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その音で、誰がそれを鳴らしたのかわかる。

ノクスだ。控えめなノック音すら、リデルはたまらなく好きだった。


「どうぞ、入って」


ラムが扉を開けて、彼を招き入れる。

二人きりになれるよう、こちらが声をかける前にそのまま彼女は部屋を出た。

まったく良くできた侍女である。


「リデル、男爵との晩餐だが男爵は鴨肉が好きだったのであっているかい?」

「ええ、……一度話しただけだったのに、よく覚えてるわね」

「リデルの言ったことはすべて覚えているよ、だから今日も貴女の巣穴に招待してくれないか?」

「ええ、どうぞ。ようこそ私の巣へ。ふふっ」


クッションの巣の中にノクスを入れて、軽く口づける。

大きなノクスには小さい巣ではあるが、クマのような彼は私の作る巣の中に入るのが好きなようだった。

巣の中に本を持ち込んだり、お菓子を持ち込んだりしてすぐに解体されるがすぐにまたできるリデルの巣。


初めて巣を見られたとき、流石にまずいかしら?と思ったが、ノクスは微笑みながら許されるのなら、一緒に入れてくれないか?と誘ってきたのをいまでも覚えている。

きっと他の公爵家がみたら、卒倒するほどのシュールさに違いないが、公爵家の最奥にある公爵夫人の部屋になんて、他の人間が入ってくる隙はない。

ある意味完璧だ。


「お父様、ノクスと狩りに出かけられたら喜ぶわ、一緒にいってあげてね」

「ああ、もちろんだとも」

「ノクスはあまり狩りに出掛けないけど、上手いわよね、なぜかしら、才能?」

「いや、貴女が来るまでは大した趣味が無くて、昔とった杵柄ってやつだよ」


無趣味なの知っているだろうと苦笑するノクス。困り眉が大変可愛らしいくて、リデルはたまらない。

無趣味と言う割に彼は何でもそつなくこなす。

サファイアの当主の他に王室の書記官としての顔もある彼は多忙なはずだが、リデルに苦労をしてるという顔を見せてくれたことはない。


結婚して3年も経つのになんだか少し寂しい気持ちになってリデルは隣に座っているノクスの頬を抓る。


眉目秀麗な彼のその顔はそんなことでは崩れはしないのだけれど。


「痛いよリデル」

「罰よ」


一目惚れ、だったのだと思う。

夜空のような髪、深い海を連想させるサファイアの瞳。

ガッシリとした体躯は、書記官とは思えないほど鍛え上げられていた。


サファイア公爵家で、婚約の顔合わせで初めて会った際にリデルは彼に一目惚れした。

貴族同士の結婚なんて、所詮は利害関係のはずだ。

結婚式まで数回しか会わず、結婚してからも多忙な彼がこうして部屋を訪れて、自分と同じ目線で話をしてくれる。

惚れた相手に此処まで優しく尽くされているのは奇跡だと思う。


「何か貴女の気に障ることをしてしまったのかな」

「……秘密よ」


理不尽な理由だとわかっているので、リデルはその理由を告げることはない。

そうしてじゃれあっていると、先程席を外してくれた侍女のラムが他の侍女を引き連れて帰ってきた。


「お二人共、そろそろ準備しないとパパラチア男爵との晩餐に間に合いませんよ」


どうやらぎりぎりの時間まで、待ってくれていたらしい。

時計を見れば確かに少し急ぎ気味で準備しなければいけない時刻を指し示していた。

ノクスに軽くキスをして、また後でと見送る。


「待っててくれてありがとう。さぁ、準備しましょうか」


まずはお風呂から。

急いでいても完璧なサファイア公爵家の侍女達に、リデルはそう声をかけて久々のお父様との食事に浮かれながら準備を開始した。

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