表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高層ビル群の中央省庁で見えた事  作者: きつねあるき
2/10

第2章~昼休みに行った中央広場

 起床(きしょう)するなり、あの渡り廊下での一件が頭を()ぎりましたが、どのタイミングで現地に行けばいいのかを考える必要がありました。


 何故(なぜ)なら、中央広場の入り口には警備員が立っているので、用事もないのにうろうろしていると警戒(けいかい)されるからです。


 仕事で中央広場を横切る時は、場合によっては身分証を見せて行き先を報告させられる事もありました。


 なので、午前中に行く事は得策(とくさく)ではないと思い、とりあえずお昼休み迄待つ事にしました。


 お昼休みになると、他省庁にある食堂に行く為に、多くの職員が中央広場を行き来するので、その人波に(まぎ)れる事にしました。


 そして、やっと待ちに待ったお昼休みになったので、(はや)る気持ちを(おさ)えつつ小走りで中央広場に向かうと、いつも入り口で立ち番をしている警備員がいませんでした。


 それを見て、心底ホッとしました。


 もしかすると、近くに警備員がいるかもしれないと考えて辺りを見回しましたが、どこにも姿はありませんでした。


 昼食の交代時間なのだろうか?


「これはチャンスじゃないか!」


「このまましばらく警備員が戻って来なければ、中央広場でじっくりと調べていれも(あや)しまれないだろう」


 と思い、中央広場入り口を通り抜けると、数メートル歩いた先でもの(すご)い違和感を覚えました。


 何というか、体がどんどん重くなってくるのです。


 それでも、少しずつ前に進んで行くと、自分の顔の部分にだけ突風が吹き付けました。


 これは目にゴミが入ったら(たま)らないと思い、片手で顔を(かく)しギュッと目を(つぶ)りました。


 しばらくの間、強い風が自分の顔に吹き付けていましたが、数秒で治まったので、恐る恐る目を開くと明らかにさっきまでの風景とは違って見えたのです。


(ここからは、心霊現象が見えている表記になります)


 自分の意識がゾーンに入ると、まずは辺り一面がモノクロに見えるようになり、嫌~な風を全身に感じるようになりました。


 空を見上げると、カラスの大群が中央広場上空を不気味な感じで旋回(せんかい)しているのです。


 その、旋回しているカラスの飛行高度がドンドン下がってくるのです。


 (つい)には、自分の頭上付近まで数十羽のカラスが近付いて来たので恐怖(きょうふ)を感じていると、その中の一羽が急上昇したのを切っ掛けに他のカラスも上空に飛び去って行きました。

 

 「な、何なんだあれは…」


 とは思いましたが、一先(ひとま)ずは胸を()で下ろしました。

 

 中央広場の中心まで進んだ所で、飛び降りがあったと思われる渡り廊下の端の方を見上げると、その窓の後ろに人影(ひとかげ)が見えました。


「スススッー」


 っと、その窓が右側に開いたと思ったら、その男性の顔が正面から見えました。


 外回りの時に見た男性は横顔しか見えませんでしたが、この時自分は、


「あー、あの男性の正面の顔はこんな感じだったんだ…」


 と、思っていると、いつの間にか渡り廊下を見上げるように人だかりが出来ていました。


「ねえ、何あの人!」


「まさか、飛び降りるんじゃ…」


「おい!血迷うな、バカな真似(まね)はやめろ!」


「なあ、何があったか知らないけれど、こっちで話し合おう!」


「やめてぇぇぇ--」


 中央広場にいた人達は、早まった判断をしないよう口々に何かを(さけ)んでいましたが、男性は迷う事なく窓枠に足をかけると、一気に真下に飛び降りたのです。


「キャァァァ--」


 女性の悲鳴(ひめい)が上がると、その周辺にいた人達は蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げて行きました。


 飛び降りた男性が、地面に衝突(しょうとつ)した時に物凄い音がしました。


 表現するのは難しいのですが、巨大な水風船が落下して(はじ)け飛んだ時の様な感じでした。


 その場で(こし)を抜かしていた女性が1人いましたが、勇気のある男性2人が肩を貸してその場から遠ざけました。


 自分はそれを見てしばらく唖然(あぜん)としていましたが、どう考えてもおかしな事に気付きました。


「渡り廊下の真下では大惨事(だいさんじ)になっているのに、今自分の周りにいる人達は誰も(さわ)いでいない…」


「きっとこれは、他省庁の外回りの時に見た飛び降り自殺に違いない!」


 国家公務員は自殺が多いと聞いたことがありますが、あんなところに身投げが出来そうな窓があったら今後も飛び降りる人が()えないんじゃないか?


 と、思っていると、


 辺りの風景が、モノクロからパ~っとカラーに戻りました。


「あぁ、やっぱりさっきの飛び降り自殺は過去の出来事か…」


「それにしても、あの渡り廊下の窓には、二重に(かぎ)でも付けない限りまた飛び込みが起きるよな…」


 渡り廊下にある窓は、両端の2ヵ所を除いては開かない構造になっていました。


 では、その2ヵ所ある開閉可能な窓が、自殺のスポットになっていると思うでしょうか?


 その答えは、半分だけ否です。


 それは、1ヵ所の窓は人通りが多い通路のすぐ(わき)にあるので、人目に付きやすい為にそこから飛び降りる方はいませんでした。


 もう一方の端にある窓は、それほど人通りが多くないので、投身自殺のスポットはこちら側に集中していました。


 自分は、この時に見た中央広場での光景を、何日も忘れられずにいました。


 実際に、渡り廊下の端にある窓を、間近で見てみたいと強く思うようになりました。


 今度、他省庁に蒸気メーターの検針に行く時に、細川先輩以外の方と組んだら、ちょろっと寄り道をしてあの窓の後ろに立ってみようと思いました。


 細川先輩は気難(きむずか)しい性格なので、少しの寄り道も許してくれそうになかったからです。


 それには、いつもの外回りのメンバーである、仁藤先輩か三浦先輩と月末か月初めの熱源勤務にぶつかる必要がありました。


 そう思うや否や、次回の外回りがいつになるかを調べてみる事にしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ