第5話
ブラント様とティアラ嬢が出会ったきっかけは、カフェテリアで彼女が彼に水をかけてしまったことでしたっけ。
ティアラ嬢は「ごめんなさい!!お拭きいたします!!」と言って彼女のハンカチを取り出し、ブロント様の濡れてしまった髪やら服やらを拭いたそうです。
ブラント様はそれを止めず、ぽぉ――としたような表情でそれを見ていたといいます。
私は、お昼休み後の授業の手伝いをしていてその場にはいなかったため、そんな出来事があったことを知ったのは二年連続で同じクラスの幼少期からの友人で水属性を持っているマリン・ピュレ侯爵令嬢に、申し訳なさそうに教えてもらたためでした。「止められなくて、ごめんなさい。あれ、完全に二人の世界に入ってたわ」そう言って頭を下げる彼女に、「マリンはなにも悪くないでしょう?大丈夫よ」となだめながら、私は、さすがに冗談でしょう、と甘く考えていました。
マリンの言葉に間違いがなかったのだろうと確信したのは、それから数日後のことでした。
ブラント様を昼食にお誘いしたときのこと、
「すまないが、マリン侯爵令嬢たちと食べてくれないか?先約があってね」
と断られてしまいました。
「分かりましたわ。またお誘いいたしますね」
そして、マリンとカフェテリアで昼食をとっていたとき、中庭にブロント様の姿が見えました。
それに気づき、目で追っていると、ティアラ嬢と仲睦まじそうに微笑みあっていました。
突撃しようかとも考えましたが、あれは見間違いだと、ブラント様は婚約者がいるのに他の女性と逢瀬などしない自分に言い聞かせ、もやもやした気持ちを抱きつつもブロント様には何も言いませんでした。




