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第1話

新連載です。よろしくお願いいたします!

空は澄み渡った雲一つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。


やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。


……と、失礼いたしました。名乗るのが遅れてしまいましたわね。

私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。


私がこのディーン・オーネット公爵と結婚したのは、今から八年前。私が十九歳の事だった。

しがない伯爵家の三女として生まれた私は、特にこれといった特徴もなく、普通の伯爵令嬢として育ってきた。

残念ながら実家のホーキンス伯爵家は中の中といった所。領地は緑豊かな田舎。特筆する産業もなく、農業と林業が主だった収入である領民が殆んど。そんなホーキンス家の三女なんて、はっきり言って、極上の嫁ぎ先など見込めない。

この国では十八歳で成人するが、大体の貴族はその時までに婚約者が決まるか、成人を待って結婚するかのどちらかだ。

そんな年頃を一年も過ぎる頃には、両親も兄も他の伯爵家に嫁いだ姉二人も私に良い結婚話などは来ないだろうと諦めムードだった。ちなみに私自身もだ。

だが、優しい家族達はそんな事は口にも出さず『焦らなくても良いじゃないか』と私を慰めてくれていた。

ともすれば、後妻に捩じ込んでも良さそうなものなのだが、そうしなかった事は両親の優しさであろう。

しかし…私自身はそんな優しさを心苦しく思っていた事も確かだ。

情けなど捨てて、金持ちの年寄りの後妻にでも嫁がせれば良いのに……そう何度思ったかしれない。

優しさが私の心の負担となっていたが、私はそれを口に出す勇気もなかった。


そんな事を考えながら悶々とした日々を過ごす毎日。

しかし、人生とはどうなるか予想出来ないものである。

婚約者の成人を待っていた兄が結婚する晴れの日を約半年後迎えようとしていたそんなある日、私に降って湧いたような縁談が飛び込んできたのだった。


「オーネット公爵……様?」


「あぁ、あのオーネット公爵だ。ほら……これだ」

父はそれを粗末に扱えばバチでも当たるのではないかと思っているかの様に、オーネット公爵家の紋章の封蝋が施されていたであろうその手紙を、私にそっと丁寧に手渡した。


ディーン・オーネット公爵。三十二歳。

オーネット公爵家は代々、この国の主たる産業である製鉄に必要な鉄鉱石の鉱山を自領に幾つも持ち、自領を繁栄させてきた。他の公爵家より強い発言力を持ち、国王陛下でも時に頭が上がらないと聞く。

その中でもこのディーン・オーネット公爵は若くしてオーネット公爵を継ぐと、優れた手腕を発揮し、オーネット公爵領は益々栄えていった。宰相にも相応しいと多くの声が上がったが、何故か王宮での役職は持たず、領地経営に尽力しているのだという。

しかし、このディーン・オーネット公爵が有名なのはそれだけではない。

三十二歳という歳であるのに未だ独身。

もちろん今までにたくさんの縁談があったと聞いた事がある。それこそ、そのお相手はこの国の上位貴族のご令嬢から、王女様まで居たというから、どれ程このディーン・オーネットとの婚姻が有益であると思われているのかが分かるというものだ。

しかし、全て今まで断ってきたというのだ。

そんな彼に、当然のように付きまとう噂がある。『ディーン・オーネットは女嫌いの男好き』と。

まぁ……三十二歳になっても結婚のけの字も聞こえて来ない事がこの噂に拍車をかけていたのは事実だ。

夜会に女性をエスコートする事もないという話は王家主催の夜会に参加した兄から聞いた話だったか?


そんな公爵が何故私に?いや、何故こんな田舎貴族である凡庸な伯爵家の我が家に縁談を持ち込んだのか?


私は父から受け取った手紙を隅から隅まで読んでみた。確かにそこには『結婚の申し込み』という文字が。しかし、理由などは全く書かれていなかった。

何度読んでも理解が追い付かない。


父は、

「……どうする?」

と私の反応を窺う様に、未だ手紙に釘付けの私の顔を覗き込んだ。


「どうするって……断る事など出来ないでしょう?」


あのオーネット公爵からの申し出を断るなど、出来る筈がない事など父も重々承知だろう。

父も動揺が隠せない様で顔を青くしていた。


私と父は見つめ合ったまま、

「お受けします」「受けるしかないだろうな」

と同時に口にしたのだった。


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