第22話 技術学校の門出
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「最弱魔法×ロボット工学=世界最強の機巧使い」第22話をお届けします。
ついに技術学校設立が本格始動!
古い倉庫を改装し、皆が力を合わせて学校を作り上げていきます。
F級市民たちの熱意、アレクサンダーの入学希望、王女の後援――
新しい時代の学び舎が生まれる瞬間をお楽しみください!
エリザベス王女の後援が決まってから、三日が経っていた。
かつて商人ギルドの古い倉庫だった建物の前に、カイトは立っていた。朝靄の中で佇むその建物は、長年の風雨で壁は汚れ、屋根瓦もところどころ欠けている。
「ここが、技術学校になるのか」
カイトの呟きに、隣に立つマーカスが頷いた。
「立地は最高だ。商人ギルド本部から徒歩五分、職人街にも近い」
商人ギルド長は、満足そうに建物を見上げる。
「何より、王立魔導学院からも見える位置にある」
確かに、振り返れば丘の上に聳える魔導学院の尖塔が、朝日に照らされて金色に輝いていた。千年の歴史を誇る学院と、これから生まれる技術学校。その対比が、新旧の時代の転換を象徴しているようだった。
「改装には、どのくらいかかりますか?」
リゼが実務的な質問をする。彼女の手には、すでに分厚い設計図の束が抱えられていた。
「職人ギルドの全面協力を得られる」
マーカスが答える。
「おそらく二週間もあれば、基本的な改装は終わるだろう」
エドガーが建物の壁を叩きながら確認した。
「構造はしっかりしてる。基礎も頑丈だ」
彼の顔に笑みが浮かぶ。
「歯車工房、動力実験室、念動力訓練場...夢が広がるな」
ハーゲンは周囲を警戒しながらも、珍しく期待を込めた声を出した。
「護衛詰所も必要だろう。まだ敵は多い」
その言葉に、全員が頷いた。技術展示会での黒いローブの脅威は、まだ記憶に新しい。
◆◇◆
建物の中に入ると、広大な空間が広がっていた。
元倉庫だけあって、天井は高く、柱も太い。窓は小さいが、それは後で改装すれば済む。埃っぽい空気の中で、カイトたちは未来の教室を思い描いていた。
「ここを大講堂にしよう」
カイトが中央の広間を指差す。
「百人は収容できる。開校式もここで」
リゼが歩測しながら記録を取る。
「東側を実習棟、西側を座学棟にするのはどう?」
「いいアイデアだ」
エドガーが同意する。
「実習には騒音が付き物だからな。分離した方がいい」
その時、入口の扉が開いた。
逆光でシルエットになった人影が、恐る恐る中に入ってくる。
「あの...ここが技術学校になるって聞いて...」
声の主は、マリアンヌだった。そして彼女の後ろには、十数人のF級市民たちが控えていた。
「みんな、入学を希望してるんです」
マリアンヌの言葉に、仲間たちが緊張した面持ちで頷く。年齢も職業もばらばらだが、皆の目に宿る期待の光は同じだった。
「もちろん歓迎だ」
カイトが笑顔で答える。
「でも、まだ建物も教材も何もない状態で...」
「構いません!」
若い青年が前に出た。パン屋の見習いだという。
「俺たち、改装も手伝います。自分たちの学校を、自分たちの手で作りたい」
その言葉に、F級市民たちが次々と声を上げた。
「私は元大工の助手でした。木工なら」
「俺は石工の経験が」
「掃除や片付けなら、何でも」
カイトは胸が熱くなるのを感じた。
彼らは単に学びたいだけではない。技術学校という希望の場所を、自らの手で築き上げたいのだ。
「ありがとう、みんな」
カイトの声が震えた。
「一緒に、最高の学校を作ろう」
◆◇◆
その日から、改装工事が始まった。
予想以上に多くの人々が集まってきた。F級市民だけではない。職人たちも、商人たちも、そして驚くべきことに、一部の下級貴族までもが手伝いを申し出た。
大講堂では、床板の張り替えが行われていた。
老練な大工のガブリエルが、若いF級市民たちに板の削り方を教えている。
「角度が大事だ。こうやって、優しく...そう、いい調子だ」
ガブリエルの隣で、真剣な表情で鉋を動かしているのはロバートだった。マーカスの息子は、父親の反対を押し切って毎日通ってきていた。
「お前には商人ギルドの後継者としての道がある」
マーカスは最初、息子の行動に難色を示していた。
しかし、ロバートの決意は固かった。
「父上、僕は両方学びたいんです。商売も、技術も」
彼の瞳に宿る情熱を見て、マーカスも最後には折れた。
「...好きにしろ。ただし、どちらも中途半端は許さん」
今、ロバートは他の誰よりも熱心に働いていた。商人の息子という立場を忘れ、汗まみれになりながら床板を削っている。
実習棟では、エドガーが作業台の設計をしていた。
「一人一台、専用の作業スペースが必要だ」
彼の周りには、興味深そうに覗き込む人々が集まっている。
「引き出しは工具用、棚は材料用...」
設計図を見ながら、職人たちが次々とアイデアを出していく。
「回転式の工具掛けはどうだ?」
「小物入れも必要だろう」
「照明は手元を明るくしないと」
議論は白熱し、より良い作業台への改良案が次々と生まれていく。
座学棟では、リゼが黒板の設置を指揮していた。
「ここと、ここ。角度はこのくらいで」
彼女の指示で、大きな黒板が壁に取り付けられていく。チョークで書いた文字が、教室の隅からでも見えるように、細かい調整が繰り返された。
「図面を描くには、方眼も必要ね」
リゼが黒板に細い線を引き始める。精密な方眼が、黒板全体に描かれていく。
「すごい...まるで魔法みたい」
マリアンヌが感嘆の声を漏らす。
「これが技術よ」
リゼが微笑む。
「正確さと、根気。それがあれば、誰でもできる」
◆◇◆
改装が進む中、思わぬ来訪者があった。
アレクサンダー・フォン・ヴァイスハウプトだった。
炎系魔法の天才は、改装中の建物を興味深そうに見回している。職人たちは緊張した面持ちで作業の手を止めたが、アレクサンダーは気にする様子もなかった。
「続けてくれ。邪魔するつもりはない」
彼はカイトの元へ歩み寄った。
「見学させてもらっていいか?」
カイトは少し驚きながらも頷いた。
「もちろんです。でも、なぜ?」
アレクサンダーは、作業する人々を見ながら答えた。
「技術展示会での、あの共鳴増幅器」
彼の目に、純粋な知的好奇心が宿っている。
「F級の念動力を増幅する仕組み、まだ理解できていない」
カイトが説明しようとすると、アレクサンダーは手を上げて制した。
「今は聞かない。いずれ、生徒として学びに来る」
その言葉に、周囲がざわめいた。
A級魔法使いが、技術を学ぶ?
「驚くことか?」
アレクサンダーが苦笑する。
「知識に貴賎はない。学ぶべきものがあるなら、学ぶ」
彼は実習棟で組み立てられている機械を眺めた。
「魔法と技術...もしかしたら、組み合わせることで新しい何かが生まれるかもしれない」
その発想に、カイトも目を輝かせた。
「それは素晴らしいアイデアです!」
二人の若者が、初めて対等な立場で語り合った。
「炎魔法で金属を精錬し、技術で精密加工する」
「念動力を機械で増幅し、魔法陣で方向性を与える」
「理論的には可能なはずだ」
「実験してみる価値はある」
職人たちも、F級市民たちも、息を呑んでその会話を聞いていた。
魔法と技術の融合。それは誰も想像しなかった未来への扉だった。
◆◇◆
夕方、エリザベス王女が訪れた。
今度は正装で、供も連れている。王家の紋章が刻まれた馬車から降りた王女は、改装中の建物を感慨深げに見つめた。
「素晴らしい進捗ですね」
エリザベスは、汗まみれで働く人々を見回す。
「皆が一つになって、何かを作り上げている」
彼女の目が、特にF級市民たちに注がれた。
「これが、私が見たかった光景です」
エリザベスは、用意してきた巻物を取り出した。
「王家からの正式な支援を約束します」
巻物には、王の印が押されていた。
「年間予算として、金貨千枚。教材購入費として、さらに五百枚」
その金額に、全員が息を呑んだ。
それは、王立魔導学院への援助にも匹敵する額だった。
「殿下、これは...」
マーカスも言葉を失っている。
「父王も、この学校に期待しています」
エリザベスは微笑んだ。
「ただし、条件があります」
全員が緊張した。
「入学資格に、身分や魔法の才能で差別しないこと」
エリザベスの声が、凛と響く。
「F級も、貴族も、商人も、職人も。誰もが平等に学べる場所にすること」
カイトは即座に答えた。
「それこそが、我々の理想です」
エリザベスは満足そうに頷いた。
「もう一つ」
王女の表情が真剣になる。
「魔導学院との無用な対立は避けること」
これは、より難しい条件だった。
「技術は魔法に取って代わるものではなく、共存するもの」
エリザベスは、アレクサンダーの方を見た。
「その証として、魔法使いも入学を歓迎すること」
アレクサンダーが一歩前に出た。
「その条件、俺が第一号として証明しよう」
彼は堂々と宣言した。
「アレクサンダー・フォン・ヴァイスハウプト、技術学校への入学を希望する」
会場が静まり返った後、大きな拍手が湧き起こった。
◆◇◆
日が沈み、作業を終えた人々が帰っていく中、カイトたち四人は大講堂に残っていた。
がらんとした空間に、夕陽が斜めに差し込んでいる。
「信じられない展開だな」
エドガーが呟いた。
「アレクサンダーが生徒に、王女が後援者に」
リゼが書類を整理しながら言う。
「でも、これで技術学校は確実に実現する」
「問題は、カリキュラムだ」
ハーゲンが現実的な指摘をする。
「何を、どう教えるか」
カイトは、仲間たちを見回した。
「基礎は四つ」
彼は指を折りながら数える。
「機械工学の基礎、これは僕が」
「念動力制御の理論、これは私が」
リゼが引き受ける。
「材料と加工技術、俺に任せろ」
エドガーが胸を叩く。
「護身術と危機管理...まあ、俺だな」
ハーゲンが渋々という顔で引き受けた。
「でも、それだけじゃ足りない」
カイトが続ける。
「読み書き計算の基礎、商売の知識、そして...」
彼は窓の外、魔導学院の方を見た。
「魔法理論の基礎も必要だ」
仲間たちが驚く。
「技術者も、魔法を理解していなければ」
カイトの声に確信が宿る。
「真の意味での共存はできない」
その時、扉が開いた。
入ってきたのは、マリアンヌと数人のF級市民たちだった。彼らの手には、手作りの看板が握られている。
「これ、作ってきました」
マリアンヌが照れくさそうに看板を見せる。
木の板に、不器用ながらも心を込めて彫られた文字。
『ルーネベルク技術学校』
「ルーネベルク技術学校...」
カイトが看板を見つめる。
「王都の名を冠した学校です」
老農夫のピエールが説明する。
「この街で生まれる、新しい学びの場」
彼の目が輝く。
「王都の誇りとなる学校になってほしいんです」
カイトは看板を受け取った。
重い。木の重さだけではない、込められた希望の重さが。
「ありがとう」
カイトの声が震える。
「この名前に恥じない学校にすることを、約束する」
◆◇◆
その夜、王立魔導学院の最上階。
セレスティア・アズールヴァルトは、水晶球に映る技術学校の様子を眺めていた。
「アレクサンダーまでもが...」
彼女の声に、苛立ちが滲む。
「愚かな。技術などという紛い物に惑わされるとは」
隣に控える黒いローブが、恭しく頭を下げた。
「如何いたしましょうか、セレスティア様」
「まだ動く時ではない」
セレスティアが立ち上がる。銀髪が月光に照らされ、幻想的に輝いた。
「学校を開かせてやれ」
彼女の唇に、冷たい笑みが浮かぶ。
「希望が大きければ大きいほど、絶望も深くなる」
セレスティアは窓辺に立ち、建設中の技術学校を見下ろした。
「カイト・ベルクマン」
青い瞳が、氷のように冷たく光る。
「お前がどこまで技術とやらを信じているか」
彼女の手に、青白い魔力が集まり始める。
「壊れる時の悲鳴が、今から楽しみだわ」
しかし、その時、意外な報告が届いた。
「セレスティア様、国王陛下からの書状です」
従者が恭しく手紙を差し出す。
セレスティアは眉をひそめながら封を切った。内容を読むにつれ、その表情が険しくなっていく。
「...技術学校への、不当な妨害を禁ずる、ですって?」
苛立ちを隠さず、彼女は手紙を握りしめた。
「エリザベスめ...父王を抱き込んだのね」
しかし、すぐに平静を取り戻す。
「いいでしょう」
セレスティアは不敵に笑った。
「正面から堂々と、技術の無力さを証明してあげる」
彼女は踵を返し、部屋の奥へと歩いていく。
「準備をなさい」
黒いローブに命じる。
「技術学校の開校式に、私も出席する」
その宣言に、黒いローブが驚きの声を上げた。
「セレスティア様自らが?」
「ええ」
セレスティアの声が、楽しげに響く。
「獲物は、逃げられないと悟った時が一番美味しいの」
◆◇◆
朝が来た。
技術学校の建設現場に、続々と人々が集まってくる。
昨日よりも多い。噂を聞きつけた者たちが、どんどん増えているのだ。
そして驚くべきことに、下級ながら魔法使いの姿もちらほらと見える。アレクサンダーの行動が、彼らの心を動かしたのだろう。
「壁の漆喰塗りを始めるぞ!」
職人の親方が声を張り上げる。
「初めての奴は、こっちに来い。やり方を教える」
作業が始まり、活気が建物全体に満ちていく。
カイトは、その光景を見ながら思った。
これが、新しい時代の始まりなのだ、と。
魔法と技術が対立するのではなく、手を取り合って進む時代。
身分や才能で人を分けるのではなく、誰もが輝ける場所がある時代。
確かに、敵は多い。
セレスティアという強大な敵も、虎視眈々と機会を狙っている。
しかし、カイトは恐れなかった。
なぜなら、ここには仲間がいる。
技術を信じ、未来を信じる仲間たちが。
「さあ、今日も頑張ろう」
カイトが声を上げると、皆が応える。
「おう!」
ハンマーの音、鋸の音、笑い声。
それらが混ざり合い、希望の音楽を奏でていた。
二週間後の開校式に向けて、準備は着実に進んでいく。
ルーネベルク技術学校。
王都の名を冠したその学校が、歴史に刻まれる日も、そう遠くはないだろう。
第22話、いかがでしたでしょうか?
ルーネベルク技術学校の設立に向け、
身分や立場を超えて人々が協力する姿を描きました。
特にマリアンヌたちF級市民が手作りの看板を持ってきた場面は、
彼らの切実な思いが伝わってきたでしょうか。
アレクサンダーの入学宣言、エリザベス王女の後援、
そしてセレスティアの不穏な動き――
物語はさらに加速していきます。
二週間後の開校式に向けて、準備は着々と進んでいます。
次回もお楽しみに!
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