スキルの進化
次の日の朝、ホテルの周りには僕に面会を求める人でごった返していた。
だから、王家が手を回してホテルの裏から城に脱出できたのは、だいぶ日が高くなった頃だった。
人前で能力を使った事に後悔は無い。
シアルーンを助ける為には、何回あの場面になっても同じ事をするだろう。
「あれ?」
僕は自分の身体に違和感を感じた。
いつも一晩寝たら回復する魔力が感じられなかったのだ。
昨日魔力を使い過ぎたからだろうか?
でも、この何も魔力を感じられないポッカリと穴が空いたような感じは初めてなような気がする。
僕がそのように考え込んでいるうちに城に着いたようだった。
国王の私室にある応接の間に着くと、アドレイ公爵とシアルーンがいて、彼らも呼ばれたようだった。
僕はシアルーンに駆け寄ると体調はどうかと尋ねたが、「まったく問題ありません」との答えで安心した。
国王陛下は、まずシアルーンに王太子の蛮行を謝罪した。
「令嬢に斬りつけるなど許される事では無い。
投獄されている王太子は、王太子位を剥奪し処刑
か遠島の刑にする。
他にシアルーンの気が済む刑罰があれば、その通りにするが、どうする?」
とおっしゃられた。
シアルーンは、しばらく考えていたが、刑罰を決める前に、なぜベルナール(元王太子)が斬りつけたのか知りたいと言った。
そこで一同は、地下にある貴族用の牢屋に行ったのであった。
そこは、貴族用とはいえ、ベッドしかない粗末な牢だった。
そのベッドに腰掛けて俯いていたベルナールは、訪れた4人の姿を見ると顔を上げた。
「ふん、私の処刑日でも決まりましたか?
こんな汚い所にわざわざ来られなくても、刑吏に
伝えれば済みますよ?」
「シアルーン殿がお前がなぜ斬りつけたのか、理由を知りたいと言われたのだ」
国王の説明にシアルーンは牢屋の前に近づいた。
「刑の執行をする前に、私はあなたの謝罪を求めます!」
シアルーンはベルナールの顔を見てそう言った。
「シアルーン様、貴女に斬りつけて申し訳ありませんでした」
ベルナールは、口だけの謝罪とわかるような棒読みで謝罪の言葉を述べた。
悲しそうな顔で、シアルーンはこう返した。
「その事ではありません。私が貴方の婚約者として過ごした時間を無駄にした事に謝罪して頂きたいのです。
私は、貴方の婚約者になって、毎日毎日、血の滲むような努力をして参りました。
即位された貴方の横に立つ為にです!
それを貴方に無駄にされたのです。
私は謝罪を受ける権利があると思います!」
泣きながら謝罪を求めるシアルーンにベルナールは、驚きの顔を見せた。
「えっ、あなたは頭の悪い僕に苛立っていたのでは無いのですか?
だからあっという間に王太子妃教育を終えて、学園も最優秀を取り続けて…」
「ええ、苛立っておりました。
だから自分の教育をさっさと終わらせて、態度が悪くて授業の遅れがある貴方をお手伝いをしようと頑張ったのです!」
シアルーンは、ベルナールを嫌って、自分の優秀さを見せつける為に良い成績を取り続けたのでは無かった。
全ては、ベルナールを引き上げる為。
彼が賢王として立った時に横で賢妃となる為に頑張ったのだった。
「そうだったのか。僕は頭は悪いし、持ってるスキルは最悪だし、それで嫌われてるとばかり…」
ベルナールは、突然膝を折って床に手をついた。
騎士が礼を取る姿勢でシアルーンを見つめた。
「シアルーン.アドレイ公爵令嬢殿、申し訳ありませんでした!
全て私の浅はかな考えから致した事です!
心から貴女に謝罪します!」
「許します!」
シアルーンは彼の謝罪を受け入れた。
「それにしても、スキルが最悪とはどういう事でしょう?
私、ベルナール様のスキルが何か存じておりませんが?
何度伺っても教えていただけなかったではないですか。
陛下、ベルナール様のスキルって何だったのでございましょうか?」
「!」
「いや!この話は聞かなかった事に!」
焦るベルナールに「コホン」と咳をした国王は
徐に口を開いてた。
「ベルナールのスキルは、世界の三大奇跡スキルと言われる〈蘇生の調べ〉〈移動の極意〉〈緑の宝〉のうちの一つ、〈緑の宝〉だ。
しかし、ベルナールはせっかく得たスキルを嫌がって、魔力が溢れて倒れる直前まで使おうとせんかった。
「緑の宝ですか?それはいったいどういう物でしょうか?」
「緑の宝は、馬や牛の糞など、肥料になる物を魔力で植物にとって素晴らしい栄養になる肥料に作り変える事ができるスキルなのだよ。
その肥料があれば、国中大豊作間違い無しだと言うのに」
「それだけはシアルーンに知られたく無かったのに!」
真っ青になって嘆くベルナールに4人は憐れみの眼差しを向けた。
「決めました陛下!ベルナール様の罰は、平民になって〈緑の宝〉で肥料を作るという罰にして下さい!」
「なんだってー!」
と叫ぶベルナールに、シアルーンは言った。
「だって、もったいないではないですか!
世界の三大奇跡スキルですよ?
処刑なんてさせません!
国の役に立っていただきます!」
「はい…承知致しました…」
すっかり意気消沈したベルナールを置いて、4人は牢屋を後にした。
「そういえば、先ほど世界の三大奇跡スキルに
〈蘇生の調べ〉という物があると伺ったのですが、
それはどう言う物でしょうか?」
応接の間に帰って休憩していた時にアランフリードは国王に質問した。
「うむ、三大奇跡スキルはあまりにも持ち主が少ない為によくわかっておらん。
癒しのスキルの変化したものかもしれないとは聞くがの」
アランフリードは、それを聞いて言った。
「実は、私は生まれつきスキルを持っていなかったのです。
それで魔力を放出するためにピアノコンクールの優勝賞品である〈癒しの調べ〉というスキルを得る為にこちらに来たのです。
しかし、斬られたシアルーン様の傷を癒す時に
使った力は、いつもと違う様な気がしたのです。
それに、今朝からなのですが、私の身体の中に魔力を感じません」
「何?」
国王は、侍従にスキル計と魔力計を持って来させた。
スキル計というのは、本の型をした魔道具である。
これに魔力を流すと、表紙の題名の所にスキル名が現れるようになっていた。
アランフリードの前に魔道具が置かれた。
それにアランフリードが手をかざすと、題名に薄く
〈蘇生の調べ〉と現れた。
次に、魔力計に手をかざすと、ほんの微量の魔力しか検知されなかった。
ついこの間まで、魔力は魔力計の最大値を示していた。
それがこんなに微量になるとは、どうした事なのだろう?
「シアルーンは、一度死んだのかもしれないな」
アドレイ公爵の言葉に皆がギョッとした。
「死んだシアルーンを生き返らせる為に、〈癒しの調べ〉が〈蘇生の調べ〉に進化したとしか考えられん」
あの時、死にそうだったシアルーンを〈癒しの調べ〉では追いつかないと、持っている魔力を全部使い果たして、スキルを〈蘇生の調べ〉にを進化させたのか…
アランフリードは、なんとなくそれが正しい答えの様な気がした。
「しかし、もう〈蘇生の調べ〉は使えないのでは無いか…。世界の三大奇跡スキルだぞ?」
国王の言葉にアランフリードは即座に答えた。
「まったく問題ありません。シアルーンが生き返ったなら惜しくも何ともございません」
あまりに即座に否定されて、4人はその場で大笑いをしたのであった。
そして1年後、リンドル王国の城の礼拝堂で、私とシアルーンは結婚式を挙げたのだった。




