9.知りたい? 【舞視点】
今回は舞視点でのお話なります。
私としては、自分の気持ちを行動にして表したに過ぎなかった。
だけど、ショウくんは私がキスすると、みるみる青ざめていった。
そして、ショウくんはまるで猛毒を飲まされたみたいに嘔吐した。私が背中をさすってもショウくんは一向に良くならなかった。
なぜそうなってしまったのか、理由は全く分からない。けれど、私が原因であることは間違いなかった。
ショウくんは「舞は気にしなくていい」と言ってくれたけど、カラオケに行った日から私のことを避けるようになった。
避けると言っても、シカトしたりはしない。ただ、ショウくんは私と二人きりになるのを極端に嫌った。
ショウくんは私と二人きりになることがあると、具合が悪くなる。時には保健室に連れて行かなければならなくなるほどだ。
――私がショウくんを苦しませている。
その事実が私に重く伸し掛かった。
傍にいて何かしてあげようにも、私が傍にいるとショウくんは途端に体調を崩す。もどかしくて仕方がない。
そして最近、何故か同じクラスの森崎くんと一緒にいることが多くなった。
別に私から積極的に彼に近づいた訳じゃない。私がショウくんに話しかけようとすると、ショウくんが森崎くんにも声をかけるのだ。
次第にクラスメイトが噂し始めた。私と森崎くんが付き合っているのではないかと。
クラスの雰囲気が私を森崎くんとくっ付けさせようとしていて、凄く嫌だった。
それだけじゃない、ショウくんさえも「お似合い」だとクラスメイトと話していた。
私が好きなのはショウくんなのに……。
あれ以来、いつからか私には声が聞こえるようになった。その声は、私にいつもこう語りかけてくる。
(聖太くんが君を避ける理由、知りたい?)
何処からともなく聞こえてくるその声。私は最初、幻聴だと思って相手にしなかった。
(ねえ、知りたいでしょ? 無視しないでよ)
だけど、あまりにもしつこかった。病院に行こうとも考えたけど、日常生活に支障が出ることはなかったので私は無視し続けた。
悶々とする日々が続いた。クリスマスが間近に迫ったある日、反応しない私に飽きもせず、またしてもその声は話しかけてくる。
(このままだと聖太くんにフラれちゃうよ? いいの?)
あぁもう! うるさい! 部屋で勉強してる時くらい静かにしてよ!
(うるさいか……。君は自分の罪から目を背けるんだね。愛する人を苦しめたことに、何とも思わないんだね)
「――ッ!!」
私はとうとう我慢出来なくなった。
ショウくんが苦しんでいる理由、それが分かれば苦労はしない。だから私は悩んでいる。
そのことを知らずにズケズケと人の心に踏み込んできて、無性に腹が立ったのだ。
「じゃあ教えてよ! 私に何の罪があるの? どうせ私の心の声なんだから何も知らないんでしょ!」
(あ、やっと話を聞いてくれる気になった? あーでも、聞くより見てもらった方が早いかも)
「ふん! やっばり何も知らないんじゃない!」
(まあまあ、そう言わずに……。目を閉じてもらえば分かるから)
どうせ何も起こりはしない、そうたかをくくって目を私は目を閉じた。
されど予想に反し、瞳を閉じた途端、あっと言う間に私の意識は何処かに吸い込まれていった。
………………
…………
……
★★★★★
「ここは……」
気が付けば、私は学校の屋上にいた。
「!!」
急に私の前に、無数の光の玉が現れた。光の玉は一ヶ所に集まり、人の形を形成し始める
「やあ、初めまして。舞ちゃん」
そして、小学生くらいの子供が現れた。
その子は中性的な顔立ちをしており、男の子であるのか、女の子であるのかは容姿から判別が付かない。
背丈で言えば、私より顔一つ分くらい小さい。これぐらいの身長であれば、恐らく低学年だろう。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。一体何がどうなって――。
「自己紹介がまだだったね。ボクの名前はリューエン。よろしくね」
「あなたは……」
「さっきまで話してたでしょ?」
「え?」
毎日、頭の中に語りかけてきたのは、どうやら彼(彼女?)らしい。
リューエンと名乗る彼は、言葉では言い表せない独特のオーラを纏っている。
本能が告げていた。リューエンは神、もしくはそれに近しい存在なのだと。
「これから君に見せるのは、聖太くんが歩んだ二十五年」
「何を言ってるの?」
二十五年? どう言うこと?
ショウくんも私もまだ十代。過去を見せるにしても明らかに数字がおかしい。
「信じられないかもしれないけど、今の聖太くんは未来から来たんだ」
「はぁ?」
未来から来たというのであれば、ショウくんはもっと年相応の容姿となっているはずだ。学校で見たショウくんの姿は青年だった。
「言い方が良くなかったね。未来の聖太くんの意識をこの時代に飛ばしたんだ。ボクの力を使って」
「そんなことできるの?」
「できるよ。ボクならね」
きっとこの特別な存在にとっては、時を越えることなど造作もないことなのだろう。
しかしわからない。ショウくんが未来から来たと言って、私を避けるだろうか。
ショウくんはいつも傍にいて、私のことを守ってくれていた。未来においても、きっとそれは変わらないはずだ。
私自身、ショウくんの傍から離れるつもりはない。これからは、ショウくんのことを助けると誓ったのだ。
「フフフ、やっぱり気付いてないみたいだね」
「何が?」
「未来の君は、聖太くんから距離を取る選択をしたんだよ」
「嘘! そんなことあるわけない!」
「そう思うかい? 見てごらん。あれが未来の舞ちゃんが取った行動だよ」
そう言うと、リューエンはグラウンドを一望できるフェンスがある方向を指差した。
そこにいたのは、ショウくん、森崎くん、そして……私!?
「あれ?」
駆け寄って、ショウくんに触れようとしたが、すり抜けてしまった。
「無駄だよ。だってこれは聖太くんの記憶なんだから、触ることなんてできないよ」
ショウくんはすぐ近くにいる私に全く気付いていない。私からは一切干渉できないようだ。
私、ショウくん、森崎くんの三人は何か話をしていた。その話の内容は恐るべきものだった――。
『ショウくん、私、森崎くんと付き合うことになったの』
私が、ショウくんに向かってふざけたことを吐かしたのだ。