侍女アンナの後悔
今回の話は、1話の後起こった出来事を侍女アンナの目を通した話にして書いています。
時間軸が行ったりきたりでわかりにくいかもしれませんが、アランフリードとシアルーンがどういう状況に置かれているのか第三者目線でお読みください。
私は、アドレイ公爵家の令嬢でいらっしゃるシアルーン様の侍女をしておりますアンナと申します。
私がお仕えするシアルーン様は、極上のエメラルドの色をもつ瞳。長くて艶のある絹のような金髪の
王太子殿下の婚約者に選ばれた、それは美しい方でいらっしゃいます。
公爵家の令嬢でいらっしゃる方には、普通は子爵家や男爵家の出身の者が侍女として仕えるのが一般的ですが、ハウスメイドとして働いていた平民の私の仕事が丁寧で気に入ったとお嬢様に言われ侍女に抜擢してくださいました。
家庭経営の商家の出身の私にとっては、身に余るような大出世でございます。
お嬢様のお役に立てるよう身命を賭してお仕えしようと思っておりました。
ある日、いつものようにお嬢様の通われるオランドール王立学園で、授業が終わるまで待機しておりましたところ、王城から本日の王太子妃教育は、教師の都合で中止になったと連絡がございました。
今日は昼まで学園で、昼から王城に向かう予定でしたので、乗ってきた公爵家の馬車は帰しておりました。
このような場合、学園が持っている馬車を借りる事ができます。
私は、授業が終わるまでに借り馬車の手続きをしようと、お嬢様に行き先と内容を書いたメモを用意して、懇意にしている他家の侍女に渡してもらうよう頼みました。
学園の受付で思っていた以上に時間がかかり、教室に戻った時には、授業が終わってお嬢様の姿が見えません。
私はメモを預けた侍女を探し、お嬢様にメモが届いたのが確認しましたが、確かに渡したとの事。
近くにいた方が音楽室に楽譜を取りに行かれたのでは?と言われたので私はすぐに音楽室へと走りました。
そこで見たものは、近衛騎士団の物々しい警戒でした。
私は、音楽室にお嬢様がいらっしゃるから通していだだけるようにお願いしましたが、王太子殿下の
命令で通る事はまかりならんと通してくれません。
お嬢様が1人で音楽室にいらっしゃるのではと、私は気が気ではありませんでした。
しばらくして大きな音と強い光が辺りに響きました。
あれは以前、公爵様がお嬢様に護身用に渡された魔道具に違いありません。
なぜ安全な場所である学園の中で魔道具が使われたのでしょう?
音楽室にたくさんの騎士が入って行ったようですが、階段下からは何も見えませんでした。
すると2回目の轟音と光がしました。
お嬢様は、暴漢に襲われた時に自分だけ転送されて、私だけが取り残される事に不安をだかれ、公爵様にもう一つ買ってもらえるよう願われたのです。
平民が一生かかっても買えない金額の魔道具です。
一つはお嬢様が使わないたとして、もう一つは誰が?
私はここにはもうお嬢様はいらっしゃらないと確信があったので、私の腕を捕まえていた騎士の手を振り解いて公爵家に急ぎ帰りました。
「お嬢様、それでは男性と2人で音楽室に閉じ込められたのですか!」
「ええ、王太子殿下がそのように言われて入っていらっしゃいました。
もう男性と密室で密会していたと確信していた口ぶりでしたわ」
あのあと、公爵家の玄関にアラン,バーキングと名乗る男性が現れたそうです。
その男性が音楽室にお嬢様が閉じ込められていると。
自分もたまたま音楽室にいて閉じ込められ魔道具で脱出し、公爵家に助けを求めて来て欲しいと頼まれたと。
すぐに公爵様に連絡し、公爵様は騎士団を連れて学園に向かわれたのでした。
そのあと、公爵様は王太子殿下に令嬢を閉じ込めた事に謝罪を求められたそうですが、魔道具のせいで目と耳を傷つけられたと逆にシアルーン様を訴えると喚き散らし、無事だった騎士に付き添われ城に逃げられてしまったとの事でした。
公爵様は、証人になるアラン.バーキングと名乗った留学生を探しましたが、その留学生は既に卒業して寮を引き払っており、次の日行われたピアノコンクールに留学生の名は無く、優勝したのもアランフリード.クォン.リンドルと言われるリンドル王国の王子だったそうです。
閉じ込められた証人もおらず、王太子に対する傷害の罪でシアルーン様は訴えられてしまいました。
今晩もお嬢様の部屋の灯りは遅くまで点いています。
食欲も落ち、眠られない毎日を過ごしていらっしゃいます。
これからお嬢様はどうなってしまわれるのでしょう?
私はあの時どうしたらお嬢様をお守りする事ができたのか、ずっと考える毎日です。
どうか、お嬢様の心と身体が守られますように。
神さま、どうかお嬢様をお救いください…