第8話
「コソコソ――レイラ様がティアラ様に嫌がらせをしたっていう噂、聞きました?」
「ええ、それはもう……ティアラ様が可哀想です」
ティアラ嬢と遭遇してから一週間ほどたった頃、私とティアラ嬢の噂が学園中を駆け巡っていました。
内容は、ブロント様と仲が良いことに嫉妬した私に放課後呼び出され罵詈雑言を浴びせられたり、誰も見ていないところで足をかけられ転ばされたりした。その他諸々……。
聞いているだけで顔をしかめてしまうようなひどい話の数々……。
ティアラ嬢は私にそんなひどいことをされていたのね……、かわいそうですわ……。
なぁんてなるわけないですわよね。
私、ティアラ嬢に噂で流されていたようなことなんてやっていませんもの。
マリンや親しくしている方々には「レイラはそんなことするような人ではないってわかってますよ!」などと励ましてくれましたが、私とあまり親しくない方々はティアラ嬢の肩を持ちました。
そのためすれ違う時、「あれが噂の……」とわざ聞こえるように言われたりもしましたが、家で脅したり家族に心配をかけたくなかったため、噂を否定したりとなにも対策をせず、家族にも言わず日々を過ごしました。
が、それがいけなかったのでしょうか。
「レイラ!?どういうことだ!?ティアラに噂のようなひどいことをしたのか!?」
とブロント様は1人で特別教室へ歩いていた私のもとへ来ました。
マリンがお手洗いに行っていたときでした。
「噂のようなことするわけないではありませんか。私はそんなに幼稚ではありません」
と否定しましたが、
「俺が盗られたように思ってあんなことをしたのではないか?」
何を言っているのでしょうか。それに、婚約者よりもあの女狐のことを信じるのですか……?
「ナルフィン男爵令嬢に対して私はブロント様にそう言われるようなことはしていません。そもそも、なぜあの方の方をこちらの話も聞かずにかばうのですか?」
「……ティアラが涙を流し、俺に相談してきたのだ。あの涙を見て虚偽などないと確信した」
……怒りを通り越して呆れましたわ。
呆然としている私を見て、
「なにも言い返せないようだな。二度と同じようなことをするのではないぞ?」
とだけ伝えてブロント様は私を置いてどこかへ向かっていきました。
「レイラ~!よかった~追いついた~」
マリンがそう言って笑顔で下を見ていた私の顔を覗き込みました。
すぐに何かを察した顔に変わり、
「!?もしかして……ガルシア様?」
こくんと頷くと、マリンは私を陰に隠すようにしてくれ、特別教室へ一緒に行きました。
私たちが通った道には水滴が落ちていました。