二人の命を救いたい
由緒あるオランドールピアノコンクールで見事優勝を果たしたアランは、優勝賞品のスキルの魔道具〈癒しの風〉を手にすると、すぐにリンドル王国に帰国する為に飛行船に飛び乗った。
「お帰りなさいませ、アランフリード王子」
「ダウマン、国王陛下と王太子殿下の容体は?」
「はい、お二人とも神官が、24時間回復呪文をかけ続け、容体は一進一退との事でございます」
護衛騎士のダウマンの答えに「間に合ったか」
と呟いた。
実は彼はリンドル王国の第六王子で、本名はアランフリード.クォン,リンドルと言う。
リンドル王家は代々長生きの家系なのだが、当代の国王は、祖父で賢王の誉れ高い御年81才のマリウス国王。
王太子は、アランフリードの父ベルナルドで64才であった。
祖父と父は力を合わせ、平和で豊かな国を統治していたのであった。
しかし、ベルナルドの第一妃の父コルベール公爵は、孫の第一王子が今年40才になる事で、国王に即位する頃には、外祖父としての権力が握れないのではないかと焦り、孫の第一王子と第三王子を唆し王位の簒奪を持ちかけた。
彼らは、コルベール公爵が見つけてきた毒と呪いのアイテムを使って国王と王太子を病の床につかせたのだった。
第六王子で世継ぎに関わる事は無いと思ったアランフリードは、早くから王族から離れる事を決意し、伯爵家を継ぐ傍ら、ピアニストになって世界中を見て回ろうと思った。
由緒あるオランドール王立学園の音楽科で有名な師に付いて優れたピアニストになり、オランドールピアノコンクールで優勝すると同時に卒業してピアニスト人生を始めようとした矢先に、兄王子達が王立簒奪を目論んだわけである。
ピアノコンクールの優勝賞品は、〈癒しの風〉という魔法を覚えるスキル書だった。
このスキルを持つ者が演奏する曲を聞くと癒しの効果があり、気分が良くなるというものだが、王族で膨大な魔力の持ち主だったアランフリードは、演奏に魔力を乗せたら癒しの効果が大きいのではないかと考えた。
それで国王と王太子の病室で楽器の演奏をしようと計画したのだった。
「王子、陛下の寝室と王太子殿下の寝室にいる神官は、それぞれ夜中に10分間だけ交代の為に無人になる時間があるそうです」
ダウマンの言葉に、アランフリードは頷いた。
10分あれば魔力を乗せた〈癒しの風〉の風を演奏できるだろう。
昼の人の目がある時にすれば、コルベール公爵に気つかれて、妨害行為があるかもしれない。
アランフリードは、人目につかない夜を狙って寝室に侵入しようと考えた。
そこで手に入れたばかりのスキルを使う練習をしながら夜を待ったのであった。
真夜中の王宮で、国王の部屋を目指したアランフリード達は、神官と廊下の護衛騎士が話しているのを見つけ声をかけた。
「これはアランフリード王子、今ご帰国されたのですか?さぞご心配された事でしょう。
さ、さ、陛下にお見舞いなさって下さい」
コルベール公爵の陰謀を知らない神官は、部屋の扉を開け招き入れてくれた。
「ウーロン神官長お久しぶりです。
陛下に回復魔法をかけて頂きありがとうございます。
今さっき飛行船でオランドールから戻りました。
神官長は、これで次の神官と交代の時間ですよね?
神官の待機部屋に少ないですが飲食の準備をさせていただきました。
どうか、ゆっくりお休みになって下さい」
「侵入者は、時に正々堂々入った方が怪しまれない」
護衛のダウマンが窓から侵入しようとするアランフリードを引き止めて、正面から入るべきだと言うので迷ったが、神官があまりにも簡単に入れてくれたので
拍子抜けをしたアランフリードだった。
寝室に入ったアランフリードは、ベッドに横たわる国王の顔色が酷く悪い事に心を痛めた。
「爺様、俺が楽にしてやるから待ってろよ」
部屋には病人と2人しかいないが、真夜中に楽器の演奏で大きな音を出せば何事だと人が集まって来るだろう。
そう考えたアランフリードは、口笛を吹こうと決めていた。
曲は自分が小さい頃、祖父と祖母の所に遊びに行った時に歌った曲。
魔力を乗せて口笛を吹けば、国王の顔色がみるみる良くなって行く。
10分経つ頃には、国王の目が開いてアランフリードに声をかけた。
「ああ、アランフリード、帰って来たのか。お帰り。ワシは夢を見ていたよ。
亡くなった王妃とお前と3人でよく歌を歌ったな。あの時は楽しかったな」
「はい、お祖父様、楽しかったですね」
そう言って、また眠りについた国王におやすみなさいと声をかけ、アランフリードは部屋を後にした。
そして父の部屋でも口笛を吹いて癒し、彼は2人の命を救ったのだった。