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最弱魔法×ロボット工学=世界最強の機巧使い 〜最弱魔法は歯車で最強に変貌──異世界機巧戦記〜  作者: 宵町あかり


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第25話 炎と歯車の共鳴

王都中央広場は、この千年の歴史でも稀に見る熱気に包まれていた。


満月の日の正午――古代より魔法の力が最も高まるとされるこの瞬間に、技術と魔法の命運を賭けた対決が始まろうとしている。


円形の広場を埋め尽くす群衆は、すでに数千を超えていた。F級市民たちが最前列を占め、その後ろに商人、職人、そして貴族たちが入り混じって立っている。普段なら決して交わることのない身分の者たちが、今日だけは同じ空間で、同じ光景を見つめていた。


「カイト様!」


群衆の中から声が上がる。昨日の夜、窓から小さな飛行機械を飛ばしてくれた少年だった。その声に呼応するように、あちこちから応援の声が湧き起こる。


「技術の未来を見せてくれ!」


「俺たちの希望を!」


中央の演壇に立つカイトは、その声援に小さく頷いた。隣には、リゼ、エドガー、ハーゲンが控えている。そして少し離れた場所に、協働システムの操作を担当するF級市民たち――マリアンヌを含む5人が緊張した面持ちで立っていた。


対する演壇の反対側には、セレスティアが一人で立っている。黒いローブを纏ったその姿は、まるで千年の時を超えて現れた古代の魔導師のようだった。


「時間だ」


審査席から、エリザベス王女の凛とした声が響いた。彼女の隣には商人ギルド代表のマーカス、そして市民代表として選ばれた老職人が座っている。


「これより、魔導師団上級魔導師セレスティアと、ルーネベルク技術学校代表カイト・リュミエールによる公開対決を開始する」


王女の宣言と共に、広場全体が静まり返った。


「第一の試練――力の証明」


セレスティアが一歩前に出た。その手が宙に描く複雑な紋章から、圧倒的な魔力が立ち上る。


「千年の叡智よ、我が呼びかけに応えよ」


古代語による詠唱が響く。次の瞬間、広場の中央に巨大な炎の柱が立ち上がった。その熱気は、数十メートル離れた観衆の頬をも焼く。


「これが、真の力だ」


炎の柱は形を変え、巨大な竜の姿を取った。炎の竜は咆哮を上げ、その翼を広げる。観衆から恐怖の悲鳴が上がった。


カイトは冷静に強化版共鳴増幅器を起動させた。


「リゼ、エドガー、ハーゲン。頼む」


三人が頷き、それぞれの位置についた。装置から青白い光が立ち上り、カイトの念動力と共鳴を始める。


「防御フィールド展開」


カイトの念動力が、装置によって増幅され、巨大な透明の壁となって炎の竜の前に立ちはだかった。竜の炎がその壁に激突し、凄まじい衝撃波が広場を揺らす。


しかし、防御フィールドには亀裂が走り始めていた。セレスティアの魔法の威力は、想定を上回っている。


「マリアンヌさん!」


カイトの呼びかけに、F級市民たちが動いた。彼らが操作する集団念動力システムが起動し、5人の微弱な念動力が一つに束ねられる。


「私たちの力も、合わせれば――!」


マリアンヌの叫びと共に、防御フィールドが強化された。炎の竜の攻撃を、かろうじて防ぎきる。


「ほう」


セレスティアの眉が僅かに動いた。


「F級の念動力など、本来なら塵にも等しい。だが、それを束ねる技術か。興味深い」


第一の試練は、防御においては劣勢ながらも、持続力で互角の勝負となった。セレスティアの圧倒的な破壊力に対し、カイトたちは機械の安定性と、複数人での運用による疲労の分散で対抗したのだ。


◆◇◆


「第二の試練――精密の極致」


今度は、純粋な制御力の勝負だった。


セレスティアが掌を広げると、そこに無数の光の粒子が現れた。それらは複雑な軌道を描きながら舞い、やがて精緻な紋様を空中に描き出す。古代魔法陣の一部だった。その精密さは、まさに芸術品と呼ぶにふさわしい。


カイトは改良版の念動力制御装置を取り出した。この数週間、寝る間も惜しんで改良を重ねた最新型だ。


「機械の真価を見せる時だ」


装置が起動すると、カイトの念動力は恐るべき精度で制御され始めた。空中に浮かべた金属の粒子が、セレスティアの光の紋様と寸分違わぬ形を再現していく。


「なるほど」


審査席から、老職人が感嘆の声を漏らした。


「魔法は確かに美しい。だが、機械の正確性も見事だ。しかも――」


カイトが装置のダイヤルを回すと、金属の紋様は即座に別の形へと変化した。


「再現性と可変性。これが機械の強みです」


観衆からどよめきが起こった。セレスティアの魔法は確かに精密で美しい。しかし、カイトの技術は、その精密さを誰もが扱える形にしていた。


第二の試練は、真の意味で互角の勝負となった。


◆◇◆


「第三の試練――創造の価値」


エリザベス王女が立ち上がった。


「最後の試練は、それぞれの力が生み出す価値を問うものだ。人々にとって、より価値あるものを示してもらいたい」


セレスティアは自信に満ちた笑みを浮かべた。


「ならば、これを見よ」


彼女の魔法によって、空中に巨大な水晶の城が現れた。それは光を反射し、虹色に輝いている。観衆から感嘆の声が上がった。


「美しい幻影だ。だが、それは一人の天才にしか作れない」


カイトがそう言って、協働システムの前に立った。


「マリアンヌさん、皆さん。準備はいいですか?」


5人のF級市民が緊張した面持ちで頷いた。彼らの手には、それぞれ制御装置が握られている。


「これは、一人では動かせません。でも――」


5人が同時に装置を操作し始めた。その瞬間、巨大な機械の腕が地面から立ち上がった。それは精密な動きで、瓦礫の中から資材を拾い上げ、組み立て始める。


やがて、機械の腕は小さな家を作り上げた。粗末だが、確かに人が住める家だった。


「私たちにも、できた……!」


マリアンヌの目に涙が浮かんでいた。観衆席のF級市民たちから、歓声が上がる。


「俺たちにも、何かが作れるんだ!」


「技術があれば、俺たちも――!」


その時だった。


セレスティアの表情が変わった。冷たい怒りが、その瞳に宿る。


「愚かな……技術など、所詮は幻想だ!」


彼女の両手から、規定を超えた魔力が解放された。それは純粋な破壊の力だった。協働システムに向かって、漆黒の光線が放たれる。


「ルール違反だ!」


マーカスが叫んだが、もう遅い。


その瞬間――


「これは、公正な対決ではない」


炎の壁が、協働システムの前に立ちはだかった。


アレクサンダーだった。


A級魔法使いが、その炎魔法でセレスティアの攻撃を防いでいたのだ。


「アレクサンダー殿……なぜ」


セレスティアが震える声で問う。


「私は魔法使いだ。だが、同時に公正さを重んじる者でもある」


アレクサンダーはカイトの方を向いた。


「それに……技術を見て、分かったことがある。これは魔法を否定するものではない。共に在ることができるものだ」


「ならば、証明してみせよう」


カイトが、崩れかけた協働システムに念動力を送り込んだ。同時に、アレクサンダーが炎魔法でそれを包み込む。


誰も予想していなかったことが起きた。


カイトの機械と、アレクサンダーの炎魔法が共鳴を始めたのだ。青白い念動力の光と、赤い炎が螺旋を描きながら融合し、黄金の輝きを放ち始める。


「これは……」


セレスティアが息を呑んだ。


機械の腕は、炎に包まれながらも溶けることなく、むしろその動きは滑らかになっていった。炎の熱が動力となり、機械の精密さが炎を制御する。それは、誰も見たことのない光景だった。


「炎と歯車が……共鳴している」


エドガーが呆然と呟いた。


黄金の光は広場全体を包み込み、観衆たちの顔を照らした。それは温かく、優しい光だった。


「千年前にも、同じことを言った者がいた」


セレスティアが、力なく膝をついた。


「技術と魔法は共存できると。私は、その者を……」


彼女の瞳から、一筋の涙が零れた。


「私は、何を守ろうとしていたのか……」


◆◇◆


エリザベス王女が立ち上がった。


「審査の結果を告げる」


広場全体が、固唾を呑んで見守る中、王女は続けた。


「第三の試練において示された『創造の価値』、そして期せずして生まれた技術と魔法の融合。これこそが、我が王国の未来への道標となろう」


マーカスが頷いた。


「商人ギルドとしても、技術がもたらす可能性を認める。ただし――」


彼の視線がアレクサンダーに向けられた。


「魔法との共存を前提として、だ」


老職人も立ち上がった。


「市民の代表として言わせてもらう。今日、俺たちは希望を見た。F級の者たちが、自分たちの力で何かを作り上げる姿を。それを可能にした技術の価値は、計り知れない」


王女が最後の宣言をした。


「よって、ルーネベルク技術学校の設立を正式に認可する。ただし、魔導学院との協力関係を前提として」


歓声が爆発した。


F級市民たちが抱き合い、涙を流している。商人たちは新たな商機に目を輝かせ、職人たちは技術との融合に期待を寄せていた。


カイトはゆっくりとアレクサンダーに歩み寄った。


「ありがとうございました」


「礼を言うのは、こちらの方だ」


アレクサンダーが手を差し出した。


「君は、新しい可能性を示してくれた。技術と魔法は、対立するものではない。共に高め合えるものだと」


二人が握手を交わすと、再び歓声が上がった。


セレスティアは、呆然と立ち尽くしていた。その顔には、もはや敵意はない。あるのは、千年の重みに押し潰されそうな、一人の人間の姿だった。


「私は……」


「セレスティア様」


ソフィアが、いつの間にか彼女の隣に立っていた。


「変化を恐れることはありません。それは、否定ではなく、発展なのですから」


◆◇◆


日が傾き始めた頃、広場にはまだ多くの人々が残っていた。


協働システムの周りには、F級市民たちが集まり、マリアンヌが操作方法を説明している。その眼差しには、これまでになかった輝きがあった。


「明日から、学校が始まるんですね」


リゼが、カイトの隣で呟いた。


「ああ。でも、これは始まりに過ぎない」


カイトは、夕日に染まる王都を見渡した。


「技術と魔法が共存する世界。それを作るのは、これからだ」


エドガーが興奮した様子で駆け寄ってきた。


「カイト! アレクサンダー殿が、共同研究を提案してきた! 炎魔法と機械の融合について、もっと研究したいって!」


「それは面白そうだ」


ハーゲンも笑顔を見せた。


「強度計算に魔法の要素を組み込めば、もっと効率的な設計ができるかもしれない」


カイトは仲間たちの顔を見回した。皆、希望に満ちた表情をしている。


そして、遠くに見えるルーネベルク技術学校の建設予定地に目を向けた。明日からそこで、新たな歴史が始まる。


「行こう。準備することは山ほどある」


カイトたちが歩き始めると、群衆が道を開けた。その道は、まっすぐに未来へと続いているように見えた。


空には、満月が昇り始めていた。それは千年前と変わらぬ月だ。しかし、その月の下で起きていることは、確実に変わり始めていた。


炎と歯車の共鳴――それは、新たな時代の幕開けを告げる、希望の調べだった。

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