
先刻からのあまりにも言い草に激怒するリチャード。
「それで、この婚約は王家とストライド家によって結ばれた婚約。どのような理由があって殿下は婚約破棄をするつもりなのですか?」
リチャードとの話しを無視して会話を続けるリリー。
「お前は俺の可愛いキャロルを虐めただろ!! そのような女と結婚なんてできるか!!」
理由を聞かれたリチャードは自信満々でリリーを糾弾する。
「何故私がそのような事をしないといけないのですか」
「それはお前がキャロルに嫉妬していたからだ」
「そうですか。殿下は私との婚約を破棄すると。それでいいんですね」
「ああ。お前との婚約は破棄する!」
「残念です」
「なんだ? この俺と結婚出来ないのがそんなに嫌なのか!? やっと素直になったなリリー!」
自分のことを好きなはずの女に馬鹿にされ続け、自身のプライドを傷つけられたリチャードはリリーの発言に歓喜する。
「ああ、本当に残念です殿下」
言葉とは裏腹に楽しげな表情を浮かべるリリー。
「殿下との婚約は破棄しません」
「何! この俺に逆らうというのか!」
「国王様と約束していますので」
「ち、父上と!?」
父である国王の名前が出てきて動揺するリチャード。
「殿下が婚約破棄なんて言い出したら好きに教育していいと」
リチャードは王としての素質に問題があると国王や臣下から思われている。
その為、幼い頃から才女と言われていた公爵家の令嬢であるリリーとの婚約が決まったのだ。
つまりこの婚約はリチャードを王にするためのもの。
しかし、肝心のリチャードは成長するどころか怠けてばかり。
ろくに勉強もせず態度だけが大きくなり、問題行動ばかり起こす。
挙げ句の果てには男爵令嬢に心を奪われて、婚約破棄を画策する始末。
王もリチャードの扱いにほとほと困り果ててしまっていた。
リチャードは亡くなった王妃との間に出来た唯一の子ども。
その為、なかなか叱ることができずに国王は彼を甘やかしてしまった。それがさらにリチャードを増長させる事になると分かっていても。
しかも、王妃を愛していた国王は新しい妻を迎えることはしなかった。
つまり後継はバカ王子一人。このままだとまずいという事が分かっていても、王は行動を起こすことが出来なかった。
そんな時に息子の婚約者であるリリー・ストライドから提案があった。次期王妃としてリチャードを教育して立派な王太子にするという。
自分では何も出来なかった国王は藁にもすがる思い出でその提案を受けた。
その結果がどうなるかなど考えずに。
「そ、そんなわけないだろ! 俺との婚約を破棄したくないからと嘘をつくなリリー」
「残念ですが本当ですよ」
「嘘だろ」
「フフッ。しっかり私が調……教育してあげますわ」
「ふざけるな! そんな事をこの俺が許すわけないだろ!」
「全く。うるさい口ですね。ひとまず殿下には静かになってもらいましょうか」
リリーがそう告げると、騎士たちが入り口が入ってきてリチャードを取り押さえた。
「は、話せ! 王太子である俺にこんな事をしていいと思っているのか!! 不敬な!」
「黙らせなさい」
「は!」
リリーの命を受けた騎士はリチャードを気絶させ、会場の外に連れ出して行った。
・・・
翌日。
「おはようございます殿下」
「ここはどこだリリー!」
「今日から殿下が暮らすことになる部屋ですが」
「ふざけているのか! この俺にこんな牢屋みたいな場所で暮らせというのか!」
「あら、ピッタリでは?」
「いいから俺を開放しろ!」
「はー、躾がなってないですわ」
リリーはそう言うとリチャードの顔面を蹴り飛ばした。
「ゴバッ!」
綺麗な放物線を描きながら頭から壁に激突したリチャードの鼻はへし折れ、口の中からは折れた歯が地面に落ちる。
「痛い!! 痛い!! 痛い!!」
「可哀想な殿下。すぐに治して差し上げますね」
リチャードを見下ろして愉悦に浸るリリー。
「痛い!! 早く治せ!!」
リリーは指示通り回復魔法をかける。
「貴様!!!!」
突然の暴行にブチ切れるリチャード。
王太子という高い身分にいた彼は理不尽な事をすることはあっても、されたことは今までなかった。
だからこそ普通の人間なら恐怖するような場面でも、まだ自分の方が上の立場で安全だと信じていた。
しかしそんな勘違いはすぐに正される事になる。
「フフッ。うるさいですわ」
激怒するリチャードの顔面を、リリー再び蹴り飛ばしたのだ。
「グハッ!!」
またも顔面から壁にだいぶしたリチャードの顔はとんでもない事になったが、無言で近づいていったリリーが回復魔法をかける。
「な、何をする! 俺にこんな事をしてただで済むと思っているのか!」
怒り心頭で文句を言うリチャードをもう一度蹴り上げるリリー。
数十分後。
リチャードの心は既に折れていた。
「た、頼む。私が悪かった。もう許してくれリリー」
既にリリーから何度も何度も暴行を加えられたリチャード。着ていた衣服は自分の血で真っ赤になっていた。
「そうですね。殿下は頑張りました」
「で、では!」
やっとこの地獄から解放されるとリチャードは安堵した。
「はい。次を最後の1発にしましょう」
「え?」
「では歯を食いしばってくださいね殿下」
「ゴバッ!」
綺麗なアーチを描いてリチャードは壁に激突した。
・・・
深夜。
2人の少女が密会していた。
「上手くいきましたねリリー様」
1人は王太子であるリチャードを誑かした少女キャロル・リードン。
「ええ、貴女のおかげよキャロル」
もう1人はリチャードの婚約者であり、教育係となったリリー・ストライド。
「ありがとうございます」
そう。
この2人は協力関係にあったのだ。
「さっきのショーはどうでした?」
「最高です。おかげであの男の無様な姿をたくさん見れました」
「フフッ。そんなものはこれからいくらでも見れるわ」
「それもそうですね」
「貴女の為なら特等席を用意してあげる」
「楽しみにしてます。これでやっと姉さんの仇を討つことが……」
キャロルがリチャードを陥れた理由。それは復讐のためだった。
彼女にはアリアナという姉がおり、姉妹仲良く暮らしていた。
しかし、そんな平和な生活は終わりを迎える事になる。
アリアナが誘拐されたのだ。犯人は王太子であるリチャード。
リチャードは性に奔放であり、気に入った身分の低い女性を攫い、好き勝手にしてはもみ消してきたのだ。
そしてアリアナは次期国王の子を孕んだと殺されてしまう。
その真実を知ったキャロルは激怒し、リチャードに復讐する事を誓った。
そんな彼女の事情を知って力を貸したのがリリーだった。
リリーはキャロルをストライド家傘下の男爵家に養子として迎えるように指示。
そしてキャロルは男爵令嬢として貴族しか入学が許されない学園に潜り込み、リチャードにハニートラップを仕掛けたのだった。
「今日はめでたい日ねキャロル」
「そうですねリリー様」
「だからその可愛い顔をもっと私に見せて」
「本当に見せるだけで済むんですか?」
「さあ? どうかしら」
「だって、さっきからアタシを見るリリー様の視線がいやらしいですし」
「それは貴女が可愛いすぎるのがいけないわ」
近づいてきたキャロルを抱きしめるリリー。
「リリー様」
「愛しているわキャロル」
「アタシもです」
そのまま2人は抱き合って、愛する人との幸せな時間を楽しんだ。
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