第2章~昼休みに行った中央広場
起床するなり、あの渡り廊下での一件が頭を過ぎりましたが、どのタイミングで現地に行けばいいのかを考える必要がありました。
何故なら、中央広場の入り口には警備員が立っているので、用事もないのにうろうろしていると警戒されるからです。
仕事で中央広場を横切る時は、場合によっては身分証を見せて行き先を報告させられる事もありました。
なので、午前中に行く事は得策ではないと思い、とりあえずお昼休み迄待つ事にしました。
お昼休みになると、他省庁にある食堂に行く為に、多くの職員が中央広場を行き来するので、その人波に紛れる事にしました。
そして、やっと待ちに待ったお昼休みになったので、逸る気持ちを抑えつつ小走りで中央広場に向かうと、いつも入り口で立ち番をしている警備員がいませんでした。
それを見て、心底ホッとしました。
もしかすると、近くに警備員がいるかもしれないと考えて辺りを見回しましたが、どこにも姿はありませんでした。
昼食の交代時間なのだろうか?
「これはチャンスじゃないか!」
「このまましばらく警備員が戻って来なければ、中央広場でじっくりと調べていれも怪しまれないだろう」
と思い、中央広場入り口を通り抜けると、数メートル歩いた先でもの凄い違和感を覚えました。
何というか、体がどんどん重くなってくるのです。
それでも、少しずつ前に進んで行くと、自分の顔の部分にだけ突風が吹き付けました。
これは目にゴミが入ったら堪らないと思い、片手で顔を隠しギュッと目を瞑りました。
しばらくの間、強い風が自分の顔に吹き付けていましたが、数秒で治まったので、恐る恐る目を開くと明らかにさっきまでの風景とは違って見えたのです。
(ここからは、心霊現象が見えている表記になります)
自分の意識がゾーンに入ると、まずは辺り一面がモノクロに見えるようになり、嫌~な風を全身に感じるようになりました。
空を見上げると、カラスの大群が中央広場上空を不気味な感じで旋回しているのです。
その、旋回しているカラスの飛行高度がドンドン下がってくるのです。
遂には、自分の頭上付近まで数十羽のカラスが近付いて来たので恐怖を感じていると、その中の一羽が急上昇したのを切っ掛けに他のカラスも上空に飛び去って行きました。
「な、何なんだあれは…」
とは思いましたが、一先ずは胸を撫で下ろしました。
中央広場の中心まで進んだ所で、飛び降りがあったと思われる渡り廊下の端の方を見上げると、その窓の後ろに人影が見えました。
「スススッー」
っと、その窓が右側に開いたと思ったら、その男性の顔が正面から見えました。
外回りの時に見た男性は横顔しか見えませんでしたが、この時自分は、
「あー、あの男性の正面の顔はこんな感じだったんだ…」
と、思っていると、いつの間にか渡り廊下を見上げるように人だかりが出来ていました。
「ねえ、何あの人!」
「まさか、飛び降りるんじゃ…」
「おい!血迷うな、バカな真似はやめろ!」
「なあ、何があったか知らないけれど、こっちで話し合おう!」
「やめてぇぇぇ--」
中央広場にいた人達は、早まった判断をしないよう口々に何かを叫んでいましたが、男性は迷う事なく窓枠に足をかけると、一気に真下に飛び降りたのです。
「キャァァァ--」
女性の悲鳴が上がると、その周辺にいた人達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行きました。
飛び降りた男性が、地面に衝突した時に物凄い音がしました。
表現するのは難しいのですが、巨大な水風船が落下して弾け飛んだ時の様な感じでした。
その場で腰を抜かしていた女性が1人いましたが、勇気のある男性2人が肩を貸してその場から遠ざけました。
自分はそれを見てしばらく唖然としていましたが、どう考えてもおかしな事に気付きました。
「渡り廊下の真下では大惨事になっているのに、今自分の周りにいる人達は誰も騒いでいない…」
「きっとこれは、他省庁の外回りの時に見た飛び降り自殺に違いない!」
国家公務員は自殺が多いと聞いたことがありますが、あんなところに身投げが出来そうな窓があったら今後も飛び降りる人が絶えないんじゃないか?
と、思っていると、
辺りの風景が、モノクロからパ~っとカラーに戻りました。
「あぁ、やっぱりさっきの飛び降り自殺は過去の出来事か…」
「それにしても、あの渡り廊下の窓には、二重に鍵でも付けない限りまた飛び込みが起きるよな…」
渡り廊下にある窓は、両端の2ヵ所を除いては開かない構造になっていました。
では、その2ヵ所ある開閉可能な窓が、自殺のスポットになっていると思うでしょうか?
その答えは、半分だけ否です。
それは、1ヵ所の窓は人通りが多い通路のすぐ脇にあるので、人目に付きやすい為にそこから飛び降りる方はいませんでした。
もう一方の端にある窓は、それほど人通りが多くないので、投身自殺のスポットはこちら側に集中していました。
自分は、この時に見た中央広場での光景を、何日も忘れられずにいました。
実際に、渡り廊下の端にある窓を、間近で見てみたいと強く思うようになりました。
今度、他省庁に蒸気メーターの検針に行く時に、細川先輩以外の方と組んだら、ちょろっと寄り道をしてあの窓の後ろに立ってみようと思いました。
細川先輩は気難しい性格なので、少しの寄り道も許してくれそうになかったからです。
それには、いつもの外回りのメンバーである、仁藤先輩か三浦先輩と月末か月初めの熱源勤務にぶつかる必要がありました。
そう思うや否や、次回の外回りがいつになるかを調べてみる事にしました。