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馬車に揺られながら、リデルは深呼吸をする。

心がざわついて、落ち着かない。

お化粧も、コルセットも、ドレスもその全てが煩わしく、準備をする間もリデルの緊張は治まらなかった。

馬車での移動が永遠のように長く感じていたが、どうやら城についたらしかった。

いつみても大きくて要塞のような造りの城だ。

門の外にいても、中のピリ付いた雰囲気を感じることができる。


「サファイア公爵夫人、ご案内いたします」

「フィリックス……、久しぶりね」


サファイアの分家であるヴァイオレット伯爵家の出身騎士が、案内役として選ばれたらしい。

リデルもよく見知った騎士は、いつもの子犬のような笑顔ではなかった。

ぐっと、何かを耐えるような表情で、これから何が起きるかを暗示している様だった。

リデルの声がけに答えることなく、フィリックスは進んでいく。

後ろをついて歩いていると、大広間に付いた。

玉座には、ジュエリア国王エリッセイアが座っていた。

隣には王妃ソフィーが座っており、隣には第二王子のジークフリート、まだ幼い王女の姿はない。

その後ろには聖妃4名。

中央の聖妃、シャーロット・アレキサンドライト様。

ベリルの聖妃、ミラ・レッドベリル様。

ガーネットの聖妃、アメリア・アルマディン様。

オパールの聖妃、マリーシュ・オパール様。


他の公爵家の人間もおらず、王族と事情を知っている聖妃が集められたのだろう。

一挙に集められる視線が痛い。

ずんと、空気が重たい。

けれど、怯んでも仕方ないとリデルは顔を上げた。


「ジュエリアの太陽と月にご挨拶申し上げます。リデル・パパラチア・サファイア、召喚命令に従い、参りました」

「リデルよ、ここに呼ばれた理由がわかるか」

「サファイアの聖妃ノルティーネが死亡し、我が夫、ノクス・サファイアがアルフレッド殿下弑逆の疑いで捕らえられていると伺いました」

「そうだ。サファイアの推薦の聖妃が、王族を害した。この罪は計り知れん」

「……サファイア家への処罰はどのようなものでしょうか」


人払いがしてあるということは、公にする気がないということだ。

それがどういう意味を持つのか、内々に終わらせてくれるのか、それとも他の思惑があってのことか。

真意が分からず、けれど、リデルはまっすぐに王を見つめる。


「他の聖妃から、ノルティーネとアルフレッドが何度か口論しているところを見たという証言があった。……王族と聖妃が仲違いで無理心中などと。それを止められなかったサファイア公爵家も同罪だ。処刑は免れぬ」


ーー処刑。

その言葉を聞いて、体の力が全て抜けるような感覚だった。

それなのに、胃がキュッと締め付けられ、胃液が喉にせり出す。

ここで吐くわけにはいかない。

リデルはグッと、つばを飲み込む。


「ご再考、願えませんでしょうか」

「ならぬ。既にことはおきている、誰かが責任を取らねばならぬ。聖妃のことはその推薦家が責任を取ると決まっておる」

「……せめて、せめてアルフレッド殿下がお目覚めになり、ことの真実をお話いただくまで、夫を生かしてはいただけないでしょうか」

「リデルよ、気持ちはわかる。だが、これ以上長引けば他の公爵家や中央が出てくるだろう。そうすれば被害はもっと広がる。サファイア公爵も既に納得してることだ」


陛下は、ふう、と疲れたように溜息をついた。

うっすらとその目元には隈が浮いている。

今回の事件が、陛下にとっても予想外で大変なことだったということだろうか。


「サファイア家の存続は許可する。ヴァイオレット伯爵家からフィリックス卿を派遣し、次代が継承するまで、サファイア公爵代理とする。リデルよ、お前には選択肢がある」

「……選択肢、でございますか」

「現在サファイア領において一番能力の高いのはそなたで間違いないだろう。共に処刑されるか、サファイアの聖妃として城にあがるか、そなたに選ばせてやってもよい」

「……私は、聖妃を望みません。元より既に嫁いだ身、聖妃は身に過ぎます。……叶うなら、貴石として国の役に立ちたく思います。夫もそう望むでしょう」

「ふむ……」


貴石として国の役に立つ。

それは、自らの意志で胸の宝石を国に捧げることを意味する。

どうせ死ぬのなら、すこしでも国のために。ーーノクスも、そうするだろうから。

愛国心なんてものはないが、石になっても彼と一緒にいられるのならその方が私は幸せなのだから。


「その願い、受け入れよう」

「ありがとう存じます」


暴れることもなく、取り乱すこともなかった為か、丁重に檻の中へ入れられる。

罪人と言えど公爵夫人であるリデルの檻の中は、特に不便ではなかった。

監視役としてつけられたフィリックスが、こちらをジッと見つめている。

大丈夫よ、逃げたりなんてしないから。


「……最後に、ノクスに会いたかったわ」


叶わぬ願いと知りながら、ノクスだけでも生きてほしいと願う。

すべてが決まってしまえば、凪いだ波のようなこの気持ちをこれ以上荒らすことなどできなかった。

ノクスが、ノルティーネが、罪を犯すなんてあり得ない、けれど現実に起きてしまったことは誰かが責任を取らなくてはならない。

私が彼を救おうとした努力は、結局は実を結ばなかった。

それはそうだ、罪人の、それも実家にも力のないリデルを救って利益になる人間などいないのだから。

 

幸せな、愛する夫との暮らし。

それ以外望んでいなかったし、大きな贅沢や派手な暮らしも望みはしなかった。

ノクスといられるその時間が、私にとっての幸せだったのに。


それなのに、どうして。

私が何を間違ったって言うのだろう。

神様、どうか教えてください。


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