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手を伸ばせフィニッシュライン  作者: 飴栗鼠 / カンナ / 夕空 / 桃 / キホ☆
2/5

2nd writer:カンナ

「なんで?」


 混乱しているユキホの、間の抜けたような声に、そんなに驚かなくてもいいのにと『モモコ』が肩をすくめた。


「寝てるのかと思ったけど、こんな所に倒れてるもんだから心配になってさ」


 彼女の言葉で気が付いて、ユキホは辺りを見回す。


「……あれ……ここ、どこですか?」


 目に映るは見覚えのない場所。剪定された背の低い植木、パンジーの入ったプランター、レンガが敷き詰められた地面と、この場を囲う白い建物。


「中庭だよ? ……もしかして記憶喪失!? ど、どうしよう、病院っ、救急車呼ぶ!? 頭とか打ってる……? あっ、先生呼ぶ!?」


「え、え、えと……落ち着いて……?」


 どうしようどうしようと慌てている『モモコ』を宥めながら、ユキホは自分の体を確認してみる。痛みを感じる場所はないから、彼女が心配するようなことは多分、無いと思う。寝ぼけてたかもなんて言って笑ってやれば、『モモコ』はそれなら良かったけどと、八の字の眉のまま言うのだった。


 ユキホは改めてよく彼女を観察する。『モモコ』が先ほど発した、中庭や先生という単語に加え、彼女の着ている服。


「きみはB組のユキホちゃんだよね?」


 学校だ。しかもユキホ自身までもこの学校に通っている設定らしい、と同じデザインの服の袖を撫でる。


「もう寒くなってくる時期だから、こんなとこで寝ないほうがいいよ?」


 ユキホが困惑したままの頭で返事をするから、『モモコ』はまた心配そうに、ユキホの顔を覗き込むのだ。その様子に、ユキホは急いで作り笑いを浮かべ、大丈夫、心配してくれてありがとう、などと言って安心を誘っておく。


「モモコーー!!」


 突如降り注がれる大きな呼び声に、二人は揃ってそのほうを見上げた。棟を繋ぐ渡り廊下、窓を開いて身を乗り出すその人の、紺碧色のショートヘアが目に入る。そしてそのすぐ横の少女は窓越しに手を振っていた。


「あっ!」


「お昼買えたーー?」


「買えたーー! すぐそっち行く!!」


 わかったあ、と手を振って窓から体を離し、二人はどこかへ去っていく。黄昏色のストレートロングだけが翻った。


「じゃあユキホちゃんまたね!」


「あ……うん、またね」


 カナエと、クララ。間違いなかった。雪穂が自分の中で描いていたキャラクター達に違いなかった。


「わたし……」


 雪穂は自分の作品の中に、どうしてか、迷い込んでしまっていたのだった。



 覚えのない記憶に従って放課後まで乗り切り、知らない道を慣れ親しんだ脚が歩いていく。そして勝手もわからない家の玄関を当たり前の様に開いて、ユキホは大きくため息を吐きながらベッドに体を沈める。


『先生が上手く内側からハッピーエンドを完成させて下さることを、密かに願っております。』


 怪文じみたあの手紙。”ジョーカー”に仕組まれた事なのだろうか、自分の描いた世界に紛れ込むなんて、あまりにも不可思議すぎる。中庭で目を開いてからずっと、ユキホの頭の中は疑問符だらけだった。けれど何か、何か義務感に駆られるのは何故なのか。どうにか、しなくては。


 あの子──カナエが死ぬ運命を、変えないといけない。


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