タイトル未定2024/12/13 22:15
これは今までの話をまとめたものです。変更点はないのですが、せっかくなので……。
ここで書いてそれを1話ごとに分けて投稿していました。
「……ほら、レイラ嬢に頭を下げろ」
……この光景、もう3度目ですね。
「……。俺が悪かった。すまない。レイラ」
そう言われ、渋々頭を下げる私の婚約者の次期公爵家当主。
面倒くさそうに息子に頭を下げるよう言う現公爵家当主。
興味がなさそうに自分の手を見つめる公爵夫人。
その様子を、顔には出ていないが苛立った雰囲気を出しつつ見る現侯爵家当主。
形だけの謝罪を微笑みながら見る侯爵令嬢。
ふぅ。と息を吐き、私は満面の笑みをつくった。
「頭を上げてください、婚約者様。謝罪などいりませんわ」
「よかった。じゃあ今日は……「だって今日は婚約破棄について話すためにここへ来たのですもの」
そう返すと、相手の3人は一瞬時が止まったかのように固まり、動き出した時はたいそう取り乱していました。
笑顔を保ったまま私は昔から最近までのことを思い出していました。
今から13年前、5歳だった私――レイラ・ローニャは先方のからの申し出により、ガルシア公爵家の次期当主であるブラント・ガルシア様とお見合いによって出会いました。
ガルシア公爵家は、私たちが暮らしているハインリッヒ王国の建国時からある由緒正しい貴族で、ハインリッヒ王国の筆頭公爵家です。
侯爵家という家柄で、跡継ぎには2つ上の兄がいたため、私に声をかけてきたのでしょう。
ブラント様の第一印象は、とても容姿に恵まれている方だなというものでした。
ふわりとしたブロンドの髪、ダイヤモンドのように美しい瞳。
話していると何気ない動作にも優雅さが感じられ、次期公爵家当主という肩書も相まって、女性には困らないだろうな。と思いました。
実際、私もすこし会話をしただけでブラント様に惹かれていましたし。
ブラント様も私のことを気に入っていただけたようで、私は彼の婚約者になりました。
それから、お茶会や城下町にお出かけに行き、仲を深めていきました。その時間が本当に幸せでした。
ブラント様は私の髪などの些細な変化にも気づき、可愛い!とよく言って下さりました。私はそのたびに顔を真っ赤にしていたと侍女が話してくれました。
時々、彼から贈り物をされる事がありました。それが本当に嬉しく彼の贈り物へのお返しを何日もじっくり考えていました。その時間も大好きでしたわ。
初めての誕生日にで淡いピンク色のストックの花を模した髪飾りを頂き、その髪飾りは昨日まで毎日身に着けていました。
その他にもお手紙などで、愛の言葉を送り、彼からも送られてきた愛の言葉を見、何度も頬が緩みました。
ブラント様はよく
「君のラベンダー色の髪、真紅の瞳を見ていると癒されるよ。優しくて可愛いし」
と私の容姿や性格を褒めてくださいました。
私も、自分の気持ちをしっかり伝え、いつも心からの笑みを浮かべていました。
この世界には、魔法というものが存在します。そして、魔法は通常火、水、雷、土、空、光、闇の七属性から一つ生まれる時に授かり、それを力が顕現される7歳の時に教会で見てもらいます。
中でも、光属性と闇属性はそれぞれ十万人に1人とも言われるくらい希少な属性でした。しかし、光属性と闇属性の持ち主の扱いは大きく違いがありました。
光属性は授かった人の力量にもよりますが、怪我や病気を治す力を使え、それを持った人は将来聖女になるための教育を平民の子なら王都の学校に入り、貴族の子なら王都の学校か家に講師の聖女様を呼んでされます。そして将来は聖女として人々から頼られ敬われるように、力の使い方だけでなく立ち振る舞いなども学びます。
闇属性は今までの歴史的に大きな犯罪を起こした持ち主が多く、闇属性の持ち主は蔑まれていました。そのように蔑まれているからまた新たな闇属性の持ち主の犯罪が増えるのに、とそれを学んだ時、子供ながらに思い私は将来闇属性の持ち主への対応を変えることを望みそのための勉強もしていました。
そのように、見られ方が対極の関係にある光属性と闇属性の持ち主はお互いの魔法が無効化されます。例えば、光属性の魔法の回復魔法を闇属性の持ち主に使ってもその効果は得られず傷や病気は治りません。同じように闇属性の魔法を使っても光属性の持ち主には効果は受けません。
また、光魔法と闇魔法のように人に影響を与える魔法は、自分ではなく人に使うとその効果は半減すると分かっていました。自分に回復魔法を使い全快した傷でも、同じ程度の怪我の他者に使うと回復はするが、全快はしないのでした。
そして、魔法を使うために必要なのはどうしたいかのイメージとそれを実現させる魔力量です。
イメージは培うこともできますが、魔力量は生まれた時から上限が決まっていて、訓練によって伸ばすことは限度があると今までの研究でわかっていました。
魔法には上級・中級・下級魔法の大きく分けて三種類があり、下級魔法は少し練習をすれば誰にでも使うことが出来、中級魔法は努力と才能が必要、上級魔法は中級魔法と比べ物にならないくらいの努力と才能が必要と言われていました。
ブラント様は雷の属性を授かっておりました。魔力量も平均の3倍くらいだったとブラント様は鼻を高くされていました。
私はなんと火と光の属性を授かっていました。魔力量も平均を10とすると、わたしの魔力量は100だと言われました。二属性持ちなだけで将来は確約といわれているのに、ただでさえ珍しい光属性と火属性を持っているときました。私はとても嬉しかったです。ですが、二属性持ちとなると誘拐・人身売買といった厄介ごとに遭う方が多く、危ない目に遭うのではないかと私をかなり心配した両親は二属性持ち、光属性持ちの報告は国にするが、学園を卒業し成人するまで公の場で公表するのは火属性だけと決め、私の光属性は極秘情報となりました。
それは、ブラント様やそのご両親だけでなく、二人のお兄様達にもバレていたかもしれませんが秘密にしていました。
そんな隠し事をしつつも、良好な関係は私とブラント様が初等部、中等部と進学してからも続いていました。
変化があったのは、出会ってから10年目、二人とも15となり高等部へ進学したあとからでした。
私たちが進学したところは、名門・ガルシア学園という歴史上の偉人が何人も卒業し、成績が優秀なら身分をとわず進学できる、由緒ある、歴史ある、ガルシア王国1番の難関校でした。
そこへ進学し一年たったころ、つまり二年生に進級したとき、私たちの歯車が異常をきたすようになっていました。
まず、進級してから週に一度は行っていたお茶会の頻度が1カ月、3カ月、とそのあとどんどんと伸びていきました。城下町へのお出かけも同様でした。
そうなった原因は勉強が忙しくて、などではなくティアラ・ナルフィン男爵令嬢でした。
淡いピンク色の髪と瞳をしていた彼女は制服のスカートの裾を短くしたり、とめなければならないボタンを一番上をとめなかったりと校則に引っかかるような行動をしていました。
ですが、先生方は注意をしませんでした。
理由は単純明快。彼女が光属性の持ち主ということと私の婚約者であるブラント様やハインリッヒ王国の第一王子を筆頭に複数の位の高い貴族のご子息の殿方たちが彼女を注意しないよう、周囲を睨んでいたからです。
ブラント様とティアラ嬢が出会ったきっかけは、カフェテリアで彼女が彼に水をかけてしまったことでしたっけ。
ティアラ嬢は「ごめんなさい!!お拭きいたします!!」と言って彼女のハンカチを取り出し、ブロント様の濡れてしまった髪やら服やらを拭いたそうです。
ブラント様はそれを止めず、ぽぉ――としたような表情でそれを見ていたといいます。
私は、お昼休み後の授業の手伝いをしていてその場にはいなかったため、そんな出来事があったことを知ったのは二年連続で同じクラスの幼少期からの友人で水属性を持っているマリン・ピュレ侯爵令嬢に、申し訳なさそうに教えてもらたためでした。「止められなくて、ごめんなさい。あれ、完全に二人の世界に入ってたわ」そう言って頭を下げる彼女に、「マリンはなにも悪くないでしょう?大丈夫よ」となだめながら、私は、さすがに冗談でしょう、と甘く考えていました。
マリンの言葉に間違いがなかったのだろうと確信したのは、それから数日後のことでした。
ブラント様を昼食にお誘いしたときのこと、
「すまないが、マリン侯爵令嬢たちと食べてくれないか?先約があってね」
と断られてしまいました。
「分かりましたわ。またお誘いいたしますね」
そして、マリンとカフェテリアで昼食をとっていたとき、中庭にブロント様の姿が見えました。
それに気づき、目で追っていると、ティアラ嬢と仲睦まじそうに微笑みあっていました。
突撃しようかとも考えましたが、あれは見間違いだと、ブラント様は婚約者がいるのに他の女性と逢瀬などしない自分に言い聞かせ、もやもやした気持ちを抱きつつもブロント様には何も言いませんでした。
しかし、ある日、中庭をマリンと2人で通りかかった時、2人が抱擁を交わしている姿を見てしまいました。
私はそれを見た瞬間、酷い吐き気に襲われました。
口を押え、その場から動けなくなっている私の視線の先に何があるか気づいたマリンは、私をそれが見えない木陰に運んでくれ、その後、2人のところへ突撃してくれました。
後日、正式な謝罪の場が設けられ、父と2人で出向くと、そこには青筋を浮かべたガルシア公爵様と申し訳なさそうに下を向く公爵夫人、落ち着かない様子でソファに座るブロント様の姿が見えました。
私が来たことに気づくと、
「レイラが見たのは、ティアラの髪に花びらが付いていて、それを取ろうとしたとき、彼女がバランスを崩してしまい、抱擁を交わしているように見えてしまっただけとはいえ、君を不安にさせてしまって本当に申し訳ない」
と、少し言い訳をしつつも腰を90度おった謝罪をブロント様は見せました。
私は、
「頭をあげてくださいませ。もうこのようなことをしないと誓ってくださるのならば、私は平気でございますわ」
と伝え、父は、
「娘を傷つけることが二度とないよう、お願いしますね」
と威圧を放ちつつブロント様にそう言い、公爵夫妻にも同じようなことを頼み、その日は帰路につきました。
それからは、ブロント様はティアラ嬢との交流を避けていたようでした。
その姿を1番間近で見ていたのは私だったため、内心ホッとしていました。
「ちょっと!?ブロント様がかわいそうではありませんか!?」
とティアラ嬢が人が近くにいないことを確認してこのように言ってくるまでは。
「ごきげんようティアラ・ナルフィン男爵令嬢。なんのことですの?」
「!そう……とぼける気なのね……あなたが私とブロント様ができてるって勘違いしたせいで……ブロント様との交流がなくなってしまったのよ!?どうしてくれるのかしら!?」
「……どうしてくれるのかしら!?なんて言われましても、私は彼の婚約者です。年頃の令嬢とくっついていれば、勘違いしても仕方がありませんこと?」
「ッ―――!!……あんたなんて私がその気になればこの国から追放できるんだからね!?」
はぁ?……なにを言っているのでしょうか。
この国から追放?そんなことをされるような行動はしていませんのにできるわけないでしょう?と内心呆れつつ、今も叫んで何かを言っているティアラ嬢のことを置いてその場から去りました。
「コソコソ――レイラ様がティアラ様に嫌がらせをしたっていう噂、聞きました?」
「ええ、それはもう……ティアラ様が可哀想です」
ティアラ嬢と遭遇してから一週間ほどたった頃、私とティアラ嬢の噂が学園中を駆け巡っていました。
内容は、ブロント様と仲が良いことに嫉妬した私に放課後呼び出され罵詈雑言を浴びせられたり、誰も見ていないところで足をかけられ転ばされたりした。その他諸々……。
聞いているだけで顔をしかめてしまうようなひどい話の数々……。
ティアラ嬢は私にそんなひどいことをされていたのね……、かわいそうですわ……。
なぁんてなるわけないですわよね。
私、ティアラ嬢に噂で流されていたようなことなんてやっていませんもの。
マリンや親しくしている方々には「レイラはそんなことするような人ではないってわかってますよ!」などと励ましてくれましたが、私とあまり親しくない方々はティアラ嬢の肩を持ちました。
そのためすれ違う時、「あれが噂の……」とわざ聞こえるように言われたりもしましたが、家で脅したり家族に心配をかけたくなかったため、噂を否定したりとなにも対策をせず、家族にも言わず日々を過ごしました。
が、それがいけなかったのでしょうか。
「レイラ!?どういうことだ!?ティアラに噂のようなひどいことをしたのか!?」
とブロント様は1人で特別教室へ歩いていた私のもとへ来ました。
マリンがお手洗いに行っていたときでした。
「噂のようなことするわけないではありませんか。私はそんなに幼稚ではありません」
と否定しましたが、
「俺が盗られたように思ってあんなことをしたのではないか?」
何を言っているのでしょうか。それに、婚約者よりもあの女狐のことを信じるのですか……?
「ナルフィン男爵令嬢に対して私はブロント様にそう言われるようなことはしていません。そもそも、なぜあの方の方をこちらの話も聞かずにかばうのですか?」
「……ティアラが涙を流し、俺に相談してきたのだ。あの涙を見て虚偽などないと確信した」
……怒りを通り越して呆れましたわ。
呆然としている私を見て、
「なにも言い返せないようだな。二度と同じようなことをするのではないぞ?」
とだけ伝えてブロント様は私を置いてどこかへ向かっていきました。
「レイラ~!よかった~追いついた~」
マリンがそう言って笑顔で下を見ていた私の顔を覗き込みました。
すぐに何かを察した顔に変わり、
「!?もしかして……ガルシア様?」
こくんと頷くと、マリンは私を陰に隠すようにしてくれ、特別教室へ一緒に行きました。
私たちが通った道には水滴が落ちていました。
「あんの……ガルシア様をたぶらかして……レイラに……レイラに……こんな思いを!!」
授業が終わり、放課後になるとマリンは私を人があまりこない校舎の裏庭に私を連れていきました。
そこで私が何があったのかを話すと、彼女は怒りでフルフルと震えティアラ嬢に対する怒りをあらわにしました。
「ブロント様、どうされたのかしら……前はあんなようなことを言ってくるお方ではなかったのに……」
そうつぶやき、昔のことを少し思い出していると、私の瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていきました。
「……大丈夫だよ……」
マリンはただそれだけ言うと私の背中を優しくさすってくれました。
「……ごめんなさい」
「なんであなたが謝るの!?だめよそんなにすぐに謝っちゃ」
冗談めかしてマリンがそう返します。
すると、ガサッと背後から音が聞こえてきました。
「えーっと……今取り込み中かな」
「ちょっと!ルシウス様。お二人が落ち着くのを待つという話ではなかったですか!」
「だって……終わったんじゃないの?」
「……空気を読みましょうよ」
この二人はたしか……!?
「!ごきげんよう。ルシウス第二王子様、エクシア様」
「ごきげんよう。ルシウス様、エクシア・オフェリア公爵子息様」
私たちは、すぐに立ち上がりあいさつをし、
「申し訳ございません。お二人でここを使いたいならばすぐさま私たちは立ち去りますが……」
と頭が回らない私をマリンがカバーしてくれました。
「気を使わないでくれ!邪魔をしたのはこちらの方だし」
「そうです。ルシウス様がもっと空気が読めるお方だったら……」
「おい」
「大体あなたはいつも……」
「はあ?そっちだって――!」
それからお二人は口げんかに発展し、口論を始めました。
そんなお二人を尻目に私はお二人の情報を思い出していました。
ルシウス・ハインリッヒ様。ハインリッヒ王国の第二王子で第一王子とは双子。同級生でブロント様とも友好関係を築いています。そのため私とも何度か顔を合わせたことがありました。ハインリッヒ王国の血筋に見られる純白の髪に優し気な黄金の瞳、形のいい眉の整った顔立ちで令嬢の憧れの的です。成績がよく、運動神経も抜群。非の付け所がないお方です。将来有望な炎魔法の使い手だと期待されている方でした。
エクシア・オフェリア公爵子息。オフェリア公爵家の次男でマリンとは婚約を結んでいました。ルシウス様の幼馴染で側近。背は低く、薄紫色の猫目、黒髪で可愛らしい炎魔法の使い手のお方です。マリンの婚約者と言うこともあり、私とも面識がありました。
「……あのぅ~口喧嘩はやめません?」
しばらく続いていたお二人の口喧嘩をマリンが仲裁に入りました。
その時のマリンの顔を一目見たお二人は、あからさまに委縮していました。
「「すみません」」
……お二人もマリンの圧には勝てなかったようです。
私も以前マリンと喧嘩になったときとても怖かったことは昨日のことのように記憶に残っていましたから。
「それで……レイラ嬢。何があったのかな」
ごほん、と咳払いをしたルシウス様はこちらを見て問いかけてきました。
「ルシウス様!デリカシーというものが――!」
「オフェリア公爵子息様。お気遣いありがとうございます。ですが、平気ですわ。実は――」
そう話を始めると、お二人は話に聞き入りました。
途中で涙がこぼれそうになることもありましたが、マリンが背中をさすってくれなんとかこらえていました。
「……そこまでとは……」
私の話を聞き終えルシウス様はそう呟きました。
「こちらの主観も入ってしまっていると思うので参考程度に耳にいれてくださると……」
「いや、彼女……ティアラ嬢は俺たちにも最近近づいてきているしな」
「はい。すり寄ってきていますね。」
「「……」」
それを聞いて思わず呆れてしまいました。
マリンは、はぁ?エクシア様に色目を?と怒りが再燃してきたようでした。
「きっと兄上が落ちたのを見て俺たちもいけると思われたのだろう」
「!第一王子様もですか!?」
初耳情報でした。
「ああ。もっと言えばブロントと兄上、宰相と騎士団長、大商人の息子の5人は完全におちていたりおちる寸前だったりするぞ」
……。その上での国外追放する発言だったのでしょうか。
権力者の息子たちの力を使って私を国外追放にする?夢を見すぎではないでしょうか。彼女の家は私の家より爵位が下ですし婚約者はまだいません。懇意にされているだけで国外追放にできるほどこの国は腐っていないと思います。
「私の耳にはそのような情報が入ってきていなくて……もしよければ明日も情報をお聞かせくださりませんか」
「ああ。もちろんだ!あと、俺たちはファーストネームで呼ぶから俺たちのこともファミリーネームで呼ぶのはやめてくれよ?」
ニカッっとまぶしい笑みを浮かべてルシウス様はおっしゃいました。
そうして少し雑談をして別れた時はあたりが薄暗くなり始めた時間でした。
それからしばらく情報をいただくために放課後は裏庭に集まりました。
年頃の男女達ということもあり、誰かに見られては誤解されてしまう。ということでルシウス様やエクシア様の護衛を数名おきながら。
そんな勘違いをされないための対策も虚しく、
「レイラ……お前、ルシウスに色目を使っているらしいな……」
ある日、ブロント様は怒り心頭に発するという様子で私に問いかけました。
「それはどこの情報でしょうか、そのような噂を吹聴してくるお方がいるなんて心外ですわ」
ビキビキと青筋を立てるブロント様。
「いろんな者から言われているが、一番はティアラに言われたんだ――」
聞くと、ティアラ嬢は最近、申し訳なさそうに私とルシウス様が逢瀬をしているところを見たと親切に教えてくれたらしい。
他にも、ティアラ嬢の仲が良い令嬢や、ブロント様が仲の良い方々に言われたらしい。
「誤解でございますわ、私にはあなたという婚約者がいますし、二人ではなくマリンやエクシア様、護衛の方々もいましたもの」
このように勘違いされないよう作っておいたカードをきりました。が、
「言い訳なんてよしてくれ、聞きたくない」
と聞く耳を持ってくれませんでした。
そして、
「次はないからな」
とだけ言うとそのままどこかへ行ってしまわれました。
それからというもの、ブラント様は周囲の目も気にせずティアラ嬢とイチャイチャ――仲良くするようになりました。
「はい!ブラント、あーん!」
「あーん……!うん、ティアラが作ってくれたサンドイッチ美味しいよ!はい、ティアラもあーん」
隠す素振りもせずに学園の中庭のベンチでティアラ嬢が作ってきたサンドイッチを食べさせあう二人。
まるで付き合いたてのカップルですね。見てるこちらが恥ずかしくなりましたわ。
ですが、
「あっ!ブラント様とティアラ様よ!お似合いですわよね」
「ええ本当!」
それを憧れの目で見る方々がほとんどでした。
「あら、見てください悪役令嬢――あ間違えました。レイラ様とそのご友人ですわ」
「ふふっティアラ様がうらやましいのでしょうね」
とブラント様とティアラ嬢を見る私たちの陰口も増え続けていきました。それでも
「ねぇ、あなた達はラウラ伯爵家とチャラム伯爵家のご令嬢よね。家を出すのは嫌ですけれどねぇ、許せる言葉の範囲を超えていますわね。さて、どうしましょうか」
などとレイラや仲がいい方々がかばってくれました。
ただ、
「おい……レイラ。ティアラにまた暴言を吐いて暴力をふるったというのは本当か?」
またもやブラント様に捕まりました。
「いえ。ティアラ嬢とは最近そもそも話しておりませんわ」
もちろん私は否定します。
「ティアラ……服の下に見たのだ。やけどの跡を」
「!?服の下……?どうしてそのような状況になったのですか」
私は驚いてそう聞きました。
普通服の下の傷なんてあったとしても分からないでしょうが今ブラント様は見たとおっしゃいました。
「前にティアラが着替えている場所に出くわした時見たのだ。そしてその数日後にレイラがティアラを呼んだという噂を聞いたのだ」
「……はぁ」
「そうなるとティアラにやけどを負わしたのはレイラしかいないだろう、それに今俺が服の下のやけどを見たといったときお前は焦っていただろう」
ブラント様はおひとりで連想ゲームをしてその結論に至ったようでした。
私は、服の下のやけどの部分ではなくて服の下を見たというところに驚いたのですがね。
「……そのやけどはどのくらいのものだったのですか」
「だいぶ大きかったぞ」
ボッ――私は掌の上に炎を出しました。
その炎は50㎝ほどのものでした。
「!?何をするのだ」
「この炎は私の最小威力のものです。この炎ならば上半身は丸ごとやけどになるくらいの怪我はするのではないでしょうか」
私はその年の生徒の中で魔法・座学はトップの成績でした。
魔法は魔力量が多く、精度の方もセンスがあったようで二年生の今でも魔法使いの花形と言われている魔法省本部からスカウトを受けるほどでした。
「レイラなら操作できるのではないか」
「あいにく、まだ未熟なものでこれ以上は小さくできませんわ。それにティアラ嬢は光属性を持っているため怪我をしたらすぐに自分で治せるのではないでしょうか」
「……」
「しっかりとした根拠がないですね」
「……れ」
「え?」
「黙れ!!」
バチン――
私の右頬に鋭い痛みが走りました。
ブラント様は自分の行いに気が付いていないようでした。
しかし段々と我に返ったのか
「あ……レイラ……ご、ごめ」
と謝る声が後ろで聞こえましたが私は走って逃げました。
その日、学校から帰ったときのことでした。
「ブラント君、これはどういうことかな」
机を指でトントンと叩きながら私の父は言いました。
「本当に申し訳ございませんでした……」
「はぁ。この愚息がレイラ嬢に迷惑をかけたようですまんな」
ブラント様は居心地が悪そうに、ガルシア公爵はブラント様を睨みながら謝罪をしてきました。ガルシア公爵夫人は俯いていました。ブラント様のご両親は少々面倒くさそうな雰囲気が透けて見えました。
「2度目はないと以前言いましたよ?」
とお父様もブラント様に睨みを効かせます。
「あの時は自分が自分ではなくなったと言いますか……」
私に言い訳など聞きたくないと言ったその口でブラント様は言い訳を始めました。
そのまま3時間ほど話し合いが続き――
「ごめんな、本当は婚約破棄でもなんでもレイラがしたいようにしたかったのだが……」
「いえ!ブラント様がこれからなおしてくれれば私はいいですわ」
ニコッと微笑みながら言うとお父様は目頭を抑えました。
ガルシア家の方々が帰った後のことでした。
それに、あちらは私の家より爵位が上なため、筆頭公爵家に逆らうなんてできないでしょう。
「お父様が次何かあったら婚約破棄、という条件をつけられただけいいですわ」
そう。お父様はそのような誓約書を作ってくださり、それに判を押させることができました。
「ありがとう、そう言ってくれるだけで……」
そのように言ったお父様は力なく笑いました。
「レ、レイラおはよう」
翌朝、学校に向かおうと外に出ると、ブラント様が私を待っていました。
「おはようございます。ブラント様。それでは今から学校へ向かうため失礼いたします」
会釈をして私の家の馬車に乗ろうとすると
「い、一緒に行かないか」
「……分かりました」
とお誘いを受けました。それを断るのはせず了承しました。
馬車の中はブラント様が一生懸命場を取り持とうとしていましたが、昨日の今日で楽しく話せるわけもなくしばらくしたら気まずい空気が流れ始めました。
そのまま数十分間馬車に揺られて学園へ向かいました。
「レイラ!大丈夫?噂で流れてきたのだけれど昨日ガルシア様に……大丈夫?」
教室に入るなりマリンに駆け寄られそう聞かれました。
「ええ、ちょっともめてしまっただけよ」
精一杯の笑みを浮かべて私はそう言いました。
じゃあ、と言って自分の席に座ると私は好奇の目にさらされていることに気が付きました。
「昨日ブラント様に叩かれたのでしょう?」
「ええ、そうらしいですわ」
本人たちはコソコソと話しているおつもりでしょうが、自分の話と言うのは耳に入ってくるものです。
ですがそれを完全に無視しその日は過ごしました。
年度末の終業式が終わり、家へ帰るための馬車が置いてある場所へ行こうと外に出ると、誰かを待っているようなティアラ嬢がいました。
横を通り抜けようとしましたが、ティアラ嬢は私の目の前に出てきました。
「!……ティアラ嬢、ごきげんよう」
「レイラセンパイ、楽しいですか?ブラント様を精神的に追い詰めて」
ティアラ嬢が開口して最初に出てくる言葉は嫌味でした。
「ブラント様を精神的に追い詰める?私がいつそのようなことをしたのですか?」
「学園内で見ません?好奇の目にさらされて居づらそうにしているブラントを」
「あいにく学園内であまり仲良くしていなくって。それと自分の家よりも高い爵位の方を呼び捨てにするだなんて不敬ではないでしょうか」
しかも人の婚約者というおまけ付きですし。
「うーん、あっちがいいよ~って言ってくれてるしいいんじゃないですか?」
わざとらしく首をかしげるティアラ嬢。
「……そうですか」
「ねぇ、レイラセンパイ」
と言うとティアラ嬢は私との距離を縮めてきて私の体をがしっと抑えるとじっと私と目を合わせました。すると私の体は動かなくなりました。
5秒ほどたったころだったでしょうか。急にパッと手を離すと、
「ねぇ、レイラセンパイ。何か変わったことはありませんか?」
と聞いてきました。
「ッ――何して!」
私はティアラ嬢から解放された瞬間、彼女と距離をとりました。
「……なんでかかんないんだよ。めんどくせぇな」
ティアラ嬢はそう吐き捨てて舌打ちをするとその場からスタスタと去っていきました。
そうして時は流れ私たちは3年生になりました。
「ルシウス様、お久しぶりです。同じクラスになれて光栄ですわよろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそよろしく」
私は後ろの席のルシウス様に話しかけました。
今年は初めてマリンとクラスが離れ、まともに話したことがある人はルシウス様のみでした。
ルシウス様とは、ブラント様といろいろあった件で私もルシウス様も気を使って話すことはなくなっており、話したのは数カ月ぶりでした。
「それにしても、クラスが上手に分けられたよな」
ルシウス様は苦笑交じりに言います。
「……はい」
私たちの学年は9クラスありました。
私とルシウス様は2組に、ブラント様・第一王子・宰相の息子・騎士団長の息子・大商人の息子のいわゆるティアラ嬢の取り巻きたちは9組に分けられていました。ちなみに、マリンとエクシア様は4組に配属されていました。
「はぁ。でももう3年生か……そろそろ卒業後のこともちゃんと考えないとだよな」
先生が来るまでの間、私たちは話をして待っていました。
「ルシウス様は何になられたいのですか?」
「俺はなんだろうなぁ……レイラ嬢は?」
「私は、みんなを笑顔にできる人になりたいですわ」
「笑顔に?」
「はい。聖女様のようなお方に」
それを聞いたルシウス様はまぶしいほどの笑顔を浮かべ、
「いい夢だね」
と言ってくださいました。
ブラント様はあの件以来どんどんと疎遠になっていきました。
それは、あの件を気まずく思ったのであろうだけでなく、以前よりティアラ嬢にご執心になられたからでしょう。
まるでカモの親子のように他の方々と後をついて回っておりました。
ティアラ嬢の支持はなぜか上がっていき、ティアラ嬢のファンクラブもつくられ、8割以上の生徒だけでなく先生までもがそれに加入しているという謎の現象が起こりました。
「ティアラ様は今日もお美しいわ……」
「存在してくれてありがとう……」
などとティアラ嬢を一目見るだけで限界化する人は沢山いました。
そんな方々を冷ややかな目で私とアメリア様は見ていました。アメリア様は3年生で同じクラスになり仲良くなった令嬢で、雷属性、フェイラー公爵家の方で第一王子のサムエル・ハインリッヒ様の婚約者でした。
「あの女狐に騙される人があんなに多いだなんて信じられないですわ」
「ええ。それに生徒だけではなく先生も……どうかしてるのではないでしょうか」
と愚痴をこぼしていました。
年度の初めの方は授業以外はマリンといたのですが、約3ヶ月後には
「ティアラ!今日もかわいいわね!」
「マリン!ありがとう、あなたもね!」
などと休み時間はティアラ嬢と仲良しごっこするようになっていました。それはクラスの離れた他の仲良くしていた令嬢も同様でした。
「あっアメリアとレイラだわ」
「今日も二人で昼食ですか……惨めですわね」
などの言葉は隠すことなく大きい声で言われるようになっていました。
一時は私に同情の目を、ブラント様に軽蔑の目を向けていた方々は今は私に嘲笑をブラント様たちに羨望をするようになっていました。
「……行きましょう」
アメリア様は私にそう声をかけ席を立ちました。
ある日、授業が終わり帰ろうとしたら
「今週末は予定があるかしらレイラ」
「今週末は……何もなかったと思います」
聖女の授業もなかったですし。
「なら一緒に王都でお買い物でもしない?お気に入りの店が新作を出すようで行くのだけれど……」
アメリア様から誘いがあったため今週末はお買い物をすることが決まりました。
「アメリア様はティアラ嬢に接触されたことはありますか?」
買い物をした後アメリア様御用達の店でお茶を飲みながら私はそう聞きました。
「ティアラ嬢に?ないですわ。というか接触されそうになったらすぐに逃げていたから。どうしたの?急に」
お茶を啜った後アメリア様は言いました。
「そうなのですね。いえ、ちょっとだけ気になっただけですわ」
「日も暮れてきたことだしそろそろお開きにする?」
「はい今日はお誘いいただきありがとうございました!楽しかったですわ」
「こちらこそ楽しかったわ」
と言い外に出て近くの脇道を通ったとき、ふと人影が見えました。
あれは何かしらーーそう思って横目で見てみると、ブロンド色の髪の男性とピンク色の髪の女性が見えました。
二人は口付けをしている最中でした。
「……アメリア様少々失礼致します」
と言って私は護衛の一人に声をかけカメラを出してもらいました。
私は冷静に二人の顔が写る位置まで行きカメラを向けて写真を撮りました。
このカメラは何かあった時に証拠として残せるようにお父様が買ってくれたものでした。
「レイラ……」
アメリア様は私が写真を撮っている時に二人にきがついたようで、動揺している様子でした。
「大丈夫ですわ。さて帰りましょう」
そう言ってまだ口付けをしている二人に軽蔑の目を向けて私達はその場を去りました。
「お見せしたいものがございます」
その日の夜、私は今日撮った写真をお父様とお母様、兄達に見せました。
「どれだけこちらを侮辱したら気が済むのか……」
「信じられないわ」
両親は怒りでいっぱいといった様子でした。
「かわいいレイラにこんな仕打ちを……」
「許さない……」
一番上の兄のカイル兄様と二番目の兄のランス兄様は闇堕ちしそうな雰囲気を出していました。
ちなみに、カイル兄様はローニャ家を継ぐためお父様の仕事の手伝いなどを、ランス兄様は魔法省で空魔法のエリートとしてご活躍されています。
「……レイラはどうしたい?」
お父様は真剣な目を私に向けて聞きました。
「私はーー!」
その夜のうちにローニャ侯爵家からガルシア公爵家へ一通の手紙が送られました。
そして冒頭に戻ります。
「え?じょ、冗談だろう」
口をパクパクさせてブラント様は言います。
「いいえ、以前誓約書に署名をしていただいたではないでしょうか」
「……まぁいいではないかブラント。最近連れてきて来たティアラ嬢はいい子ではなかったか」
「そうねブラントいいじゃない」
先ほどまで焦っていたガルシア夫妻は急に落ち着きを取り戻したようでした。
「はぁ?ティアラ嬢とはあの?」
「はい、あのです」
私が小声で肯定すると、
「レイラという婚約者がいながらまだ他の令嬢と懇意というのは本当なんですね……」
と青筋をビキビキと立ててお父様は詰めました。
「だったらなんですか?」
何も恥ずかしいようなことはしていないではないかとガルシア公爵は言います。
「もういいです!!」
机をバンッと大きく叩いたお父様は
「後で婚約破棄の書類を正式に送りますので」
と言って私とお母様を連れて出ていきました。
ブラント様は最後まで何かを言いたそうにしていましたが。
「よく学園に来れましたね」
「恥ずかしくないのかな」
私は二週間ぶりに学園に行きました。
なぜなら、ブラント様と正式に婚約破棄をして療養をいただいたためでした。
婚約破棄の理由は上手く丸め込まれ名誉のために公表されないことにされましたが、私が休んでいた間に私に非があるように脚色された話が広まっているようでした。
「ブラント様という婚約者がいながら浮気をしたりしたのでしょう?」
「ええ、あの頬を叩かれたというのもブラント様に追求されて焦ったレイラさんがブラント様を悪者にしようと自分で作ったものだったと聞きました」
クスクスと笑い声が聞こえてきます。
なんかもう慣れてきましたがね。
「レイラ嬢、おはよう」
「おはようございますルシウス様」
それでも変わらずルシウス様は私に話しかけてくださいました。
「どうせあの話は嘘なんだろ」
「あはは……」
「否定しないのか?」
「もうなんでもいいですわ……」
諦めたように微笑む私を見てルシウス様は
「ティアラ嬢のあれは俺もおかしいと思うんだよ
なぁ」
「はい?」
「だって嫌いよりだったマリン嬢もエクシアもあんなんになってたしね」
!!マリンは私も知っていましたが知らぬ間にエクシア様もだったなんて……。
「一緒に探してみないか?ティアラ嬢の秘密」
「!!」
いたずらをする子供のような表情をするルシウス様。そして右手を差し出してきます。
「お互い婚約者はいないし二人でいても何も言われないぞ?」
「分かりました……やってやりましょう」
私はルシウス様の右手を握り返しました。
「あら、レイラ最近どこへ行っているの?」
「アメリア様。いろんな方に見られるのが恥ずかしくって、昼休みだけは一人になりたいと思いまして」
「そうなの、でどこへ行っているの?」
「……失礼致します」
無理やり話を切り上げて私は逃げるようにアメリア様から離れました。
ルシウス様とティアラ嬢のことを探り始めて早3ヶ月が経ちましたが何も手掛かりが得られていませんでした。
それまでにアメリア様はまるで何かに操られているように同じ言動を繰り返すことが多くなりました。
そのため最近は距離を置きつつありました。
「皆様操られてでもいるのですかね」
冗談ぽく私はルシウス様に話しかけました。
埃っぽいため、滅多に人が来ない旧校舎の図書準備室でルシウス様と様々な文献を持ち寄って原因を探していました。
「あながちその考えは間違えではないかもしれないぞ」
ルシウス様は真面目な顔をしていました。
「え?」
「これを見てくれ」
と言って指していた一つの記事を見てみます。
「!!これはーー」
「もしこれなら、大変なことだぞ」
私たちが見ていたものは、数百年前の文献で今は禁呪とされている”魅了魔法”の事件でした。
魅了魔法とは文字どおり使った相手を魅了する魔法で、数百年前にある人が国王を魅了し国を滅ぼしかけたためそれ以来使った者は即死刑と定められ、それに関する魔法書は全て燃やされたものでした。
そして、魅了魔法が使える人は――光魔法を使える人。つまりティアラ嬢や私でした。
「……これではないか」
流石にそんなわけがないと他の文献を漁り始めたルシウス様に
「これだと思いますわ」
「なんでだ?」
「だってブラント様やマリン、アメリア様達は急に変になったではないですか。文献の例に似ております。調べる価値はあるかと」
「……そこまで言うのならこれを本命として探ろうか」
ルシウス様は優しく微笑み言った言葉に私は
「はい」
とだけ返しました。
「ティアラ嬢、ご無沙汰しておりますわ」
「あ、レイラセンパイじゃないですかぁ。どうされたんれすかぁ?」
ある日、子息令嬢の輪の真ん中でニコニコと笑うティアラ嬢へ私は近づきました。子息令嬢たちは私が近づくと露骨に嫌そうな顔をしていました。
「いえ、私もあなたと仲良くなりたいと思ってね」
「そうなんですね!じゃあ皆、ちょっとあっち行っててくれない?」
ティアラ嬢がそう言うと
「分かりました」
「終わったらすぐに駆け寄ります」
と言ってどこかへ行きました。
「れ?どうして急に?」
ティアラ嬢はクルクルと自分の髪をいじり始めした。
「……皆様ティアラ嬢と仲良くしているので以前の無礼の謝罪をさせていただき、仲良しにならせてもらえないかしら」
「あはは!それが頼む人の態度ですかぁ?」
「ティアラ様。お願いいたします。機会を与えてくださらないでしょうか」
「あー気分良い、いいよわらし優しいから。なら、わたしの目をみて」
言葉の通りに従いティアラ嬢の瞳を覗きます。
「うん、これくらいならいけたれしょう。気分はどぉ?レイラ」
「……すごく良い気分ですわ。悪夢から醒めたような気持ちです」
ティアラ嬢はそれを聞き満足げに笑うとじゃあねと手を振り去っていきました。
「どうだったか?レイラ嬢」
「文献通りでしたわ」
私はティアラ嬢に近づいた日にルシウス様を家にお招きしました。
「5秒以上相手の目を見てティアラ嬢の取り巻きの方と同じようにしたら満足げにしていました。それに呂律も回っていない時がありましたわ」
と今日のことを伝えます。
「魅了魔法の継続に脳の容量の大半を持っていかれるらしいからな。予定通り昼休みの集まりはやめて放課後にレイラ嬢の家を借りてやろうか」
うーむ。と手を組んで考えるルシウス様。
ルシウス様が王宮にある魅了魔法についての文献の持ち出しの許可をなんとか取り今日はそれを持ってきてくれていました。
「魅了魔法の解除方法もあるはずなのだがそれは見つからなかったしあったとしても国家機密レベルなのだろうな」
「そうですわよね……」
コンコンーー
「ルシウス様にお迎えの者が参りました」
「ああもうこんな時間か」
ルシウス様はガサガサと急いで持って来たものをまとめ、
「じゃあまた学園で」
「ええ、さようなら」
今日はここまでのようでした。
「ねぇレイラぁ、お菓子持ってきれよ」
「はい、1分程お待ちくださいませ」
次の日から私はティアラ嬢の侍女のようになりました。
「お持ちいたしましたわ」
ティアラに差し出すのは昨日取り寄せておいた有名店のクッキーです。
「……今はクッキーの気分じゃないわ」
「申し訳ございません。ですが他に手持ちがなくって……」
「はぁ、もういいわ。マリン」
失望したようにティアラ嬢はため息をついてマリンの名を呼びました。すると、
「はい、ティアラ様」
と言ってマリンは手際良くマカロンを手渡しました。
最近のティアラ嬢の取り巻きたちは友達、というより使用人のようにティアラ嬢の言ったことには絶対服従になっていました。
「そうそう、正解。レイラも見習いなさい」
そう言いながら私が持ってきたボトボトと床にクッキーを落とすティアラ嬢。
「片付けといてね〜あ、あとルシウスも私が攻略するから話さないれね〜」
「……かしこましました」
私はティアラ嬢が落としたクッキーを拾い始めそれを少し見ていたティアラ嬢はこちらを一瞥もしない取り巻きたちを連れてどこかへ去っていきました。
「おはようレイラ嬢」
「……」
ルシウス様に挨拶をいただいてもティアラ嬢の取り巻きの新入りに対する探りの、ティアラ嬢の言いつけを守っているかの監視のするどい視線が刺さるためあえて無視をしていました。
ルシウス様も察してくださったのかすぐにくるっと体の向きを変えて前を向きました。
そんな生活が2ヶ月ほど続き最初は私を警戒していたティアラ嬢は警戒を緩めつつあるようでした。
「お嬢様、明日の予定の確認をさせていただきます」
「ええ、よろしく」
宿題を終え、夜寝る前に私付きの侍女にいつもと同じように最終確認をしてもらいます。
「明日は学園をお休みし、聖女の試験を朝6時から20時まで休憩2時間の予定でございます。そのためーー」
そう。明日は聖女の試験の日で、光属性を持った子は18の年に受けることが決まっておりこれに合格すると正式に聖女と名乗ることを認められ活動をすることができますが、試験はかなり難しく、もし不合格なら聖女見習いとなり、3年間聖女様のお手伝いをすればまた試験を受ける権利を得ることができるのでした。試験内容は極秘で当日に受ける人だけ教えてもらえました。
「緊張するわね」
「私どもはお嬢様のいままでの頑張りを近くでみておりました。お嬢様のことを使用人一同、心よりおいのりしております」
「ありがとう」
侍女はぺこりと一礼して部屋を出て、私は眠りにつきました。
「素晴らしい!満点ですよレイラ嬢」
ニコニコと笑みを浮かべそう言ったのは私の試験を見たムアム司教です。
「ありがとうございますわ」
試験は半日聖女としてある村に派遣されそこで怪我や病気の治癒をしてその際の手際や対応を見るという内容でした。
私は、今まで先生に習ってきたものを生かして試験に挑みました。
よく学び、何度も反復練習をしていた成果が満点という結果で返ってきて嬉しかったです。
聖女の試験を合格した人は4月に行われる聖女祭という大きいお祭りでお披露目をされます。新しい聖女毎年は数名いるかいないかなため、聖女の紹介が終わり言葉をもらったら後はただのお祭りで平民だけでなく貴族もお忍びで来たりしています。
私も毎年ブラント様と一緒に行っていました。
「今年の合格者はレイラ嬢だけだから、聖女祭で1人しか紹介されないけれど気張りすぎないでくださいね」
「はい……少々不安ですが頑張りますわ」
と私はこぶしをつくって司教様に言いました。
「あと、このことなんですが……」
「ああ、もちろん当日まで誰にも喋らないですよ」
「ありがとうございます」
ティアラ嬢に今まで秘密がないか何度か探られているため、私が光魔法を使えると卒業前に知られてはルシウス様との活動に不都合が生じてしまう可能性もあります。なので司教様の口留めを試験の前から頼んでいました。
「じゃあ、大分暗いけれどお気をつけて帰ってください」
「今日は半日ありがとうございました」
「ええ、お疲れさまでした。試験に合格したとはいえ、正式に聖女となるまであと3,4カ月程あります。それまでこの合格に気を緩めることなく光魔法の練習をしといてくださいね」
「はい、もちろんでございますわ」
「それでは、明後日に」
「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
その日、家までの馬車の中で疲れ果てた私は熟睡しました。
「本当は在学中に余裕をもってこの問題を解決したかったのだがな……」
「余裕をもっては厳しいですわね」
「せめて卒業パーティーまでには間に合わせたいな」
卒業パーティーは卒業式の後に行われるもので、この学園の卒業式は生徒と先生、生徒たちの親だけでなく、国王陛下、お妃さまもいらっしゃる大切なものでした。
聖女の試験の次の日から私は学園に行き、放課後に私の家へルシウス様をお招きしティアラ嬢の問題の解決ために頑張っていました。
ルシウス様が言っていたように、はじめは3年生の夏くらいまでには解決していたかったのですが、問題のスケール的にも厳しく卒業までに解決したい、すると変わっていました。
「ティアラ嬢、隠すのが上手いですね」
ティアラ嬢は中々情報の粗を出しませんでした。
「ああ。だが早めに決着をつけないと、最近兄上が父上にティアラ嬢を合わせたがっているらしいからまずいことになるかもしれない」
「!国王陛下にティアラ嬢を!?」
もしティアラ嬢が国王陛下に魅了魔法を使ったりでもしたら最悪の場合国が乗っ取られてしまうかもしれません。
「それはまずいですね……」
「だから、俺はこれを持ってきたんだ」
と言ってルシウス様はカバンの中からある物を取り出します。
「!!これは……」
私とルシウス様は思わずハイタッチをしました。
時は流れ、気づけば卒業パーティーまで残り3日となっていました。
「「……で、できたぁ」」
と安堵の息をつけるようなものは、ティアラ嬢が魅了魔法を使ったという完全な証拠をまとめたものでした。
「これさえあれば……魅了魔法を解いてティアラ嬢も止めることができる」
「はい!絶対に気づかれてはいけませんね……」
「これはどこに隠しておこうか」
とできた資料を持ってルシウス様は悩みました。
「私の部屋にこれを隠すうってつけの場所がありますわ!」
コソコソ――とルシウス様に耳打ちをすると、
「!そこなら」
と良い反応をしてくださいました。
「では私はこれをしまってきますわ」
「俺はお暇させていただくとしようかな」
ルシウス様はぐーっと体を伸ばしました。
ここまで本当に長く、正直最後の方まで卒業パーティーに間に合うのか心配でした。
しかし、なんとか間に合わせられよかった……と思っていると、
「あと、レイラ。もしこれがうまくいったら君に言いたいことがあるんだ」
真剣な顔をルシウス様はしていました。
「?はい、分かりました」
なんのことか分からず心の中では首を傾げていましたが、そう言うとルシウス様は
「何か分かっていないだろう」
と笑いまた明日と家に帰っていきました。
しかし、翌日に事件が起こりました。
「おはようございます、ティアラ様」
このように朝、学園に登校して一番にティアラ嬢に挨拶をしにいく、ということにも完全に慣れいました。
「……ねぇ、レイリャ、あんた私に嘘をついてぇいたのね」
ティアラ嬢は以前と比べ物にほどろれつが回らなくなっていました。
「……なんのことでしょう」
一瞬バレたかとも思いましたが、そんなことはない、と思い直して私は堂々といいました。
「もう今更嘘つかなくてぇいいから、あんた私のこと嫌いでしょ」
「そんなわけないではないですか!」
「はぁ、うっさいわね。ねぇ抑えてあそこに連れて行って」
ティアラ嬢が一言指示を出すとスッと出てきて私の腕を掴んだのは――
「ッ――。離してくださいませ、ブラント様」
「……」
ブラント様は無言・無表情で私の腕をガシッと掴んでいました。
ほぼ男性成人で毎日体を鍛えているブラント様の拘束を解けることはなく、私は抵抗を諦めて大人しくどこかへ連れて行かれました。
「ねぇ、なんれあんた私のこと好きじゃないの?」
「……」
こちらの顔を覗き込むようにして聞くティアラ嬢。
私は沈黙を貫いていました。
ティアラ嬢はつまらなそうにすると、口を私の耳に近づけ、
「もしかして、魔法効かないんですかぁ?」
「っ……」
ティアラ嬢の口から出た魔法という言葉に思わず反応を示してしまうと、
「あっはははは!!そうでしょうねぇ、じゃなきゃおかしいもの」
それを聞いて、半分もう無理だと諦めた私は、
「……なぜあなたはあの魔法を使えるのですか」
「ん?うーん……いつもなら絶対嫌だけど今は裏切者が見つかって気分がいいから特別に教えてあげる!みんなー!耳塞いでてね」
と言って取り巻きたちが耳を塞いだことを自分の目で確認すると、ティアラ嬢は自分の身の上話を始めました。
「わたしはねぇ、ナルフィン男爵家に生まれてね、どーせ調べたあんたも知ってると思うけど家ではすっごく可愛がられてたんだぁ」
彼女の言う通り、ルシウス様とティアラ嬢を探るようになってからティアラ嬢のことを調べましたが、そのような報告もされていました。
「何不自由ないようにパパとママに育てられて幸せらったの。らけどね、私が10になって光魔法を持ってるって知ったらパパとママはなんか変わったの」
それも聞きました。
「光魔法があればもっと良くなるって、私もそう思ったから別に反対したりしなかったんだ。でも、思った以上に勉強が大変れねぇ、ストレスが溜まっちゃったの。そん時かなぁ魅了魔法が使えるようになったのは」
「……」
「最初使ったときはそれが何かよくわからなくて、戸惑ったけどパパとママに相談したらそれが何か教えてくれて、それについての魔法書を持ってきてくれたんだぁ」
「!?あの魔法の魔法書は全て燃やされたんじゃ……」
思わずそうティアラ嬢の話そさえぎってしまいました。
ルシウス様と見た文献でも確かにそう記録されていたはずでした。
「人の話は最後まれ聞けって言われなかった?れぇ、口塞いろいて」
ちょんちょんとマリンの体をつつきティアラ嬢が言うとマリンは光の灯っていない目をこちらに向け私の方によると私の口絵を手で覆ってきました。
「うん!いいねじゃあ続けるね」
ティアラ嬢は笑顔でした。
「魔法書でそれを勉強してから、時々私はそれを使うようになったの。最初は独学でさ、今思うと凄いムラがある、拙い魔法だったけど当時から去年だっけ?それくらいまではそれで満足してたなぁ」
目をつむったティアラ嬢はそのときのことを思い出しながら話していました。
「らけどね、思ったんだ。私がこの力を使えば平和で楽しい国をつくれるんじゃないかなぁって!!素晴らしいでしょう?だから私は今まで頑張って来らってわけ」
どう?偉いでしょうとティアラ嬢は胸を張っていました。
何も反応がないことに気が付いたティアラ嬢はマリンに、
「ああ、マリン。そいつ離して耳塞いでる子にもういよって教えてあげて」
指示を出しました。
「かしこまりました」
私を雑にポイっとやるとマリンはすぐにティアラ嬢が言ったとおり行動をし始めました。
「かひゅっ――」
マリンに口を塞がれほぼ空気を吸えなかったため、解放された瞬間に大きく息を吸い込みました。
「どお?分かった?」
ティアラ嬢はこちらの目を見てきます。しばらく見つめられた後、
「チッ、やっぱあんたかかんないね。そういう体質なのかな」
ティアラ嬢そうは吐き捨てました。
「んーとねぇ、じゃあ仲がよかったマリンとブラントとエクシアを置いておいてあげりゅ。卒業パーティーが終わるまでになんでかここてで吐かせといてね。たまに来るからそん時、らいたいの怪我は治せるけど無理なのもあるかりゃ気をつけてね」
「はい」
「レイラの家のやつが探しにきたら呼んでね〜やるから」
「かしこまりました」
その返答を聞いてふふっと笑いティアラ嬢は取り巻きたちを連れて去っていきました。
……今の、このタイミングで捕まるのは完全に予想外でした。
なんて、そんなことはありません。
逆にこのタイミングでティアラ嬢が離れ、ティアラ嬢の魅了魔法にかかった人がいるということは一番良い未来でした。
「……最高ね。では、やってみましょう――」
私を見張っているマリンとエクシア様、そして私を抑えているブラント様などお構いなしに、スウッ。と大きく息をつき――
『△△〇△』
その魔法を唱えた瞬間、まばゆい光がその場を包みました。
「……レイラがいない」
俺は少し焦りを含んだ声色で言った。
ティアラ嬢に捕まえられるようボロを出してみます。――その提案をされたとき、女の子だから心配だと言ったらレイラに私の心配なんてしないで国の心配をしてくださいませ!と怒られた。
本当は女の子だから、ではなくレイラが危険になるのが嫌だっただけなのだが。
単純だとは思うが、レイラと数カ月間時間を一緒にしているうちに彼女の話す内容や聡明さに心を奪われた。初めて会ったときはただ綺麗だな人と思っただけだったのだが。
SOSは出されていないため、レイラの提案の通りに進んでいるのだろうが、心配の念は消えない。
「あっ!ルシウス様ぁ。お元気ですかぁ?」
そんな空気は読まずにティアラ嬢はいつものように俺に話しかけてきた。
ティアラ嬢に、レイラをどこに連れて行ったのか問い詰めたいところだったが、その気持ちをなんとか落ち着かせて、
「ああ、ティアラ嬢」
といつものように返事を返す。
「もしかして、ルシウス様レイラセンパイを探していますか?」
俺の考えを読んできたかのようにティアラ嬢は言う。
「……そんなことは――」
「ああ、大丈夫ですよ隠さなくって。知ってるんれ」
「……だろうな」
その言葉を聞いてティアラ嬢はふふふっと笑った。
「まぁ、レイラがなぜ効かないか洩らせばすぐに解放しますよ。まぁ、その時には私の魔法は完璧になっているでしょうが」
そして俺の胸元を触り猫なで声で――
「卒業パーティーまでにはあなたもオトして差し上げるわ」
思わず胸元に置かれた手をバシッと叩いた。
すると、
「……次はないですからね」
と射殺さんばかりの目を取り巻きたちと共にこちらへ向けてきたティアラ嬢から逃げるようにその場を去った。
バンッ――!
勢いよく開かれた扉の前にいたのは――
「……吐いたのか?」
ティアラ嬢かと思いきやその部屋に入っていたのはルシウス様の兄で第一王子のアルヴィス・ハインリッヒ様でした。
「チッ。なんでティアラ様じゃないのかしら」
マリンがアルヴィス様を見て小声でいいました。
「それは、ティアラ様のお父様が倒れてしまったらしいため、急いでティアラ様は帰られたのだ。本当は俺もティアラ様とご一緒したかったが、ティアラ様のお願いとあらば仕方がないだろう。それで?」
怒るわけでもなく淡々とアルヴィス様は返しました。
「そうなのですか、心配ですね。いい報告をしたいのですが吐きません」
エクシア様はぐったりとしている私を見せながら少し残念そうにしていました。
私の体についた傷をチラッと見て、
「そうか、ティアラ様が帰ってこられる前には吐かせておけ。その時にティアラ様に傷は治してもらう。また数時間後、帰る前に様子を見に来る」
とだけ伝えるとアルヴィス様はバタンとドアを閉めて行きました。
「……今日は帰れないかな」
「そうかもね」
そんな小さい呟きは部屋の闇へ消えていきました。
次の日、
キィ――。
「情報は吐いたのか?」
アルヴィス様は部屋は入ってきました。
昨日は結局家へ帰れませんでした。
うちの親が昨日死に物狂いで私を探していた様子が目に浮かびます。
「ええ、吐きましたわ。実は、聖女様にご加護を授かっていたようです。それで――」
ブラント様がそう言うと、
「そうですか。ではティアラ様に報告へ行きます。ティアラ様がいらっしゃるまで見張っておいておけ」
アルヴィス様はスタスタと去っていきました。
「……計画通りですね」
「ボロが出ないようにせいぜい気をつけてくださまいし」
私は言いました。
「あっはははー!あんたのムカつく態度とも今日でおさあばね!」
ティアラ嬢はハイテンションで来ました。
私は、さるぐつわを付けられていたため何もしゃべれずただティアラ嬢に目線を向けていました。
「ああ、口についてるやつ外して。反応見ながらの方が楽しいでしょう?」
目線の意味に気が付いたのかティアラ嬢がそう指示をすると私の口についていたさるぐつわが外されました。
「ねぇ?今どんな気持ち?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらティアラ嬢はこちらの反応を見てきました。
「……」
私は声が聞こえなかったかのように魂を抜かれたような目で部屋の隅の一点を見続けていました。
そんな反応を見飽きたのかしばらくすると、
「チッ。つまんないやつね。ていうか、聖女の加護だったらアルヴィスにもついてたけどそれは何もせずに消せたのにね〜。てゆうかなんでルシウスにも効かなかったのかしら……。ま、もういいわ。マリン、こいつについている加護の消し方を教えて」
「かしこまりましたわ。レイラが言っていたのは、あの光魔法を使って――」
ティアラ嬢はマリンの説明通り作業をしていきました。
「これでいいのかしら」
「完璧なのではないでしょうか」
「ティアラ様に失敗などございません」
そんな取り巻きたちの言葉を聞いて鼻を高くして、
「あたい前じゃない!じゃ、仕上げ仕上げっと~」
と私の目をじっと見つめてきました。
すると、
「……できたのかな?前も出来たと思って意外と出来てなかったからなぁ……。あっ!そうだ、ブラントとエクシア、マリン。こいつをすっごい痛めつけてみてよ」
「痛めつける……ですか?」
流石に想定外の命令だったのか、マリンはティアラ嬢の言葉を聞き返しました。
「そう!魔法とかも使っていいかりゃやっちゃって。抵抗しないで受けきったらその傷は治して家に帰してあげよう!もしそうじゃなかったら……ま、そんなことはないだろうけどね」
ティアラ嬢の命令を受け、断るなんてことはできないでしょう。
三人はかしこまりました。と言うと私に向かって魔法を放ち始めました。
「あっはははは!面白かったぁ。大丈夫そうらね、治してあげるか」
小一時間ほど私に魔法を受けさせていたティアラ嬢は三人の体力が限界だと、私が大丈夫だと感じたのかそれをやめさせました。
「よーし、回復魔法っと」
ティアラ嬢がその魔法を唱えた瞬間私の体についていた傷はなくなっていきました。
私の体には先ほどまでたくさんの傷がついていたのですが、一瞬にしてそれをなくしたティアラ嬢は魔力量・扱いを見ても稀に見る優秀な光属性の持ち主なのだと思いました。
聖女となり、正しいように使えばそれこそ何千、何万の人も救える歴史に残る大聖女となったことでしょう。
「ほんとはまだ帰る時間じゃないけどレイラ、あんたは家に帰って明日の卒業パーティーの準備をしなさい。あんたの親は昨日なんとか説得してもらったけどあんたも説明しときなさい」
「承知いたしました」
私は綺麗なお辞儀を見せて言いました。
「よし!昨日残った人たちも今日は帰っていいよ!昨日は準備も出来なかったからね」
「「「はい」」」
ティアラ嬢はニコッと笑い、
「明日は私の美しい未来を決定さしぇる大事な日よ!みんなで頑張りましょう」
と言いました。
「「「はっ」」」
その場にいた取り巻きたちは同時に返事をし、みんなティアラ嬢の後ろについて行きました。
「ただいま戻りました」
「!!レイラ、本当に昨日は大丈夫だったのか!?」
「心配したのよ!?」
家に入るなりお父様とお母様が問い詰めてきました。
「マリンちゃんの家でお泊り会をすることになったって聞いたけど本当だったの?あとどうしてこんな時間に?まだ授業中でしょう?」
帰る前に軽く聞いていましたが、私はマリンの家に泊まっていたことになっていました。
「はい。卒業の前に思い出作りをしようとなり……急で申し訳ございません。体調が少々悪く今日は帰らせていただきました」
「……思い出作りって言われたらしょうがないって思っちゃうじゃない」
「18で成人の年とはいえまだ学園は卒業していない。心配になる気持ちもわかってくれ」
「はい」
「体調が悪いのも心配だな……ゆっくり休みなさい」
「では失礼いたします」
私が部屋に行こうとすると、
「俺もレイラと話したいから着いていくよ」
と二番目の兄のランス兄様が言ってきました。
何を話すのか全く見当もつかなかったですが、それを了承して私の部屋へ向かいました。
部屋に着くまでランス兄様は何も話しませんでした。話すために着いてきたのにもかかわらず、です。そのためそれを不思議に思っていると、
「ティアラ様はお前のことを完全には信用していないようだ。お前がかかっていないとしても下手なことはするなとティアラ様からの言伝だ」
光のない目でこちらを見てそれだけ言い、すぐに自分の部屋がある方へ行くランス兄様を私はじっと見つめていました。
「明日だが……レイラは大丈夫かな」
先生にレイラのことを聞いても今日は体調不良で帰ったの一点張りだった。
それに、ティアラ嬢が今日機嫌がよさそうだったことも少し気がかりだ。
そんなことを考えていると、
「おい」
「……兄上」
急にアルヴィス兄上が話しかけてきた。
「レイラとティアラ様を貶めるためのことを考えていたのだろう。今も計画通りだといいね。ティアラ様がお前に伝えられたかった言葉だ」
今も計画通りだといいね……?
今のこの状況はレイラの計画の通りだと信じているが……。
アルヴィス兄上からのティアラ嬢の伝言とやらを聞いてレイラへの、ないと思っていた心配や不安が増したのを感じた。
「今日はいよいよ卒業式の日ですね」
私つきの侍女はしみじみとした様子で言いました。
「そうね」
私の返した言葉がどれだけ簡単でも侍女は顔色一つ変えず私の髪を結ったり、服を整えたりしていました。
「ご主人様と奥様はお嬢様の卒業パーティーにご出席するために、今日の仕事を急いで終わらせると朝から頑張っておられましたよ」
「そう」
「それではいってらっしゃいませ、お嬢様」
私の学園生としての最後の一日が始まりました。
「以上で第○○年度、ハインリッヒ王立学園の卒業式を終了します」
副学園長がそう言い、今年度のハインリッヒ学園の卒業式が終わりました。
ちなみに、卒業生の代表挨拶は、生徒会長を務めていたアルヴィス様が立派に読み上げました。
「6時間後の午後六時よりハインリッヒ王立学園の卒業パーティーを始めます。ご準備の方をよろしくお願いいたします」
そうアナウンスが入ると大半の卒業生は卒業式に出席していたご両親と家へ一度帰っていきました。
今来ているのはドレスではなく、制服なため今日のために仕立ててきたドレスに着替えに行ったのでしょう。
私も、一度家族と家へ帰りました。
昨日の夕食の時間のこと、
「見て!明日のためにつくってもらったの!」
ニコニコの家族からもらったのは綺麗な宝飾品がついた美しい赤色のドレスでした。
「レイラの瞳の色の赤を基調としたドレスだ」
「!……こんなに良い物をありがとうございます」
心からのお礼を言うと両親は嬉しそうに笑いました。
「明日の卒業パーティーの入場の時のエスコートは任せてね」
カイル兄様も笑顔で言いました。
カイル兄様には来年籍を入れる予定の婚約者様がいましたが、その方に許可をとって私のエスコートをしてくださることになっていました。
エスコートは婚約者がいればもちろんその方に頼むものですが、わたしは婚約破棄をしていなくなってしまったため、気を使ってカイル兄様が早いうちから自分がエスコートをと名乗り出てくれていました。
「はい。よろしくお願いいたします」
私は下手なことを言わないようにと言葉が少なかったでしょうがそう言いました。
ランス兄様は私を監視するような目線を向けていましたから。
そんな家族が用意してくれたドレスを侍女達にも着替えさせてもらい、ヘアアレンジとメイクを大急ぎでしてもらいました。
家を出る前、私は、ふぅ。と息をつきました。
そして覚悟を決めると私は戦場へ行くために家族と一緒に馬車へ乗りました。
「それではただいまよりハインリッヒ王立学園の卒業パーティーを始めます」
パーティーが始まりました。このパーティーはまず、20分ほど歓談の時間が取られ、その次に国王陛下からの言葉、卒業生代表挨拶(これもアルヴィス様がやられます)。と続きあとは歓談、食事、ダンスをするようでした。
パーティー会場はとても広かったのですが、ある場所の密度は他のところの何倍もありました。
それは、ティアラ嬢の周りでした。ですが、
「も〜!狭いよぉ!」
というティアラ嬢の一声によってティアラ嬢から少し離れました。
その光景を見て、保護者の方々は疑問に思っているような方と自分もとティアラ嬢の取り巻きたちの集団の中へ入っていく方で分かれていました。
「あははは!そうなの?すごいわねぇ」
友人(?)達と仲がよさそうに歓談する姿はとても楽しそうで可愛くて前者の疑問に思っていたであろう方々もその疑問があの令嬢は人に好かれる令嬢なのだろうなどと納得しているようでした。
そんなこんなで20分がたったとき、
「ご歓談中の皆様へ、ハインリッヒ王立学園の全生徒会長のアルヴィス・ハインリッヒ様よりお言葉をいただきます。それでは、どうぞよろしくお願いいたします」
「皆様こんにちは。ご紹介に預かりましたアルヴィス・ハインリッヒです。ーー」
アルヴィス様のご挨拶は特に何も起こらず終わり、
「では続いてハインリッヒ王国、国王のトゥーラーゼ・ハインリッヒ様にお言葉をいただきます」
「余はトゥーラーゼ・ハインリッヒである。まずはハインリッヒ学園の卒業生の皆のもの。卒業おめでとう。優秀な者が立派に育ったのを余は嬉しく思う」
などと国王陛下のお言葉の時も何も起こりませんでした。
状況が動いたのは国王陛下のお言葉が終わり、歓談、食事、ダンスの時間になった時でした。
ティアラ嬢は急にアルヴィス様、ブラント様と言った有力子息や令嬢を数人引き連れて壇上へ上がってきました。
「皆様、ごきげんよう。私はナルファン男爵家の一人娘のティアラ・ナルフィンと言いますわ!以後お見知り置きを」
ティアラ嬢は綺麗な所作で挨拶をしました。
何も分からない保護者の方々はなんだなんだと少し戸惑っているご様子でした。
「私がこの場で言いたいことは1つです。皆さん、私のことは好きですか?」
そうティアラ嬢が言って保護者の方々の戸惑いが大きくなったかと思った次の瞬間、ざわめきが一瞬にして消えていきました。
小声で不信感をあらわにして何かを話していた方々もいましたが、その方々の言葉の続きはありません。皆さま瞳の光が失われて卒業パーティーの会場はシーンと静まりました。
「……れきた?の?」
一度壇上から降りてそこら辺にいた保護者をツンツンとつつきました。
「ティアラ!よくやったぞ!!」
「うん!完璧ねぇ!!」
誰がそれを言ったのかとチラッとバレないように視線を送ると、そこにいたのはティアラ嬢の父親と母親でした。
「最初によーく調べた時、誰も闇魔法持ちはいなかったし、光魔法持ちもいなかったとは思うけど、いてもティアラの魅了魔法を無効化させるほどの光魔法持ちはいるわけないだろう」
「そうですよね!お父様」
「この国は私たちのものになったのよね?」
「そうだな!」
あはははと静まり返っていた会場にナルフィン家の方々の笑いが起こりました。
……そろそろ揃いましたかしら。
ティアラ嬢は何も指示していないのに会場にコツコツと足音が響きました。
ナルフィン家の方々は信じられないと言うような顔をしていました。
その顔を向けた先にいたのは、ルシウス様でした。
それがなぜか分かるはずもありませんが、ティアラ嬢はすぐに
「ルシウスを捕まえて!!」
と言いました。ルシウス様の近くにいた方々はそれを聞いてルシウス様を取り囲みました。
「……なんでかしら」
ティアラ嬢は爪を噛み言いました。それは焦った時に出る彼女の癖でした。
「どうしてだろうな」
ルシウス様は自分に伸びてくる手をなんとかかわしながら言いました。
「なら捕まえるまでね!」
ティアラ嬢のその一言を皮切りにしてルシウス様を捉えようとする手の動きのキレが良くなりました。
流石にルシウス様もそれらは避けきれず、一人に手を掴まれたと思ったら即座に体を拘束されてしまいました。
「……とりあえず、牢屋にでも入れておくか」
「わかったわお父様」
ティアラ嬢が牢屋へと、口にしかけたところで私は、口を開きました。
「ティアラ嬢、そこまでですよ」
「!……チッ――!!あんたもか。捕まえて」
その一言でこちらに向かってきた方々に私は魔法を使いました。
すると、その方々はその場に倒れて――
「!?はぁ、あんた何したの!?」
目を大きく見開いてティアラ嬢は聞いてきました。
「さぁ?なんでしょう」
そう一言いうと私は魔法を使い続けて、
「!?は、はぁ……?」
終わった後にティアラ嬢たちの方を向くとティアラ嬢は目を大きく開いたまま、そのご両親は口をパクパクとし皆さん信じられないといった様子でした。
「知らないですか?魅了魔法があればそれを解除する魔法だってあるのですよ?」
「ティアラが使っていたのは上級魔法に匹敵するくらいの魅了魔法になっていたのだぞ!?解除なんてできるわけないだろう!?そもそもなんで解除魔法が……?光魔法の持ちにしか使えないだろう!?」
私の言葉に顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら反論するナルフィン男爵。
「……ルシウス様、お怪我なさってますよ」
「あ、本当だ。ありがとう」
ルシウス様に近づき、腕についた赤い爪のあとに回復魔法を使いました。
「!!回復魔法だと!?光魔法が使えるのか!?」
ナルフィン男爵はこちらに指を向けて言いました。
「ええ。そうですの」
「だからってなんであんたが私の魅了魔法を解除できるほどの魔法を使えるのよ!」
「それは企業秘密、というやつですわ」
本当は、聖女の試験に合格した時にいくつか個人で手に入れることは厳しい上級魔法を教えてもらいます。その時教えてもらった上級魔法のひとつが解除魔法でした。本来上級魔法は一つ覚えるのに一年はかかると言われていますが、私はこれを使えるようになるまでで最近まで毎日魔力が切れるギリギリまで練習していました。
「ッーー!!!口を割らせてやる!!」
激昂したティアラ嬢のご両親が私に向かって魔法を放ちました。
しかし、それは明後日の方向へ飛んでいきました。
私は二人に睡眠魔法を使いました。
「お父様!お母様!」
「安心してください。二人で話したかったので眠らせただけですわ」
「こんのっ!!」
そう言って手を振り上げてティアラ嬢はこちらに突進してきました。
しかし、その手は私に届くことはなく、ルシウス様に止められました。
「はなせ!」
「離すわけないだろう。はあ、いつまで寝ているふりをしているのですか、父上」
そうルシウス様が言うと私たちは国王陛下と王妃様がいらっしゃるところを見上げました。
「え……?嘘でしょ?」
「もう少しだけ見ていたかったのだかな」
やれやれと顔を上げる国王陛下。
「レイラ嬢。皆を起こす魔法は使えるか?」
「はい」
私はその魔法を使いました。
だんだんと起き上がってくる皆さま。
「あ、あああ」
ティアラ嬢はその場に座りこみました。
「衛兵。ナルフィン一家を捕えよ」
起きたばかりの衛兵の方々は状況を理解していないようでしたが、国王陛下の命令に従いナルフィン家の皆さまを捕えました。
連れて行かれて私のすぐそばを通った時、ティアラ嬢はこちらをギロリと睨んできました。
「知らないですか、ティアラ嬢。仏の顔も三度まででしてよ?」
ティアラ嬢の耳元で小さく呟きました。
それを聞いて顔を真っ赤にしたティアラ嬢は何かを言いそうでしたが、衛兵の方に止められてそのまま会場から退場していきました。
「あー!レイラの入れてくれたお茶は世界一美味しい!」
私はルシウス様と私の家の庭でお茶会をしていました。
「ありがとうございます、練習した甲斐がありましたわ」
微笑んでそう言うと、
「〜〜!!俺の婚約者が世界一可愛い!!」
とルシウス様は言ってくださいました。
あの卒業パーティーのあと、事情聴取のため家に帰れたのは2日後でした。
私はなぜティアラ嬢が魅了魔法を使ったと思ったのか、どうやって調べたのかを話しました。
ティアラ嬢の魅了魔法のことを確定できたのは、あの日……議論が止まっていた時にルシウス様が持ってきてくれた王宮の図書館に1日だけ王族以外の人が入っても良いと言う許可証でした。
王宮の図書館は王国一の本類の量で本好きなら一生に一度は行きたいと言われる場所でした。
そこで以前ルシウス様が持ってきてくれた文献よりも詳しい文献を見つけ、魅了魔法の解除方法について知りました。
そして国王陛下にルシウス様からティアラ嬢のことを話してもらい、アルヴィス様が会わせようとしているのを避けていただきました。
国王陛下と王妃様にはあの卒業パーティーの直前に私が中級の精神攻撃無効をかけたのですが、それはティアラ嬢の魅了魔法を防げなかったようです。国王陛下と王妃様には見てていただくためいち早く起こす魔法を使って寝ているふりをしてもらっていました。
私は、魔法は自分に使うと100%の効果を使えたためティアラ嬢の魔法を受けなかったのですが、本当に今のティアラ嬢の魔法に使っても大丈夫かどうかはあのときの賭けでした。
そんな中で、何故ルシウス様が魅了魔法にかからなかったのかと言うと、
「正直、闇魔法を持っていることをいうのは緊張したなぁ」
「そうなのですか?言ってくださって嬉しかったですわ」
そう、実はルシウス様も2属性持ちでその一つに闇属性があったため魅了魔法が効かなかったと教えていただきました。
そして、魅了魔法にかかっていた方々はと言うと、
『ごめんなさい。レイラのことをたくさん傷つけたわ!』
マリンやブラント様は皆さんよりも先に、一緒に閉じ込められた時に魅了魔法を解除していたため、そのときにも謝られたのですが、最近にも会い謝罪がありました。
『ううん。魅了魔法をかけられていたのは知っていたし、しょうがないじゃない!大丈夫よ。これからも変わらないで仲良くしてくれたら嬉しいわ』
私のその言葉にマリンは目をウルウルとさせ『レイラ!』と言い抱きつきました。
他の友人達とも会ってマリンと同じようなことをつたえると、『ありがとう……』と言われました。
お兄様からも『ごめん!』と謝られました。ティアラ嬢とたまたま会う機会があったようで、そのときに魅了魔法をかけられたと言っていました。
ブラント様の方は、ガルシア家から正式な謝罪を受けました。
いくら魅了魔法をかけられていたとはいえ、無礼な態度をしたとブラント様だけでなくそのご両親からも謝罪がありました。
その時、婚約破棄はどうしようかとなりましたが、私が実は少しお慕いしている人がいて……と言うと婚約破棄はそのままになりました。
そして先日、私がお慕いしてる人から婚約をしないかと言ってもらいました。
私はすごく嬉しく二つ返事で答えました。その相手と言うのが――
「うん?どうしたんだい」
「いえ、幸せだなと思いまして」
私は新しい婚約者様に言いました。
「?何か分からないけど嬉しいよ」
ルシウス様は自分の闇魔法を世間に公開しました。
悪い印象しかつかないかという懸念もルシウス様と私がハインリッヒ王国を救ったという話で悪い印象をいだく方もいましたが、その方々より気にしないという方のほうがいました。
私の家も私の功績により公爵家になることが決まっています。
何故ティアラ嬢が魅了魔法を使えるのかそれはまだ分かっていなく、それを突き止めるのを厳重体制で頑張るよとルシウス様は言っていました。
ですが、私はティアラ嬢たちが言わない限りわからないと思います。まあ、言っても意味はないと思いますが。
魅了魔法は上手に光魔法を使える人ならある日突然使えるようになるものですから。私も使おうと思えば使えます。
ですが、魅了魔法を使ってとらえられた後、そう言った方は嘘だと思われありもしない魔法書の場所を聞かれ、拷問の末、死亡したこともあると見ました。
また、魅了魔法を使いすぎると自分の欲が大きくなってしまうとも聞きました。
それでティアラ嬢は暴走したようになったのでしょう。
あの日、私がティアラ嬢に言った言葉、
『仏の顔も三度まで』
これは私が大切にしている言葉です。そもそも人を怒らせるようなことをしないように、と。
ティアラ嬢は三度どころではないですね。
自分の欲を出し過ぎれば破滅するのは目に見えています。
ティアラ嬢で学んだことも今後生かしていけたらいいですわ。
「じゃあ、明日は聖女祭の日だろ?ゆっくり休むんだよ」
「ありがとうございます」
翌日、歴史に残る大聖者が誕生して第二王子と一緒に国のために沢山の功績をあげたのはまた別のお話です。
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