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高層ビル群の中央省庁で見えた事  作者: きつねあるき
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第1部~中央広場から見上げた渡り廊下 第1章~他省庁に検針に向かった時

 皆様は、中央省庁というとどんな印象をお持ちでしょうか。


 全国からエリートが集結して、お国の為にバリバリと仕事をする集団だと思うでしょう。


 実際に、公務員試験にはいくつものランクがあり、総合職に合格出来る方はごく(わず)かでしょう。


 総合職の中でも人気の省庁に入れる方は、更に(せま)き門になっています。


 省庁に入ると、事務室内では常に国会中継が流れていたり、組閣(そかく)の度に準備で大忙しになります。


 その中で一番腕が試されるのは、各部署が1円でも多く予算を取る事と、前年度分の予算を全て使い切る事に他なりません。


 何故(なぜ)なら、予算が余っても翌年度には繰り越せないからです。


 なので、組まれた予算についてはとにかく使い切る事が求められます。


 何とかして予算を多く取った場合でも、それで終わりという訳ではありません。


 既存(きそん)の案件のままでは予算が消化出来ないので、新規の案件を考えないとなりません。


 その制度に疑問を感じて節約しようとする方もいますが、結局は予算消化の波には逆らえません。


 何故なら、その先には出世が(から)んでいるからです。


 皆様が負担に感じている消費税についても、増税案が本決まりになると、消費増税の前に増収分を見越した予算の分捕り合戦をしているのが実情です。


 役人さんは出世するの為に、1円でも多く予算を取る事が出世条件の為に、あらゆる理屈を付けてでも増税路線をひた走る事を求められます。


 それが、どんなに経済状況が悪化していても、国民が苦しんでいるのが分かっていても、その組織にいる以上は不可避の事象(じしょう)なのです。


 もっと言えば、良からぬ事であったとしても、各部署が予算を増やし消化し続ける事こそが、役人さんにとっては使命となるのです。


 いろいろな思惑が交差するものの、中央省庁ではそこで(役所の敷地内)無念の死を迎えた者がいても、それが表に出る事はありません。


 当然ではありますが、国のイメージを損なう事になるからです。


 しかしながら、そこで絶命した方々は、心霊が見える者によって見続けられている事でしょう。


 心霊の見え方は人それぞれですが、そこで自分が見た事について述べていこうと思います。


 今回のお話は、1997年~2003年(平成9年~15年)の事になります。


 かつて自分が、東京の霞ヶ関(かすみがせき)にあるとある中央省庁でビルの設備管理業をしていた時に見た事柄を、3部構成で(まと)めてみました。


 中央省庁は、直接国に関わる仕事をするので、役人さんは全国から()りすぐりの方が年度初めに集まってきます。


 そこで新しく入省される方は、希望とやる気に満ち(あふ)れているのだと思いますが、実際に中に入るといろいろな葛藤(かっとう)(さいな)まされます。


 自分が勤務していた中央省庁の立地は、中庭というか四角形の中央広場があり、その1辺に面していました。


 他の3辺は、他省庁のビルがそれぞれ中央広場に面していました。


 要は、自分が勤務をしていたビルを含めて、4棟のビルが中央広場を囲うような構造をしていました。


 更に言うと、4棟のビルの1部では、お互いの省庁に往き来がしやすいように渡り廊下で連結されているのです。


 その渡り廊下が、ビルに囲まれた中央広場から良く見えるのです。


 第1部では、その中央広場と渡り廊下での出来事を書いていきます。


 それでは、本題に入りたいと思います。


 自分が、ある中央省庁の設備管理員になって、1年が経った時の事になります。


 そのビルの地下は地域冷暖房になっており、他省庁の熱源負荷に蒸気を送っていました。


 よって、朝早くからボイラーを起動して、決められた時間迄にヘッダーの圧力を上げて、他省庁の熱源の負荷に沿った供給を求められていました。


 それに対応するは、前日の夜から如何(いか)にボイラーの準備をしておくかが(かぎ)でした。


 普段、熱源担当の勤務の時は、朝イチの高負荷になる蒸気供給さえ乗り切ってしまえば、あとは楽になるのですが、熟練の域に達するまでが大変でした。


 他に大変な勤務では、1ヵ月に2回他省庁にある現地の蒸気メーターの場所まで出向いて行く検針がありました。


 ある月末の熱源勤務の日に、他省庁に送っている蒸気メーターの検針をする為に、細川先輩と一緒に外回りをすることになりました。


 他省庁の蒸気メーター値は、7時30分~8時の間に先方から毎日電話で報告がありますが、古い慣習の為に月末と月始めには他省庁の機械室まで直接検針に行かないとなりませんでした。


 とはいえ、現地まで行ったところで検針の値がほぼ一緒なので、つい、先輩に愚痴(ぐち)ってしまいました。


「あの~、細川先輩、これって行く意味あんですかね?」


「そういう事を言うなよ、仕事がある以上我々の存在意義があるんだから」


「まあ、それはそうなんですけどね…」


「それに、相手先のサインをもらう(らん)があるから、サボれないようになっているんだよ」


「う~ん、役所仕事は1度決まると、余程の事がない限り変わらないですからね…」


「いいから早く用意して行くぞ!検針表と懐中電灯は持ったか?あと、寒いなら防寒着を着ていってもいいぞ」


「はい、分かりました…」


 外回りに行ってから熱源監視室に戻って来るまで、約1時間半かかるのですが、そのルートを覚えるのに最低3回は行かないとなりませんでした。


 それに、他省庁の入り口で毎回通行証(身分証)を見せないといけないのですが、通常の警備の時は自分が勤務している省庁の身分証で入れるのですが、海外から要人が来るとかで特別警戒(けいかい)をしている時は、入り口で30分以上も足止めを食らう事も屡々(しばしば)ありました。


 身分証や検針表を見せても長々と足止めを食らう時には、担当の役人さんに電話をして代わってもらう事もありました。


 なので、寒い日に大した距離じゃないからといって、薄着(うすぎ)で出向くのは由々しき問題になる事があるので、先輩方は必ず防寒着を持って出掛けていました。


 外回りに行く人はだいたいメンバーが決まっていましたが、休む人もいるので(たま)に自分にも回ってきました。


 ある他省庁の地下には、駐車場を(はさ)んですぐ目の前が次に検針に行く他省庁の入り口になっている所があるのですが、そこをショートカット出来れば外回りは半分の時間で済みますが、規則上出入りは正面通用口からだけなので、かなりの大回りをしなければなりませんでした。


 他省庁の機械室は、どこも最下層階にあるので、迷ったとしても只管(ひたすら)下の階を目指して行けばいいのです。


 外部から他省庁の中に入るには、身分証を提示しないといけないので、自分はちゃんと財布に入っているか確認しました。


 その日が初めての外回りだったので、細川先輩に同行して(もら)う事になりました。


 さっきまで気さくに話していた先輩でしたが、一旦省庁の外に出ると急に(けわ)しい表情に変わり、無言のまま早足で進んで行きました。


 他省庁の蒸気メーターの検針は4ヵ所あるのですが、2ヵ所目の機械室を出て3ヵ所目の機械室に案内して貰っている途中に渡り廊下の左横に差し掛かりました。


 何気なく左側にある渡り廊下をチラッと見ると、廊下の奥の方に1人の男性が(たたず)んでいました。


 何をしているのかと思って目を細めて見ていると、渡り廊下の1番端の窓をスッと横に開けて窓枠に足を掛けたのです。


「ま、まさか!」


 と、思っていると、その男性は躊躇(ちゅうちょ)する事なく渡り廊下の窓から飛び降りたのです。


「えっ?これは飛び降り自殺か…」


 自分は、さーっと血の気が引いていくのが分かりました。


 その数秒後、ハッと我に返り、


(さぞ)や中央広場では大騒(おおさわ)ぎになっているだろう!」


 …と、思いましたが、地上では騒がしい様子はありませんでした。


 ふと、自分はその窓の近くに、フラ~っと行こうとしました。


 すると、細川先輩が、


「そっちじゃないよ!」


「これから向かう場所は直進した所だよ!」 


 と、言うので、


「すいません、この先がどこに(つな)がっているのか気になってしまって…」


 と、誤魔化(ごまか)しましたが、


「いいんだよそんなこと!他省庁の設備員は我々の検針を待っているんだから」


 と、(まく)くし立ててきたので、先程の事が気になりましたが職務に戻る事にしました。


 残りの検針に向かう途中、外回りの経路を覚えないとならなかったものの、渡り廊下での出来事をいろいろと考えてしまっていました。


「確か、細川先輩も渡り廊下の方を見ていたな…」


「でも、自分を呼びに来る前は、一旦渡り廊下の横を通り過ぎるフリをして、少し先に(かく)れていたよな…」


「そして、頃合いを(はか)ってから声を掛けてきたような…」


「これは一体どういう事だろう?」


 熱源監視室に戻ってからも、あの渡り廊下での一件が頭から離れませんでした。


 しかし、検針表を作成する仕事が残っていたので、気持ちを落ち着かせて仕事に集中しました。


 仕事が一段落すると、またさっきまでの記憶が(よみがえ)ってきました。


「そうだ!明日中央広場から、飛び降り自殺をしたと思われる渡り廊下の端の方を見上げてみよう」


「そうしたら何か分かるかもしれない」


 そう思い、次の日に早速中央広場に行ってみる事にしました。

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