第21話 予想外の援護
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
「最弱魔法×ロボット工学=世界最強の機巧使い」第21話をお届けします。
古代魔法の圧倒的な力の前に絶体絶命のカイトたち。
そこに現れたのは、予想もしなかった二人の人物――
アレクサンダーとエリザベス王女の決断が、物語を大きく動かします!
敵が味方に、そして新たな脅威の影も。激動の展開をお楽しみください!
古代の言葉が最後の音節を紡ぎ終わった瞬間、世界が一変した。
黒いローブの杖から放たれた紫の光が、会場全体を不気味に照らし出す。次の瞬間、誰もが感じたのは、身体に千斤の重りが載せられたような圧迫感だった。
「うわあああ!」
最初に悲鳴を上げたのは、入り口近くにいた若い職人だった。彼の膝が砕けるように曲がり、床に這いつくばる。
それが合図だったかのように、会場のあちこちで人々が次々と倒れ始めた。
ドサッ、ドサッという鈍い音が連続する。F級市民はもちろん、商人も貴族も、等しく地面に押し付けられていく。
「な、何が...身体が...重い」
マリアンヌが必死に立とうとするが、まるで巨人に押さえつけられているかのように動けない。彼女の横で、赤子を抱いていた母親が、必死に子供を庇おうとしていた。
「重力制御・極」
黒いローブが、淡々とした口調で告げた。
「古代魔法の一つだ。この空間の重力を、10倍に増幅している」
カイトも片膝をついていた。全身の骨が軋むような痛みを感じながら、必死に顔を上げる。
会場の機械たちも、異常な重力に耐えきれずに変形し始めていた。精密に組まれた歯車が歪み、滑車のロープが千切れそうになっている。金属の軋む音が、不協和音のように響いた。
「これが真の力だ」
黒いローブは、唯一平然と立っていた。古代魔法の使い手である彼だけが、この重力場から除外されているのだ。
「お前たちの玩具など、この力の前では塵に等しい」
その言葉に、F級市民たちの顔に絶望の色が広がった。せっかく芽生えた希望が、またしても圧倒的な力の前に打ち砕かれようとしている。
だが、カイトは諦めなかった。
◆◇◆
「みんな...念動力を!」
カイトが叫んだ。重力に押し潰されそうになりながらも、共鳴増幅器へと手を伸ばす。
「今こそ...力を合わせる時だ!」
その声に、マリアンヌが最初に応えた。
「カイト様...」
彼女は床に這いつくばりながらも、震える手を増幅器の方向へ向けた。微弱な念動力が、かすかに装置へと流れ込む。
「私も...」
ロバートが続いた。F級の少年は、父マーカスの腕に支えられながら、必死に念動力を送る。
一人、また一人と、F級市民たちが力を合わせ始めた。
老農夫も、若い母親も、職人の見習いも。普段なら紙一枚すら動かせない彼らの念動力が、共鳴増幅器に集まっていく。
ヴィィィィン...
装置が唸りを上げた。集められた念動力が増幅され、一つの大きな力となって結晶化していく。
「無駄だ」
黒いローブが鼻で笑った。
「F級が何人集まろうと、古代魔法には及ばん」
彼の言う通りだった。増幅された念動力は確かに強くなっていたが、10倍の重力を打ち破るには程遠い。せいぜい、完全に押し潰されるのを防ぐ程度の抵抗しかできなかった。
リゼが歯を食いしばりながら叫ぶ。
「このままじゃ...機械が全部壊れる!」
エドガーも必死に増幅器の出力を上げようとするが、限界は明らかだった。
「出力最大でも...この重力には勝てない」
ハーゲンは這いながら、倒れた人々を壁際に移動させようとしていた。しかし、10倍の重力下では、人一人動かすのも困難を極める。
黒いローブが、さらに力を込めた。
「まだまだ、こんなものではないぞ」
杖の光がさらに強まり、重力が増していく。11倍、12倍...
バキッという音と共に、展示していた自動織機の支柱が折れた。精密時計の機構も、次々と崩壊していく。
カイトの意識が朦朧としてきた。このままでは、人も機械も、すべてが押し潰される。
その時だった。
◆◇◆
「待て!」
力強い声が、会場の隅から響いた。
そこに立っていたのは、アレクサンダー・フォン・ヴァイスハウプトだった。
彼は重力に耐えながら、一歩一歩前に進んでくる。その手には、炎系魔法の杖が握られていた。
「アレクサンダー殿?」
黒いローブの声に、初めて驚きの色が混じった。
「なぜ邪魔をする。これは魔導師団の総意のはずだ」
アレクサンダーは、苦しそうに息をしながらも、まっすぐ黒いローブを見据えた。
「俺は...卑怯な手段は認めん」
彼は杖を掲げた。赤い魔法陣が足元に展開され、炎の力が周囲の重力場を部分的に中和し始める。
「これは公正な対決ではない!」
アレクサンダーの炎魔法が、黒いローブの重力場と拮抗する。完全に打ち消すことはできないが、少なくとも半分程度まで重力を軽減させた。
会場の人々が、ようやく顔を上げることができるようになった。
「アレクサンダー様が...」
「まさか、我々を助けてくれるなんて」
観衆の間に驚きが走る。王立魔導学院の若き天才が、なぜ技術の側に立つのか。
黒いローブが苛立ちを隠さない。
「愚かな。お前も魔法の優位を信じていたはずだ」
アレクサンダーは、額に汗を浮かべながら答えた。
「確かに...俺は魔法の優位を信じていた」
彼の声には、複雑な感情が滲んでいた。
「魔法こそが最高の力だと。技術など、所詮は紛い物だと」
カイトが驚きの表情でアレクサンダーを見つめる。
アレクサンダーは続けた。
「だが...今日見たものは違った」
彼の視線が、倒れているF級市民たちに向けられる。
「力なき者たちが、知恵と工夫で、不可能を可能にしようとしている。その姿は...」
一瞬の沈黙。
「誇り高いものだった」
アレクサンダーの炎がさらに強まる。
「俺は確かに技術を認めていない。だが、それ以上に認められないのは、圧倒的な力で弱者を踏みにじることだ!」
彼の言葉に、会場から小さな歓声が上がった。
「誇りある魔法使いとして、これは許せない!」
◆◇◆
その時、また別の動きがあった。
観衆の中から、一人の女性が立ち上がったのだ。
質素な服装をした、一見すると商人の娘のような若い女性。しかし、彼女が纏う雰囲気は、明らかに一般人のそれではなかった。
「私も、言わねばならないことがあります」
清涼な声が響く。すると、彼女の姿が光に包まれた。
質素な服が消え、代わりに現れたのは王家の紋章が刻まれた深紅のドレス。額には、小さいながらも本物のティアラが輝いている。
「私は第三王女、エリザベス・フォン・アルケミスト」
会場が一瞬にして静まり返った。
王女。まさか王族が、こんな場所に紛れ込んでいたとは。
商人たちは慌てて頭を下げようとし、貴族たちは困惑の表情を浮かべた。F級市民たちは、ただ呆然と立ち尽くしている。
エリザベスは、凛とした声で続けた。
「皆様に、お伝えしなければならないことがあります」
彼女は一呼吸置いて、衝撃的な告白を始めた。
「実は私も、12歳の時にF級判定を受けました」
会場がどよめく。王族でF級。それは前代未聞の事態だった。
「王家の血を引きながら、魔法の才能はゼロに等しい」
エリザベスの顔に、自嘲的な笑みが浮かぶ。
「父王も、兄たちも、皆困惑しました。王族としての私の価値は、どこにあるのかと」
マリアンヌが、涙を浮かべながら王女を見つめていた。王女も、自分と同じ苦しみを味わっていたのだ。
「しかし」
エリザベスの声が強くなる。
「カイト・ベルクマンの技術を知った時、私は希望を見出しました」
彼女はカイトの方を向いた。
「魔法の才能がなくとも、人は価値を生み出せる。知恵と努力で、新しい道を切り開ける」
エリザベスは黒いローブの方を向き直る。
「だからこそ、私はここにいます。技術に希望を見出した者の一人として」
そして、王女は毅然とした態度で宣言した。
「王家の名において命じます」
その声に、絶対的な権威が宿った。
「この対決の公正を保証せよ。不正な妨害は、王家への反逆と見なします」
黒いローブが、明らかに動揺した。
王女の介入は、完全に予想外だったのだろう。魔導師団といえども、王家の直接的な命令に逆らうことはできない。
◆◇◆
黒いローブは、しばらく沈黙していた。
フードの奥で、紫の瞳が不気味に光る。計算と打算が、その瞳の中で渦巻いているのが分かった。
「...ちっ、面倒なことになった」
ついに、黒いローブが舌打ちをした。
杖の光が弱まり、重力場が徐々に解除されていく。10倍、8倍、5倍、そして通常の重力へ。
解放された人々が、深く息をつきながら立ち上がった。
「今日のところは引こう」
黒いローブが踵を返す。しかし、立ち去る前に振り返り、不気味な予告を残した。
「だが、これで終わりではない」
フードの奥の紫の瞳が、カイトを射抜く。
「技術とやらが、真に千年の秩序を脅かすというなら、それ相応の対価を払ってもらう」
そして、去り際に小さく呟いた。
「セレスティア様は、すべてを見ておられる」
その名前に、アレクサンダーがわずかに反応した。セレスティア・アズールヴァルト。王立魔導学院の生徒会長にして、史上最年少でA級判定を受けた天才魔導師。
黒いローブが姿を消すと、会場は一気に歓声に包まれた。
◆◇◆
「やった!やったぞ!」
最初に歓声を上げたのは、F級市民たちだった。
マリアンヌは涙を流しながら、仲間たちと抱き合っていた。あの恐ろしい古代魔法を前にしても、彼らは諦めなかった。そして、予想もしない援護を得て、勝利を掴んだのだ。
職人たちも誇らしげに胸を張っていた。
「俺たちの作った機械が、認められた!」
「技術は、魔法に負けなかった!」
商人たちは興奮した様子で、早くも商売の話を始めている。
「これは大きな商機だ」
「技術製品の需要が、確実に高まるぞ」
そして驚くべきことに、一部の魔法使いたちも拍手を送っていた。アレクサンダーの行動に感化されたのか、あるいは技術の可能性を認め始めたのか。
壇上に、マーカスが上がった。
商人ギルド長は、感極まった様子で声を張り上げる。
「本日、歴史が動きました!」
会場が静まる。
「技術が、単なる紛い物ではないことが証明されました」
マーカスは、カイトたちの方を向いた。
「そして何より、身分や才能に関わらず、すべての人に可能性があることが示されたのです」
彼は深呼吸をして、重大な提案を始めた。
「ここに提案します」
全員の視線が、マーカスに集まる。
「技術学校を、正式に設立しましょう!」
会場がどよめく。技術学校。それは、魔法学院に匹敵する、新たな学びの場を作るということ。
「すべての市民に、技術を学ぶ機会を提供する」
マーカスはエリザベス王女の方を向いた。
「王女殿下、もしお許しいただけるなら、後援をお願いできませんでしょうか」
エリザベスは、優雅に微笑んだ。
「喜んで後援させていただきます」
彼女の声は、会場全体に響き渡った。
「王家として、技術の発展を正式に支援いたします」
エリザベスは、F級市民たちの方を向く。
「すべての民に、平等な機会を」
その言葉に、F級市民たちから感動の声が上がった。王女も自分たちと同じF級。そして、その王女が技術を支援してくれる。これ以上の励ましがあるだろうか。
◆◇◆
歓声が一段落した頃、カイトはアレクサンダーの元へ歩み寄った。
「アレクサンダー様」
カイトが深く頭を下げる。
「ありがとうございました。あなたの助けがなければ...」
アレクサンダーは、複雑な表情を浮かべた。照れくさそうに、そして少し悔しそうに。
「礼はいらん」
彼はそっぽを向いた。
「俺はただ...」
言葉を探すように、一瞬の間があった。
「その技術とやら、もう少し見てみたいだけだ」
カイトが顔を上げる。アレクサンダーの目には、確かに興味の光が宿っていた。
「共鳴増幅器、だったか?」
アレクサンダーが、壊れかけた装置を見つめる。
「F級の念動力を増幅する...理論的にはどういう仕組みなんだ?」
カイトが説明しようとしたが、アレクサンダーは手を上げて制した。
「今は聞かん。いずれ、じっくりと」
彼は踵を返し、会場を出ていこうとする。しかし、出口の手前で振り返った。
「だが、勘違いするな」
アレクサンダーの目に、闘志が燃え上がる。
「次は本気で勝負だ。技術対魔法の」
そして、小さく笑みを浮かべた。
「正々堂々とな」
その言葉を残し、アレクサンダーは去っていった。
カイトは、その背中を見送りながら思った。敵対していた者が、いつか理解し合える日が来るかもしれない、と。
◆◇◆
夕日が、会場を黄金色に染めていた。
片付けを始めた会場で、カイト、リゼ、エドガー、ハーゲンの4人が集まっていた。
「すごい一日だったな」
エドガーが、壊れた機械を見ながら呟いた。
「でも、これで技術は認められた」
リゼが微笑む。
「技術学校も設立される。私たちの夢が、現実になるのよ」
ハーゲンが腕を組んだ。
「だが、あの黒いローブ...セレスティアとか言ってたな」
カイトも頷く。
「王立魔導学院の生徒会長。史上最年少のA級魔導師」
彼の表情が引き締まる。
「きっと、これからが本当の戦いだ」
しかし、その顔に悲観はなかった。むしろ、希望に満ちている。
「でも、今日証明できた」
カイトは仲間たちを見回した。
「技術は、人々に希望を与えられる。F級の人も、魔法の才能がない人も、誰もが輝ける場所を作れる」
リゼが頷く。
「さあ、技術学校の準備を始めましょう」
エドガーが笑顔を見せた。
「設計図を描かないとな。最高の学び舎を」
ハーゲンも珍しく笑った。
「護衛の訓練場も必要だろう」
4人は、夕日に照らされながら歩き始めた。新しい時代の幕開けに向かって。
しかし、彼らは知らなかった。
王立魔導学院の最上階、誰も立ち入ることのできない特別な部屋で、一人の少女が窓から展示会場を見下ろしていることを。
セレスティア・アズールヴァルト。
銀髪に青い瞳の少女は、優雅な仕草でティーカップを口に運んだ。
「面白い展開ね」
彼女の声は、鈴を転がすように美しく、そして恐ろしいほど冷たかった。
「でも、千年の秩序は、そう簡単には変わらない」
セレスティアの瞳が、夕日に染まる会場を捉える。
「カイト・ベルクマン...」
薄い唇に、微かな笑みが浮かんだ。
「お前の覚悟を、試させてもらおう」
新たな脅威が、静かに動き始めていた。
第21話、いかがでしたでしょうか?
重力制御・極という古代魔法の脅威、そしてアレクサンダーの予想外の援護。
さらにエリザベス王女の衝撃的な告白――彼女もF級だったという事実が、
物語に新たな深みを与えました。
技術学校の設立が決定し、新しい時代が幕を開けようとしています。
しかし、セレスティア・アズールヴァルトという新たな脅威も動き始めました。
次回、Phase 2の新展開にご期待ください!
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