断罪されて婚約破棄されました
アランフリードがリンドル王国に帰った後のシアルーンの話です。
「シアルーン.アドレイ公爵令嬢!お前は私に強い光と爆音を出す魔道具で、王太子たる私の身体に
傷を負わせた!王族の身体に傷を負わせたお前の罪は重い!
よって、王太子妃内定を取り消し、婚約を破棄する!」
この夜王宮で開催された舞踏会で、冒頭壇上に現れた王太子の宣言に、集まった貴族たちは驚いた顔を見せた。
そして、王太子の前に跪かせたシアルーンに好奇の目を見せた。
「王太子殿下、婚約破棄は了承致しました。しかし、王太子殿下に傷を負わせた罪というのは了承できません。
私は音楽室に閉じ込められた被害者です。
なぜあの時、私が音楽室に閉じ込められなくては
いけなかったのか?
なぜ、あの場に王太子殿下と騎士団の皆様がいらっしゃったのか?
その理由をお聞かせ願わなければ、到底その罪は承服できません!」
「な、なんと、私が其方を音楽室に閉じ込めたと言うのか!
私は、ここにいるオランドール王立学園の4年生、マイケル,クストーが王太子妃に内定している其方が男と密室で2人だけで閉じこもっいるとの報告を受け、あの場に駆けつけたのだ!」
王太子の横には、たしかに制服を着た男子学生が
いて頷いている。
「はい、私はアラン,バーキングという留学生がいる音楽室にシアルーン様が入っていかれ、2人きりで長い時間過ごされているのをこの目で見たのです!
ですから、すぐに王太子殿下にこの事をご報告しました!」
「えっ、シアルーン嬢は、男と密室で2人きりになられたのか…」
周りの貴族達のヒソヒソ話に、王太子は俄然強気になったようだ。
更に大きな声でシアルーンを糾弾する。
「私がその事を聞き、駆けつけてみれば其方は
魔道具で男を逃がし、私達に傷を負わせたではないか!
ここにいるマイケル,クストーは次の日のピアノコンクールで決勝に出るはずだったのだぞ!
それを其方の魔道具で耳と目をやられ、コンクールに出られなかったのだ!
其方の罪は重いぞ!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴る王太子は、シアルーンを睨み付けた。
「それもおかしいのです。音楽室の鍵は外側しか
かける事ができません。
私達は、外側から何者かに鍵をかけられたのですから、長い間過ごしたのではなく音楽室に監禁されたのです。
鍵を掛けた犯人は誰だったのか、ぜひお調べ願いたいと思います」
「くどい!鍵を掛けた、掛けてないは問題ではない!其方が男と2人でいた事実が問題なのだ!
男と何も無かったというなら、その男をここに連れて来い!
連れて来れない以上、其方の言い分は聞けぬ!
アドレイ公爵令嬢!其方は貴族籍を剥奪して平民に落とす!
公爵家からいかなる援助も罷りならん!
衛兵!この女を城から叩き出せ!」
王太子の命令に衛兵が駆けつけ、シアルーンを連れて出て行った。
「皆に紹介しよう。マリアンヌ.ラブレイ男爵令嬢だ。
来年の秋、私と結婚して王太子妃になる事になった。
さあ、皆も私の婚約を祝ってくれ!」
王太子の横にはピンクのドレスを着た美しい少女が立っていて、王太子の腕にギュッと捕まっている。
王太子が楽団に合図を送ると、すぐにその場を和ませるような明るい曲が流れだす。
その場の流れに付いていけないものもいたが、王太子と男爵令嬢のダンスが始まると、次々にダンスの輪が広がっていった。
城から衛兵たちによって放り出されたシアルーンは、秋の肌寒い暗い道を街に向かって歩いていた。
「やっぱりこうなったわね。あの時、王太子殿下が現れた事で、殿下の仕業かもしれないって思ったのよ」
悔しいが、国王も王妃も外遊中である。
父であるアドレイ公爵も領地に帰っていて王都にいない。
今、王太子の命令を阻止できる者はいないだろう。
寒空の下、普通の貴族令嬢なら平民落ちに心を折ってしまって、娼婦に身を落とす者もいただろうが、シアルーンは王家から降嫁した王女の血が流れている公爵家の令嬢である。
生まれつき魔力と治癒のスキルを持っていて、毎週のように神殿の治療院で貧しい平民の病気を治療していたのであった。
「とりあえず神殿で働かせていただけるようお願いしましょう」
シアルーンは、暗い馬車道を神殿を目指して歩いて行った。
その後を何者かの影が付いて行ったのをシアルーンは知るよしもなかった。